実話をモチーフにした“親子の絵本”

 大切な人が亡くなったとき、その存在の大きさを改めて感じます。そして、生前にもっと孝行すればよかった、自分はすごく愛されていたと故人を悼み、自分自身を見つめ直します。

 昨年3月11日に発生し、たくさんの尊い命を奪っていった東日本大震災。
 小学校3年生のとある女の子も、あの震災で母親を亡くしました。
 ある日、女の子とその兄姉に一通の手紙が届きます。それは亡くなったはずの母親から。実は地震が起こる2年前にその手紙は書かれました。
 ランドセルメーカーの協和が行っている「未来へつなぐタイムレター」によって送られてきたもので、初めて子どもがランドセルを手にしたときの感動を親や祖父母が手紙に託し、その1000日後にその子に届けるというプロジェクトです。
 手紙には兄妹たちへの感謝と願いがつづられていました。

 このエピソードは大きな反響を呼びましたが、それをモチーフにして創作されたのが、絵本『かあさんのこもりうた』(こんのひとみ/作、いもとようこ/絵、金の星社/刊)です。

 まだ小さなぼうやぐまはかあさんぐまの子守唄を聞きながらいつも眠ります。その内容は、「ぼうやとかあさんはいつもいっしょ」というもの。また、にいさんぐま、ねえさんぐまも子ども部屋まで聞こえてくるあたたかい歌声の中で眠ります。外には、そんなかあさんぐまの子守唄を真似するまねっこどりがいて、かあさんぐまとそっくりな声で歌います。このまねっこどりはまねっこするのが大好き、いつも誰かの声のまねをしながら空を飛びまわっています。
 ある日、木のてっぺんにいたまねっこどりは、遠くから大きな黒い雲がすごい勢いで近づいてくるのに気付きます。みんなに知らせようと必死に「嵐がやってくる!」と叫ぶまねっこどりですが、みんな「誰かの真似だろう」と思い、その声を気にとめません。かあさんぐまも林檎を摘むのに夢中でその声に耳を傾けませんでした。
 すぐに嵐はやってきて森を襲い、とうさんぐまは、子どもたちを必死に守り通します。しかし、嵐が去ったあとの森は木が根こそぎ倒れ、家族を探す声があちこちからするなかで、とおさんぐまも子どもたちと一緒にかあさんぐまを必死に探します。しかし見つかりはしませんでした。
 元気をなくしたぼうやぐまたち。そこにあの子守唄が聞こえてきます。おとうさんぐまは「まねっこどりがうたっているんだよ」と言いますが、それでも、みんなその子守唄に聞き入ります。いつも途中で眠ってしまって聞けなかった歌の後半部分。それは、家族みんなのことを歌っていたのです。

 いもとようこさんの描くくまたちは、とても優しいタッチで心がほっこりするでしょう。
 しかし、その一方で大切な存在を失う深い悲しみや、まねっこどりを通して「オオカミ少年」のような教訓的な要素も描かれており、読み終わった後にいろいろな感情が心の中で混ざり合うはずです。
 自分の気付かないところで、親はちゃんと見ていてくれていた。そんなことに気付くはず。子どもから大人まで、親子で楽しむことができる絵本です。
(新刊JP編集部)



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