がんという病気は「とても身近なのに、あまりにも無知だった」

 もし大切な人が「がん」になってしまったら…。家族はどう「がん」に向き合うべきなのでしょうか。
 松竹の映画宣伝部として数々の映画プロモーションを手掛けてきた清宮礼子さんは、大ヒット映画『おくりびと』のプロモーションを担当している裏で、家族とともに最愛の父の闘病を必死に支えていました。その父と家族の闘病を書いたのが『大切なひとのためにできること』(文芸社/刊)です。
 清宮さんが本書を執筆した理由とは? そして、家族で「がん」と向き合うとはどういうことなのか? 清宮さんにインタビューを行いました。今回はその前編です。
(新刊JP編集部)

■がんという病気は「とても身近なのに、あまりにも無知だった」

―まず、本書を執筆した理由から教えていただけますか?

「父が突然末期がんの宣告を受けてからなくなるまでの21ヶ月。病気とは無縁だと思いこみ、本当にごく普通の生活をしていた私たち家族が、がん治療と向き合って、今まで見てきた世界を観る目や考え方が変わりました。当たり前に死んでいく人という生き物について、愛する人とのつながりについて、とても身近な問題なのに、あまりにも無知ながんという病気に対する自分たちの知識について、がん治療や、患者を受け入れる病院や、患者のために存在するサービスや現状について、など多くを考え、悩み、感じ、父、そして家族のために精一杯行動いたしました。
父との闘病生活を通して、身体と心で体験したすべてを、人に伝えることで、同じ立場で一人、心を苦しめている人たちの役に立つことができればと思ったこと、そして、21ヶ月の間に交わした、父との心のつながり、父の思いや自分たちの思い残しておきたいという動機から、出版という形にしようと思ったのです」

―お父様ががんを宣告されてからの21ヶ月間は、清宮さんにとってどのような時間だったと思いますか?

「絶望の中で少しでも光を探し、つぶされそうになりながらも父や家族のためにがむしゃらに向き合っていました。思い返すとあっという間で、今でも、その期間だけ切り取られた濃密な特別な時間のように思います。
父との時間は、もっとも濃密で、父と娘の絆を深く感じる時間でした。苦しむ父をみて、自分では何もすることができないことに心を痛めることも多かったのですが、できる限り何かをしてあげたいと思い続けていました。そばにいてあげること、言葉を交わすこと、そんなことをするだけで喜ぶ父を見ていると、父のために何かをしている実感がわき、自分の心も救われる気持ちでした。そうした理由は、今まで父からしてもらったことの御礼をしなければ、絶対に後悔する、と思って向き合いました。自分のためにやったのかもしれません。
父から受けた愛情の深さを考えたら、まだまだ恩返しもできないけれど、今できることをしてあげたい、その一心でした。入院中に、病院で看護婦さんにうれしそうに娘を紹介する父、苦しくても心配かけまいと「大丈夫」と気丈にふるまう父の姿をみながら、本当に、偉大な愛に溢れた父の姿を改めて知り、愛情の深さや絆を感じることができた時間でもありました」

―お父様のがんを宣告されたとき、まずどのようなことが頭を過りましたか?

「父のような強くてたくましい人が、「がん」なんかにおかされるわけがない。すべて悪夢であってほしい。末期がん=死が近い、というイメージにとても恐怖感を感じ、今まで味わったことのない絶望感で目の前が真っ暗にふさがれる感じでした」

―この本ではがん患者家族の視点から、様々な問題提起をされています。闘病記という範疇を越え、セカンド・オピニオンやお金の制度の説明など、身内ががんになってしまった人にとってもすごく参考になる一冊となっていますが、そうした構成にした理由はなんだったのでしょうか。

「がんは、ストレスや不規則な生活などから、現代社会の人口の1/3がかかるといわれているとても身近な病気です。
しかし、私たち家族がそうだったように、いまだにこの病気で命を落とす人が多い中、治療法も治療についての考え方も様々で、そして治療費もたくさんかかる・・・、そのことへの理解がある人が少ないように思います。
実際に、身近な人ががんになったら、何をどうしたらよいのかわからず、右往左往してしまう人が多いと思います。
そのような人たちに役立つように、知識面でもすぐにでも役立つ情報をできるだけ入れたことと、そして患者と支える家族が、がんと向き合う最中に数々襲い掛かる不安に、強い心を持って向かっていけるように心に寄り添って励ませるような内容にしたいと思いました」

(後編に続く)



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