ケン・リュウ編の中国アンソロジー第二弾!
『折りたたみ北京』に続く、現代中国SFを紹介するアンソロジー。編者ケン・リュウは「序文」で、こう告げる。
包括的であったり、代表的であったりすることを狙いとした計画は失敗に終わる運命にあり、いわゆるベストの作品を選出するというたいていの方法にわたしは疑念を抱いている。
(略)完璧な作品を選ぶことがいいとはわたしは考えていない—-それどころか、一箇所いい点がある作品は、なにも悪くない作品よりもはるかに優れていると考える。(引用文中の太字で示した箇所は原文では傍点)
この方針が素晴らしい。減点法で無難な秀作を選ぶより、際立ったところがある作品を選ぶほうが面白い。そこにアンソロジストの個性が出る。読者もアンソロジストの着眼点に大きく頷いたり、息を呑んだり、首を傾げたりしながらながら、能動的に楽しめる。
ぼくがもっとも印象に残ったのは、韓松「潜水艇」だ。出稼ぎ農民が住居とする潜水艇の群れをスケッチ的に描いた小品で、背後に立ちのぼるディストピアの気配と、詩情すら感じさせる情景描写は、J・G・バラードの初期短篇を彷彿とさせる。
寓話性の強い「潜水艇」に対し、中国の現代史に即して展開する傑作が宝樹「金色昔日」だ。ただし、その現代史は実際におこった順序と逆転している。語り手が幼少のときに北京オリンピックがあり、彼の成長に沿ってSARS禍の発生、ゴルバチョフの元でのソ連成立と東西冷戦、天安門事件、中越戦争、文化大革命……と進んでいく。社会と政治の状況が逆戻りしているのだ。この作品は大きな社会的事件の因果を逆転させて描くことで、歴史の過程がかならずしも進歩(上昇的発展)ではないと示す。
夏笳「おやすみなさい、メランコリー」は新しいロボットのリンディを自分の元に迎えたわたしの物語と、アラン・チューリングが晩年に想像した人間と会話ができるマシンのエピソードを交互に語る。途中にアシモフ「ロビー」のような情緒的展開もあるが、結末のひとひねりが待っている。
郝景芳「正月列車」は素朴なアイデア・ストーリー、飛氘「ほら吹きロボット」はサタイア、劉慈欣「月の光」は未来の自分からの通信によってループする時間SF、王侃瑜「ブレインボックス」はグレッグ・イーガン初期短篇を思わせる愛と意識についての物語、陳楸帆「開光」はITの新アイデアから仏法的形而上学へと発展する快作……と、さまざまな趣向の作品が集められている。小説は14作家による16作品。
巻末にはエッセイが三本。王侃瑜「中国SFとファンダムへのささやかな手引き」、宋明煒「中国研究者にとっての新大陸:中国SF研究」、飛氘「サイエンス・フィクション:もう恥じることはない」。立原透耶さんの「解説」と併せ、現在進行形で大きく動いている中国SF状況を伝えてくれる。
(牧眞司)
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