多くのプログラマーを育てた「ファミリーベーシック」とは?

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 今やすっかり私たちの生活に浸透したFacebookやTwitterですが、ここにきてFacebookの株価下落やTwitter離れなど、その人気に陰りが出てきたことも指摘されています。
 『ソーシャルもうええねん』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション/刊)の著者でエンジニアの村上福之さんは、本書のなかでSNSやTwitterの語られることのない裏側に切り込み、これらの現象の原因についてつづっています。
 今回は村上さんご本人にお話をうかがい、ソーシャルメディアの実態と今後の展望を語っていただきました。後編の今回は、本書のもう一つのテーマともいえるIT従事者のキャリア・独立についてお聞かせいただきました。

―2章ではIT企業で働く人のキャリアについて触れられています。特にヒット商品を出したエンジニア・プログラマーのその後のお話が強く印象に残ったのですが、コードを書くのが好きだったエンジニアが、いつの間にか社内調整や会議に追われるようになってしまうのは悲劇的です。こういった職種の人が好きな仕事をやり続けるためには、やはり独立するしかないのでしょうか。

村上「会社ってどうしてもそうなってしまうんですよね。これは、エンジニアに限らずどの職種でも同じだと思います。成果を出す人ほど、いらない会議に呼ばれることが増えてどんどん時間が潰れていってしまう。
ただ、会社よってはある仕事のスペシャリストとしてのキャリアパスを残しているところも増えています。プログラマーであれば、ずっとコードを書いていてくださいね、ということで、“○○フェロー”だとか“○○スペシャリスト”っていう肩書を作って、その会社に残れる制度ですね。大きな会社は割とそういうのがあります。
でも、この制度には問題があって、スペシャリストとしてのキャリアパスを持った瞬間、給料の上限が決まっちゃうんですよね。役職も、管理職にはなれるかもしれないけど、技術部門の管理職に限られてしまうんです。大きなメーカーだと研究所の所長くらいまでで、専務とか取締役になるのは厳しいと思います」

―それでもいい、という人にとっては長く会社にいられますし、いい制度なのかもしれませんね。

村上「そうですね。逆に小さすぎる会社だと、多少上の方にいってもバリバリ現場をやらないといけなかったりします。10人とか20人くらいの会社だと、CTO(チーフテクニカルオフィサー)がソースコード書くのも珍しくありません。
有名なところだと家庭用ゲーム機のソフト開発をやっているHAL研究所ですね。任天堂の社長の岩田さんは、もともとHAL研究所の社長だったんですけど、『MOTHER2』までソースコードを書いていたっていう話があります。スタッフロールに名前がありますからね(笑) そういう生き方もあります』

―エンジニア・プログラマーとして独立する時に陥りがちな落とし穴として、どのようなものがありますか?

村上「独立したエンジニアがまずわからないところは、“普通の人”にもわかりやすく会話するっていうところです。どうしても専門用語が入ってしまうので、僕もできるようになるまでにすごく時間がかかりました。
今でもしゃべる時とか、ブログを書く時はあまり技術用語をできるだけ入れないようにしています。
あとは、自分が提供した技術に対する値段の付け方がわかるまでは時間がかかりましたね。
例えば、核融合を使って米を炊く炊飯器を作ることって技術的には可能なんですよ。でも、それには当然何億円もかかります。“核融合を使って今までにないくらいふっくらとごはんが炊けます”という炊飯器のために何億も出す人がいるかっていうとあまりいませんよね。でも、作った技術者は“これはすげえ!何億円もの価値があるぞ!”ってなりがちなんです。そのギャップを埋められるようにならないといけません」

―次に、エンジニアとしてではなくいち起業家としての村上さんにお聞きしたいのですが、独立・起業全般について気をつけるべきことがありましたら教えていただければと思います。

村上「僕は、働くことって基本的には世のため人のためだと思っています。でも、残念ながら会社作った時にみんな陥るんですけど、お金ばかり追って“世の中金だぜ!”モードになるんですよね。僕もなりましたし、なってもいいと思うんですけど、それをずっとやっていると友達とか協力してくれる人がどんどん減ります(笑) 一時的に“世の中金だぜ!”になるのはいいですけど、できるだけ早くそれじゃいけないってことに気づいてほしいですね。
一度それで痛い目にあって、早く失敗して“働くのは世の中のためであって、そうじゃないと協力してくれる人が減って売り上げも上がらない”っていうことに気づいた方がいい、というのは言いたいです」

―なぜ“世の中金だぜ!”モードになってしまうのでしょうか?

