世界一黒い物質って何か知ってる?開発して何の役に立つのなんて言わないで
「黒いもの」と聞いてあなたは何を連想しますか?炭、イカスミ、コーヒー、ゴマなど・・・黒いものは様々ありますよね。
では、世界一黒い物質と呼ばれるものは何でしょうか?
実はこの最も黒い物質は、多くの研究機関で開発競争が行われているそうです。では、なぜそこまで黒にこだわるのでしょうか?
今回は世界一黒い物質についての解説だけでなく、研究が進められている理由も一緒に解説していきますね。
従来最も黒い物質だった「Vantablack」
世界一黒い物質と長年呼ばれているのが、Vantablackです。あまり聞きなれない名前ですが、どのような物質なのでしょうか。
「Vantablack」とは
Vantablackは、カーボンナノチューブから構成される最も黒いといわれていた物質です。
日本では「ベンタブラック」とか「ヴァンタブラック」と呼ばれます。
Vantaとは造語です。「Vertically Aligned NanoTube Arrays」の頭文字で構成された言葉です。
日本語にすると「垂直に配置されたナノチューブ配列」という意味になります。
当初はイギリスの国立物理学研究所で開発されていましたが、現在では同じくイギリスにあるSurrey Nano Systems社が中心となって開発・製造を行っています。
「Vantablack」の実用例
このVantablackは、すでに実用化されている場所もあります。その中でも代表的な事例について以下でご紹介します。
車の塗料
自動車のボディカラーにVantablackを採用されたことがあります。世界で初めて使用したのはドイツの有名メーカーのBMWです。
採用したといっても、一般販売の車の塗装に使用したわけではありません。
BMW X6 VANTA BLACKというX6の車種をベースにした特別仕様車に、Vantablackでの塗装が施されたのです。
光を全く反射しないそのマットな黒い外観は、これまでの車では見たことのない異質さがあります。
時計の文字盤
ムーンフェイズが特徴的でシンプルなデザインのH.モーザーの文字盤にも、Vantablackは採用されました。こちらはBMWのものとは違い、私たちも購入できる商品です。
エンデバー・パーペチュアルムーン・コンセプトという50本限定のモデルに使われてました。
数字が一切入っていないシンプルなデザインが特徴で、その中にワンポイント月があしらわれています。
世界一黒い物質と呼ばれるVantablackを使うことで、文字盤の月の美しさを引き立たされ、シックで大人の魅力にあふれた時計に仕上がっています。
そもそも黒って何?
黒い色といわれれば、どんな色か想像できるはずが、この黒という色は他の色にはない特性を持っています。
その特徴について以下にまとめました。
純粋な黒は光を反射しない
そもそもわたしたちは、物体にあたって反射した可視光を認識することで、色を感じています。
例えばリンゴといえば多くの人が赤いと感じていますよね。
これはリンゴに光を当たると、リンゴは赤の可視光だけを反射し、他の可視光を吸収しているからです。
物質が吸収せず、反射した可視光だけで私たちの瞳は色を認識しているのです。
ちなみに白色は、全ての可視光を反射し、認識されています。
では、黒はどうでしょうか?
黒い可視光を反射しているのかというと、そうではありません。なにせ黒い可視光は存在しませんので反射のしようがありません。
白とは逆に、全ての光を吸収してしまい、どの光も反射しない場合に私たちはそれを黒と認識しているのです。
このことからピュアな黒、つまり100%黒の場合は光の反射率はゼロになるはずです。
言い換えると光を吸収してしまうので全く反射しません。光に当てて白っぽく感じることもありません。
このような完璧な黒を人間の目で見ると、二次元の平面な物体と認識してしまうそうです。光を全て吸収してしまうので、目が凹凸を認識できなくなってしまうのです。
しかし炭やイカスミなど、私たちが普段黒と認識しているものを見たときは立体に感じられますよね。つまり、私たちが普段見ている黒は「黒に近い色」であって、純粋な黒ではないということです。
ちなみに、ここまで何度も名前の出てきているVantablackも、光の吸収率が最大99.965%とされていますので、真の黒とはいえません。
黒と科学技術の関係
黒の研究はVantablackだけでなく、世界中の様々な機関で進められています。しかしなぜ、色の一種である黒をわざわざ研究・開発する必要があるのでしょうか?
それは純粋な黒にある、光を吸収してしまって反射しないという特性が科学技術に大いに貢献するようです。
例えば光学製品はちょっとした光の乱反射が起これば、致命的な欠陥につながりかねません。また、軍事技術にも応用できるのではないかと考えられているそうです。
他にも黒の持つ特性は、イメージセンサーの汚れ除去にも活用できるのではないかとみられています。そして、今まで検出できなかった細かなレベルのガスの粒子離脱も防止できるようです。
このように技術進歩に役立つでだろうことから、多くの研究機関で”真の黒”についての開発が進められています。
世界一黒い物質の光の吸収率はなんと99.995%
今までVantablackについて、世界一黒い物質”といわれていた”ように過去形で紹介してきました。
それはVantablackを超える黒さを持った物質が、最近になって発見されたからです。
その新物質は、光の吸収率は少なく見積もっても99.995%。
従来の世界一黒い物質だったVantablackの10倍の黒さだといわれています。
発見は偶然
この次世代の最も黒い物質は、マサチューセッツ工科大学で2019年に発見されました。
宇宙工学教授のブライアン・ウォードルさんと、上海交通大学のケホン・ツイさんが発見したそうです。
しかし彼らは、意図的に最も黒い物質を開発していたわけではないようです。電気と熱の働きを高める実験を行っていたときに副産物として出てきたとのこと。
研究で使っていたカーボンナノチューブを見たところ、実験前よりも黒くなっていることに気付いた彼らは、試しに光学反射率を測定したところ、Vantablackを超える数値が出てきたのです。
まとめ
これまで長らく、Vantablackこそが最も黒い物質と思われていました。
しかし近年、世界一の地位が変わりました。ただし今後さらに黒い物質が見つかるかもしれませんね。
そんなものを見つけて何の役に立つのかと思う方もいるかもしれませんが、光を吸収するという黒の特徴は、精密機械の今後の発達に大いに役立つ可能性が高いそうなので、あながち私たちにも無関係なものではないようですよ。
そして、これからも真の黒を開発する研究は進んでいくようなので、私たちが「真の黒」に触れる日も近いかもしれませんね。
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