ショタラブドール購入マンガを巡ってTwitterで議論展開 「性犯罪を助長する」「社会的責任を自覚すべき」という批判は妥当なのか

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あるTwitterユーザーが、ショタラブドールを購入した体験をマンガで発表。さまざまな批判を浴びたこともあり、マンガツイートを削除して「ユーザーの皆様に不快感を持たせてしまい申し訳ありませんでした」という謝罪文を掲載。それでも炎上状態は止まずに、アカウント自体が削除されています。

このラブドールの製造元は、日本法人による通販サイトを運営しており、Amazonでも購入可能となっています。マンガでは「18歳以上は閲覧しないで」という趣旨の注意書きが記載されつつ、ラブドールの使用感をレポート。性的な描写は避けていました。

しかし、Twitterが13歳以上からサービス利用可能なことで、未成年が閲覧できる可能性があることや、「性犯罪を助長する」「社会的責任を自覚すべき」といった批判、さらにはラブドールを購入したことそのものへの嫌悪感などのツイートが相次いでいました。

碓井真史新潟青陵大学大学院教授「様々な性嗜好の人を侮辱するのではなく、彼らが犯罪者にならないようにすることが大事」

令和元年版『犯罪白書』のよると、性犯罪被害は平成15(2003)年をピークに減少傾向で、平成30(2018)年の強制性交等・強制わいせつの認知件数は平成15年と比較して約1/2となっています。また、平成20(2008)年以降は男女双方を対象にしています。やや古いデータになりますが、平成26年版『犯罪白書』を見ると、男性の強制わいせつの被害者の総数は214件、このうち0~12歳の被害者は127件となっています。また同年度の強制わいせつの4149件のうち、親族が81件、面識ありが1033件となっており、どちらも増加傾向なのが見られます。

社会心理学者・スクールカウンセラーの碓井真史新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授(@usuimafumi)は、今回の一件を踏まえて、次のようにツイートしています。

小児性愛者が犯罪を犯したら(13歳未満との性交は同意があっても犯罪)、もちろん制裁が必要。
でも、小児性愛というだけで罰を受けることも罵られることも、違うと思う。
小児性愛者は、子供に近づくような職業は選ばない方が良いと思うが。

碓井教授は、取材に対して「医学的に小児性愛は、性嗜好異常の一種で“13歳未満の幼児や小児に対して、5歳以上年長の者が性嗜好を継続的に抱くこと”を指します。この場合の異常は、標準ではないという意味です。しかし、標準ではない人が、みんな犯罪者になるわけがありません」と述べています。一方で、漫画に18歳以上の閲覧をしないように記されていたことについては「注意書きをすれば成人向けの内容もOKではないと思います」という見解を示しています。

「犯罪に繋がる予防としての行為について、ラブドールのような存在は認められてしかるべきか」という質問に対しては、次のように考えを述べています。

ラブドールや漫画、ビデオなどが、児童ポルノなどに当たらず合法的なものなら、良いでしょう。
ある種の性嗜好が、頭の中の想像だけで満足して終わるなら、問題なしです。人形などで満足が得られるなら、それも良いと思います。
幼児性愛に限らず、何か事件があるたびに、その種のビデオが貸し出し禁止になったりしてきました。あまり意味はないと思います。スプラッタムービーを見る人たちが、快楽殺人者になるわけではありません。
ただ、普通の人にとっては犯罪のきっかけなどにはならないのですが、その素養を持っている人を刺激することは否定できないと思います。
しかし、それは性嗜好の問題だけでなく、窃盗も殺人も、何かの作品を真似たと供述することは、あることです。例外的な犯罪が起きたからといって、その作品や類似作品を否定するのは間違いだと思います。
しかし、犯罪促進にはならないとしても、たとえば子供を性の対象とするようなグッズは、子供に被害を与えることを是とする文化、雰囲気を醸しかねないから反対だという人の意見も、一理あるとは思います。

碓井教授は、今回の一件に関して、次のように見解を示してくれました。

犯罪は防止したいと思います。被害は防ぎたいと思います。大勢の子供たちが、被害に遭い続けています。
一方、小児性愛者など死ねば良いといった意見を公にすることは、間違っていると思います。
小児性愛者、あるいはそこまでは行かないけれど、その傾向を持つ人は、想像以上にたくさんいるでしょう。