村上「普通の会社員で月収50万っていうとまあまあもらっている部類じゃないですか。僕がメーカーで働いていた時の月給は25万円くらいでしたから。
でも、独立して事業を始めると、いきなり100万200万っていうお金が入ってくるから、月25万円の感覚でいると“すげー!”ってなる(笑) でもそれって個人のお金じゃなくて会社のお金ですよね。それを分けて考えられないとすぐクラッシュします。
会社って月の売上が社員数×100万円くらいないと飯食っていけないんです。100万、200万のお金なんて会社やってたらすぐなくなるよ、と(笑)」

―村上さんご本人についてお話を伺えればと思うのですが、ITやプログラミングの世界に興味を持ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

村上「おかんがファミコンのゲームを買ってくれなかったから自分で作ったっていうことがきっかけといえばきっかけだと思います。
昔、『ファミリーベーシック』っていう、ファミコンに繋ぐとプログラムを打てるっていう機械があったんですよ。値段は14800円だったからファミコンソフト3本分くらいですよね。その値段でゲームを無限に作れるんですからこっちの方が安い!ってなった。ところが、多くの小学生にとってはプログラムを書くなんて苦痛じゃないですか。僕も小学生時代はまだアルファベットがわからないっていう状態でしたしね。それでもがんばって何とか使っているうちにだんだんできるようになっていきました。
ゲームって遊ぶより作る方が断然時間がかかるんですよね。だから、作り続けていると大量に知識がついていくんですけど、全然ゲームをしなくなる(笑)」

―当時、今で言う“電子専門学校”のようなものはあったんですか?

村上「あったと思いますけど、僕くらいの世代でプログラミングを学んだ人は、そういうところで学んだ人ってほとんどいないと思います。当時は中学生高校生向けのプログラミング雑誌が結構あって、それに投稿して掲載されるのがステータスだったんです。そういうので学んだっていう人は多いと思います。オールナイトニッポンのハガキ職人みたいなノリですよね。
今はブログとかになっちゃったからステータスがなくなってしまいましたけど、昔は全国の書店に並んじゃったりしましたからね。自分のきったないソースコードが(笑)」

―起業しようと思ったのはなぜなのでしょうか。

村上「理由ということだと、離婚したことと勤めていた会社を辞めたことが挙げられます。
会社辞めてからしばらくバックパッカーをやって海外をふらふらしていたんですけど、その時に人間的にはすごくダメなんですけど、自分で事業をやってる人にたくさん会ったんですよ。1日中マリファナを吸っている英語学校のオーナーとか、オーストラリア在住のイタリア系アメリカ人でイタリアとアメリカとオーストラリアの生活保護を全部もらって、その資金を元手にシェアハウス事業をやってる奴とか。そういう人でもビジネスオーナーになれるなら自分でもできるんじゃないか、と思ったのもあります。

―今後、村上さんはお仕事を通してどのようなことを成し遂げたいとお考えでしょうか。

村上「ニートになりたいです。働かずに生きていきたい。できれば来年くらいに(笑)
それは冗談として、面白いことをやっていたらいいんじゃないですかね。
パナソニックの社是に“産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り世界文化の進展に寄与せんことを期す”っていうのがあるんですけど、僕も産業をやっていくのであれば、文化と社会に影響を与えないものは意味がないと思っています。例えば、ゴールドマンサックスはすごくお金を儲けてますよね。新入社員のボーナスが1800万とかで、トップの方だとそれこそ10億とか20億稼いでる。じゃあみんなゴールドマンサックスを尊敬しているかといったらそんなことはない。一方で、ニワンゴっていう会社があって、今は結構利益が出ていますけど最初の方は全然出てなくて、どう考えても回線を食い潰してるだけだったけど、ニコニコ動画はすごくたくさんの人が観ていて、社会と文化には大きな影響を与えています。
ゴールドマンサックスとニワンゴ、どっちがいいかっていったら、社会と文化においては後者だと思うし、お金においては前者ですが、僕は社会と文化に影響を与えることをしないと世の中良くならないと思っていますし、そういうことをやっていきたいと思っています」

―本書は、1章についてはネットを使う全ての人が読むべきお話で、2章以降はIT関連の仕事をしている方、これからしようと思っている方にとって興味深いお話なのではないかと思いましたが、村上さんは本書をどのような方々に読んでほしいとお考えですか?

村上「全人類です(笑) 外国人の方もおじいさんもおばあさんも」

―では、最後になりますが、全人類の方々にメッセージをお願いします。

村上「ブログに書いた内容もあるので買ってねとは言いません。人生っていうのは前を向いてまっすぐ生きていたらそのうちいいことがあるんじゃないかと思います」
(取材・記事/山田洋介)



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