「ゴマすり」と「敬意を表すること」の違いとは?ーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。
『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものもあります。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「そう、感情。何かこの人違うなって漠然とした気持ち。それが決定打になっている」
(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第5巻 キャリア43より)
龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。
井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。
エリート社員が不合格になった理由
転職希望者の桂木悠也(かつらぎゆうや)は、東大経済学部卒で一流商社に勤めるエリートです。桂木は、井野のアテンドでコンサルタント会社の面接を受けますが、不合格になってしまいます。「僕が落ちるなんて、何かの間違いだ」と思った桂木は、井野との連絡を断ちます。
井野が「逃した魚は大きい」と残念がっていると、上司の海老沢が一計を案じます。「彼に『なぜ落ちたのか、答えを教えます』と言えば、必ずやってくる」、と。井野が海老沢の指示通りにすると、果たして桂木はやってきました。海老沢は、「自分も面接に同席する」と井野に告げます。
桂木と向かい合って座る海老沢。開口一番、「君は何でも問題には答えがあると思っている。でも、答案用紙に書くような論理的な答えは、社会では役に立たない」と言います。「もともと、人は論理的に決定なんか下さない。実はほとんどの場合、感情が決め手となっている。君が面接時に相手の感情に配慮しなかったことが、不合格になった真の原因だよ」と説明するのでした。
人間は、自分に好意的な人に対して好感を抱くもの
海老沢が言うように、人が動く時というのは、何かしら感情が動いた時です。端的なところで言えば、会社の人事評価なども、「最後は感情で決めている」というのが、正直なところでしょう。たとえば、目の前にまったく成績の同じ2人の社員がいたとします。
ここでは、仮に2人をAさんBさんと呼びます。「Aさんはいつも上司を立てている慎ましい人」で、「Bさんはいつも自分の手柄を鼻にかけている人」だとすれば、選ばれるのは当然、Aさんのほうでしょう。人事考課をつけるのが人間である以上、それはやむを得ないことです。上司も人間ですから、甲乙つけがたい状況下では、自分によくしてくれる人を選ぶのが人情、というものではないでしょうか。
誤解しないでいただきたいのですが、いくら上司が「自分によくしてくれる人に好意を持ちやすい」からと言って、いわゆるゴマすりをしても、あまり意味はありません。確かに、上司はゴマをすられれば嬉しいには違いありません。けれど結局のところ、お互いが仕事の関係であるからには、仕事で結果を出すこと以上に上司を喜ばせるものはない、ということです。
©三田紀房/コルク
目的によって、ゴマすりなのか、そうでないのかが決まる
社員の中には、逆に上司に対抗意識を燃やしたり、「あの上司に手柄を取られるくらいなら、結果を出さないほうがマシだ」と言ったりして、わざと仕事をしない人もいます。しかし、他人のために自らの前途をふさいでしまうことほど、もったいない話もないのではないでしょうか。1つ確かなのは、出世をする際には、誰かが引っ張り上げてくれることが必要不可欠だということです。
一体、「ゴマすり」と「敬意を表する」ことの違いは何なのか?というと、それは“目的”によります。ただ単に「上司に気に入られたい」とか「おだてれば、いいことがあるかも」と考えることこそ、ゴマすり以外の何ものでもありません。一方、「このプロジェクトを絶対に成功させたい。そのためには、上司の助けが必要だ」という発想で、上司も会社が持つリソース(資源)の1つと考えれば、自分を成功に導く応援団の一員に思えてくるものです。
自分の周りにいる人は、自分自身を映す鏡のようなもの
無論、「普段は上司をバカにしていながら、困った時だけ頼りにする」というような態度が、社会人としてあるまじき行動であることは言うまでもありません。もし、自分に対して礼節のある行動をとって欲しいと望むのであれば、まずは自分から、相手にその態度で臨まなければなりません。
結局、相手は自分の鏡のようなものです。だから物語の中で、他人を軽んじていた桂木は、相手から“不合格”というしっぺ返しを受けたわけです。周りの人を巻き込み、協力態勢を構築しない限り、大きな仕事は成し遂げられません。
人間は、感情で動き、論理で納得するのですから。
マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第45回
俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。
俣野成敏 公式サイト
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