新潟の名物も庄内の名物も楽しめる、「海里」に乗ってプチ贅沢なひとり旅
趣味は列車旅、仕事は旅や列車旅にまつわる執筆業と、列車にどっぷりつかった生活を送っていると、お得な旅の仕方などがやたら詳しくなる。
ちょっと特別感のある列車にしたって、リーズナブルであったら嬉しい。
それでおいしいものが食べられて、心行くまで景色が見られたら……!
今回は、そんな旅行者の切なる希望を満たしてくれる、JR新潟駅~JR酒田駅を結ぶ「のってたのしい列車 海里(かいり)」に乗ってきた。(※)
※編集部注:新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、海里は2020年6月末まで運休しています。最新の運行状況は公式サイトをご確認ください。
東京駅
希少な2階建て新幹線で楽々移動
まずはJR東京駅から新潟駅まで約2時間、上越新幹線の2階建て車両「Maxとき」で移動する。
この2階建て車両は2020年度末をもって引退予定であることから、なるべく乗っておきたいところだ。冷蔵庫を彷彿させるいかついビジュアルに喜び、2階席からの高めの景観を楽しんでいると、あっという間に新潟駅へ到着した。
新潟駅
「のってたのしい列車 海里」で酒田へ
新幹線ホームから乗り換え改札を経て在来線ホームへ。
さっそく、海里に乗車、新潟駅から酒田駅まで、3時間10分ほどの列車旅が始まる。
海里は2019年10月に運行を開始し、車両も海里用に新しく造られた。そのため、中も外もピカピカだ。
定刻の10時12分、ゆっくり後にする新潟駅を1号車のリクライニングシートから眺める。シートピッチ(座席の前後の間隔)が広く、窓は大きく快適なうえに、車内の天井部に設けられたモニターで先頭から見える景色が楽しめる。
特別感にあふれている海里だけれども、全席指定の「快速」扱い。そのため、乗車券と840円の指定席券だけで乗車できるのだ。(※)
※編集部注:※4号車はダイニング車両につき旅行商品として発売。
ここでいったん3号車の売店へと向かい、事前予約していた「海里特製 加島屋御膳」(1,800円税込)を受け取った。
座席に持ち帰り蓋を開けると、新潟の魅力がぎっしり詰め込まれているではないか。
キングサーモンの味噌漬けにいくら、海老しんじょう、柳カレイの天ぷら……! ごはんはもちろん魚沼産コシヒカリだ。
いくらなんでも豪華すぎるだろう! と興奮しながら黙々といただく。
やがて列車はJR村上駅に到着。発車後は、日本海沿いを走る。車窓はシャッターチャンスが続き、思わず釘付けになる。
そしてここで嬉しいアナウンス、「桑川駅で20分停車します」が流れる。
新潟駅~酒田駅の沿線は日本海沿いの絶景エリアが多く、特にJR桑川駅近辺は、透明度の高い海水と日本海の荒波の浸食作用でできた奇岩などが作り上げる絶景「笹川流れ」として知られている。
駅舎を飛び出し、道路を渡ってすぐの海岸で、波しぶきを肌で感じながら目の前に広がる景色を眺めた。
桑川駅を発車後、列車の速度はかなり抑え気味。
実はこれ、笹川流れを車内から楽しんでもらうための嬉しいおもてなしなのだ。
JRあつみ温泉駅で10分停車、その後列車は庄内平野を走行し、13時20分、終点の酒田駅に到着した。
酒田駅
こい勢でうまさ爆発のお寿司。交流も堪能
酒田駅到着後は、駅近くのホテルに荷物を預けて夕食へ。先ほど日本海を眺めまくったせいで、心はお魚モードである。
向かったのはホテルから徒歩約3分の「壽し割烹 こい勢」。
暖簾をくぐると、お客さんでいっぱい。
必殺「お店の人に尋ねる」を発動し、10貫の「特選 旬のおまかせ握り」(3,300円税込)と「海老しんじょうシュウマイ風」(495円税込)をおススメしていただいた。
ほろほろとはかなく、それでいてジューシーな海老しんじょうをつまんでいると、お寿司が登場。
ねっとりした食感のヤリイカに、ぷりぷりに甘いガサエビ、一番人気のノドグロ炙りなど、順番においしさが訪れる。扱われる魚の8割は地魚。各ネタはすでに下味付きなので、どれもそのままひと口でいただいた。
ご主人の鈴木福好さんによれば、ネタに合わせて、お米はササニシキとつや姫、酢は白酢と赤酢、を使い分けているそうだ。
おいしい、おいしい! と喜んでいたところ、周りの人から「どこから来たんですか?」と話しかけられ、地元の方や観光客の方とのおしゃべりに花が咲く。
おいしくて贅沢な食事をいただいたうえに、人との交流でも盛り上がった。今思えば、体全体で喜びを感じる時間だった気がする。
山居倉庫
自転車に乗って酒田の歴史をたどる
2日目。見上げれば晴天。
そこで酒田駅の酒田駅観光案内所へ。ここでは自転車を無料でレンタルできるのだ。
今日は酒田の歴史を知るべく、酒田駅から自転車で10分ほどの「山居(さんきょ)倉庫」へ。