様々な問題の中で、性の問題は複雑化します。様々な犯罪の中で、性犯罪は被害者の心の傷がとてつもなく深いものであり、また加害者や関係者が必要以上に社会的制裁を受けることになるものです。

被害防止が第一ですが、様々な性嗜好の人を侮辱するのではなく、彼らが犯罪者にならないようにすることが大事だと思います。

荻野稔大田区議会議員「社会的責任を一部の人に押し付けても解決はしない」

一方で、「表現の自由を守るべき」という考えを投稿する人も多く見られます。荻野稔大田区議会議員(@ogino_otaku)は次のようにツイート。その後も今回のマンガを問題視する人との議論を重ねていました。

作者の方は、今後当該ラブドールの写真やそれを題材にした漫画を投稿しませんとしている。明白に特定の誰かの権利を侵害したわけでも、犯罪でもない。
これが批判によってなされる目的であるならば、言論弾圧、表現の自由の侵害にほかならないだろう。

取材に対して、荻野議員は多くのユーザーと議論したことを受けて、次のように見解を示しています。

「子供への性犯罪を野放しにするのか」というような意見が多かったのですが、当然子供への性犯罪は取り締まれるべきです。一方でどんな感情、欲望であろうと実際に他者の権利を侵害しない、手を出さない限りは合法です。悪いのは小児性愛ではなく、子供への性犯罪です。小児性愛だけでなく異性愛、同性愛だって相手の合意なく行為に及んだりしたら違法ですが、妄想や作り物なら合法です。それに対して不快に思うのも自由です。
人権は自分にとって気持ちいい、都合のいいことだけではないのですが、他者の内心や権利よりも自分の不快や感情の方が上で、相手はそれに従わなければならないという考えの方もいるのかもしれません。
例えば、子供に対するものでなくても職場で上司なりに対して穏やかでない感情を持つ人もいるでしょうが、何か犯罪予告でもないならそれだけでは罪になりません。まぁ「自分が恨まれている」という感情を向けられてるとわかったなら嫌かもしれませんけど。

愛好家に対して「社会的責任を果たせ」という話もありましたが、社会的責任は特別な趣味、性的な嗜好を持った方が背負うものではなく、社会全体で背負うものです。特定の嗜好を持つことだけで追加されるものではありません。一部の方に「社会的な責任を果たせ」というのは、その方々は実際に犯罪を起こすという確証もないのに、そのカテゴリーの人に責任を押し付けて納得しようとしているだけです。何か犯罪が起こればその方々の関与の有無にかかわらず、その方たちの責任にしようとするでしょう。
こういうのは貧困層、外国人、出身地などを理由に行われた差別や、その被差別者に対して相互監視を要求してきたような分断の話です。社会全体で子供への犯罪について考えなければならないのであって、一部の人に押し付けても特に解決はしません。

「子供を守る」「特定の性嗜好を持つ人を侮辱しない」の両方が大事

今回、漫画を発表したTwitterユーザーにも取材を申し込みましたが、「コメントは避けさせて頂きます」ということでした。筆者の印象では「小児性愛」と「小児性犯罪者」の違いや、社会的責任といった観点が次々と上がってきて、ユーザー自身が混乱しているように見受けられ、それがアカウントの削除へと繋がったように感じられました。

同様のマンガが、pixivなど18歳以上への注意喚起が明確にされている投稿サイトに発表したならば、今回のような騒動にならなかったようにも考えられます。一方で、ラブドールの存在そのものを犯罪と結びつけることは性急で、表現の自主規制や萎縮に繋がる可能性を危惧する人も多数見られました。

「被害防止が第一」「犯罪者を増やさない」ということに関しては、碓井教授と荻野議員双方の見解は一致しており、多くのユーザーも同様だったように見受けられます。その上で「性的なコンテンツはどこまで許容されるのか」「特定の性嗜好を持つ人を侮辱してもいいのか」という問いに対して、個々のユーザーは今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。

※画像は『AC』より

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ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。

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