【Car as Art !】ボルボ XC60 48V HYBRID
電化にまい進するボルボの深謀遠慮か!?新しいMHEV「B5」が無性に滋味深かった件
この夏、XC60をはじめボルボのラインナップに追加される「B5」は、次世代の主力と目される新パワートレインで、48VのMHEV(マイルドハイブリッド)だ。
今回、「XC60 B5 AWDインスクリプション」に丸1日ほど試乗して、「baker’s dozen(ベイカーズ・ダズン)」という、古い言い回しを思い出した。
「パン屋の1ダース」とは、数的には「13個」のことだが、パン1個あたりが所定の目方より少ないという誹りを免れるため、1ダース=12個でなく13個入りで納めれば文句ないだろう、そんなつくり手側の都合ながら、気前のいいオマケを指す。
そのココロを問えば、CAFE規制が今年から始まった欧州市場では、新車1台を売ってもCO2排出量95g/kmを超過すると1g/kmごとに、95ユーロのペナルティが売り手、つまり自動車メーカーに発生する。
よって既存の内燃機関パワートレインに組み込みやすく、わずかとはいえCO2排出量が下がる48VのMHEVは、とくにドイツ車など重量級のSUVやプレミアム・セグメントのつくり手にとって、収益を守るための経済的ソリューションという面がある。
翻ってストロング・ハイブリッド慣れした日本市場では、加速の滑らかさとパワー感、少々の燃費よさといった、経済性より走り味でしかユーザーメリットがなく、効能とキャラが立ちにくいテクノロジーだった。
その48V MHEVを、2025年までに全ラインナップの電動化を進めると早くから宣言していたボルボが、ドイツ車より後発気味にリリースする、そこが注目すべきポイントだ。
組み合わされるのは直4の2Lガソリンターボエンジンで、250psと350N・mのスペックは従来のT5相当といえる。
だが、ブロックからピストンにヘッド、ターボチャージャーにマネージメントシステムまで、48V化のために幅広く変更され、エンジンマウントまで刷新する念の入れようだ。
クランク軸にベルト駆動でISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール)と結び、おもにアイドリングストップからの再発進や微低速域の動力を、ISGMがアシストするのだ。
ISGMを駆動する48Vシステム自体は、リア左端に積まれた0.5kWhのリチウムイオンバッテリーでまかなわれる。
ゼロ発進から加速初期まで、ベルト駆動に電気が利く分、振動が少なく滑らかなのは他の48V車と同じく。
ところがXC60 B5のユニークな点は、アクセルの踏み込みに対してエグゾースト音より先にボディが引っ張り上げられるような、軽快な加速感が得られる点だ。
平たく言えば「電気で進む感」が、MHEVながらも色濃く味わえる。
既存の48Vが、+2気筒的にリニアなトルクの出し方で電気モーターの存在を押し殺しているのに対し、ボルボのそれは対照的だ。ディーゼルに似たおうようさながら、「電気モリモリ」の主張がある。
もうひとつ、B5の特徴は、ダウンサイジング以降の内燃機関で金科玉条となった「sobriety(ソブライエティ、節度や抑制のこと)」を、突き詰めてきた点にある。
具体的には、直4・2Lクラスでは珍しかった、気筒休止機構を採り入れた。
これは30~160km/hの日常的な使用域で定速走行に入ると、1番と4番を休めて即、2気筒状態にする。
高速道路を走りながらでは2気筒と4気筒がどこで切り替わるかはまったく感知できないうえに、巡航中に走行音や振動が従来のディーゼルやガソリンより、すこぶる静かに抑えられていることにはっとする。
これとて、カムの位置を電気&油圧で細かく制御できる、48Vのリソース活用例だが、「多気筒エンジンの陶酔感よ、もう一度」的な、従来の48V MHEVにはなかった発想だ。
この静かで大らかな動的質感が、ボルボの北欧インテリアの静的質感と、この上なくマッチしている。
見直されたエンジンマウントのようなパーツから使いやすく充実したADAS、質感だけ似せたフェイク素材が一切用いられない、ウッドとアルミとレザーが織りなす内装まで、あらゆる細部が「セレニティ(平穏さ、落ち着き、静けさ)」という、これまた訳しにくいキーワードに向かって、鮮明に焦点を結ぶ。
しかも、これまでPHEVのT8専用だったスウェーデンのクリスタルガラス、オレフォスのシフトレバーも、インスクリプション内装のB5には備わる。
加速の力強さと巡航時の燃費ではディーゼルに肉薄しつつ、ガソリンに近い軽快なハンドリングをも併せもち、それでいてPHEVよりはライトで、価格帯はディーゼルとほぼ横並び。
いわばボルボはB5という部分的電化パワートレインに、内燃機関から移行するためのインセンティブを、いわばパン屋の1ダースよろしく所定のルールで求められる以上の価値を、たっぷり込めてきた。
もっと言えば、MHEVを欧州都合の過渡期的テクノロジーから、気安い電化入門モデルへと止揚(アウフヘーベン)して見せたのだ。
ちょっとドイツ車の歯ぎしりが聞こえてきそうなほどに。
文/南陽一浩、写真/水野美隆、阿部昌也関連記事リンク(外部サイト)
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