山居倉庫は、1893年に米倉庫として建てられたもので、最上川と新井田川にはさまれた「山居島」にあることが名前の由来。一部は今も農業用の倉庫として機能しているそうだ。
倉庫横の、思わず写真に収めたくなるケヤキ並木は、日本海からの強風や直射日光をさえぎり、温度変化を抑えることを目的としているとのこと。散歩しつつ、先人の知恵に想いを馳せた。
倉庫のうち、11号棟と12号棟は酒田市観光物産館「酒田夢の倶楽(くら)」として活用されており、11号棟は、酒田の歴史・文化を伝える「華の館」、12号棟はお土産コーナーなどがある「幸(さち)の館」となっている。
華の館では、傘の先に飾り物を下げる「傘福」をはじめ、「御殿まり」や「鵜渡川原人形」など、数々の工芸品が展示・販売されている。見た目にも鮮やかな工芸品は、17世紀後半に整備された海運ルート「西廻り航路」の起点として大きく発展した酒田の豊かさを示しているのだろう。
土門拳記念館
酒田生まれの写真家に巡り会う
山居倉庫から最上川にかかる出羽大橋を越えて、20分ほどの気楽なサイクリングを楽しんだ先にあるのは、「土門拳記念館」。
酒田市出身の土門拳は、「絶対非演出の絶対スナップ」など独自のリアリズム論から成る「リアリズム写真」を確立した写真家。約7万点の作品を故郷に寄贈したことで、1983年、記念館が開館した。これらの作品がテーマに応じて順次展示されており、訪問のたびに新しい出会いがある。今回は、「古寺巡礼」「文楽」そして「土門拳 その周囲の人びと」の3テーマを見学した。
記念館の建物も魅力のひとつ。彫刻家イサム・ノグチから寄贈された彫刻とベンチがある中庭や、草月流三代目家元勅使河原宏による庭「流れ」など、土門と交流のあった芸術家の協力による作品も見ることができ、記念館全体で土門拳という人物像に触れられる。
写真からは映したいものだけを切り取る強い印象を受け、それら作品に吸い寄せられているうちに、あっという間に時間が流れていった。
酒田駅
新潟行きの海里から夕暮れを見る
さて、酒田駅へ戻り、名残惜しくも帰路につく。
といっても楽しみはまだまだ終わらない。往路が海里なら、復路も海里に乗車する。
本当に指定席券840円を足すだけでいいの? と驚きつつ再び乗車。乗車するところまでは往路と同じでも、「来た道を帰るだけ」の淡々とした地味なものではまったくない。
新潟発酒田行きは車窓いっぱいにさわやかな昼を感じられるのに対して、酒田発新潟行きは夕景を目指していく。完全に別物だ。
15時、酒田駅に別れを告げて、列車は新潟駅へとひた走る。
鶴岡駅で30分の停車時間に、駅周辺をぶらぶらし、発車後、そそくさと3号車の売店へ。事前予約した「海里特製 庄内弁」(2,100円税込)を受け取るのが目的だ。
行きの列車では新潟尽くしのお弁当を堪能、そして帰りは庄内の名産を詰め込んだお弁当がいただける。
だだちゃ豆のご飯をめじか鮭のあみえび魚醤漬けでくるんだ「めっこい巻」、鶴岡名物のむし玉子、ぜんまいの煮物や青みずのおひたしといった郷土料理、それに山形牛のローストビーフも入っていてボリュームも満点!
やがて列車はトンネルを抜け、再び日本海へ。「再び」なんだけど、まるで見え方が違う。
だって時刻が16時を過ぎているから。
西に傾きつつある太陽は、海をきらきらとまぶしく映し出している。1号車の展望スペースでは窓が開けられ、海からの潮風が車内に吹き込んでくるではないか。
まばゆさが増す笹川流れ沿いの景勝地で徐行運転しつつ、列車は16時52分に桑川駅到着。
約30分の停車時間を利用して、「昨日も降りた駅だし!」と勝手知ったる思いで海岸へと向かえば、そこには知らない景色が広がっていた。
遠く地平線上の太陽からこちらに向かって伸びる一筋の道。
足元を見やれば激しく打ち付ける波。
そのコントラストが美しい。
列車は、半熟卵の黄身を彷彿させるような夕日のなかを南下していく。
旅の終わりはいつも寂しい。
真っ赤な太陽が雲の向こうへと落ちていき、夜の訪れを教えてくれた頃には、終点の新潟駅だった。
新潟駅
旅を思い出しながら上越新幹線で東京へ
新潟駅からは、上越新幹線の「とき」に乗車。
今回の旅は自分にしては珍しく、往路と復路が同一行程のシンプルな1泊2日旅行だったものの、列車は時間に合わせた色とりどりの車窓を見せてくれるし、立ち寄った先ではおいしさと、人との交流の楽しさがあり、何度も訪れたつもりでいたエリアの知らない表情に触れられた。再訪すれば、きっとまた新しい側面に触れられるのだろう。
そんなふうに2日間の旅を反芻しながら、東京駅までの2時間を過ごした。
東京駅
掲載情報は2020年5月19日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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