宇都宮「もみじ図書館」築50年の古アパートが変身。ゆるいつながりで街ににぎわいを

ゆるいつながりで街ににぎわいを~宇都宮「もみじ図書館」の取り組み

宇都宮駅から車で10分、住宅街のなかに、昨年5月にオープンした民間運営の「もみじ図書館」。手掛けたのは、空間プロデュースを手掛ける「ビルススタジオ」だ。

店舗や住宅の設計業務だけでなく、「ひとクセあるけど面白い!」そんな不動産物件も紹介する同社が、なぜ自分たちで図書館をつくったのか、その狙いを伺った。

誰でも自由に使える「もみじ図書館」は街の共用部

住宅街のなか、通りかかっても見落としそうな場所に「もみじ図書館」はある。築50年の賃貸アパート1階の2部屋をぶち抜き、リノベーションされたものだ。

木枠のガラスの引き戸を開ければ、まるでお洒落なカフェ。本棚が迷路のように組まれ、籠もるような読書空間に。ゆったりソファやアンティークなチェアが置かれ、のんびり過ごせる。向こう側に小さな中庭があり、暖かくなればテラスで読書も楽しそうだ。壁の一面は黒板仕様で、ミーティングもできる。基本的に開いている時間は10時から19時まで。それ以外の時間でも事前予約で貸し切り可能(1時間1000円) 。火曜日や木曜日にはスタッフによるカフェ営業なども(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 基本的に開いている時間は10時から19時まで。それ以外の時間でも事前予約で貸し切り可能(1時間1000円) 。火曜日や木曜日にはスタッフによるカフェ営業なども(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)もみじ図書館があるカトレア荘。現在、1階は飲食・物販などのテナントを募集中。このもみじ図書館を共用部として、テイクアウト品のイートスペースや打ち合わせラウンジなどに使える(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

もみじ図書館があるカトレア荘。現在、1階は飲食・物販などのテナントを募集中。このもみじ図書館を共用部として、テイクアウト品のイートスペースや打ち合わせラウンジなどに使える(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

本は主に地域住民によって寄贈されたもの。貸し出しは行っていないが、だれもが自由に入室でき、読書はもちろん、おしゃべりも飲食の持ち込みもOK。Wi-Fiもあるのでワーキングスペースとしても使える。

「地域の人がふらっと立ち寄れる“共用部”をつくりたかったんです」と、ビルススタジオ不動産企画部の中村純さん。

取材当日も、「こんな場所あるんだ~」と初めて立ち寄ったカップルや、「ちょっと卒園式の打ち合わせをしたくって」と幼稚園のお迎え帰りに過ごしていたママと子どもたちと遭遇。午後から夕方にかけては、中高生たちが勉強やゲームをしに遊びに来るそうだ。

キッチン付きで飲食店の営業許可も取っているので、貸し切りで1日だけカフェ営業や、独立前のテストキッチン、イベント開催も可能。「僕たちスタッフも、モーニングでコーヒーを淹れたり、夜の図書館営業をしていたりします」(中村さん)ラインナップは、文学全集、哲学書、レアな建築専門誌、絵本、紙芝居、児童文学、ミステリー文庫、エッセイなんでもあり(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) ラインナップは、文学全集、哲学書、レアな建築専門誌、絵本、紙芝居、児童文学、ミステリー文庫、エッセイなんでもあり(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)オープンな洒落たキッチン。レトロなレコードプレイヤーなどは大家さんから寄贈されたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) オープンな洒落たキッチン。レトロなレコードプレイヤーなどは大家さんから寄贈されたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)喫茶営業中は、エアロプレスで淹れた美味しいコーヒーも飲める(有料) (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 喫茶営業中は、エアロプレスで淹れた美味しいコーヒーも飲める(有料) (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)中庭に面したウッドデッキのテラス。春になればイスを出して外読書も気持ちいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 中庭に面したウッドデッキのテラス。春になればイスを出して外読書も気持ちいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)広さは18坪。中庭に面し、やわらかな日差しが差し込む、気持ちのいい空間だ。足場板を本棚に活用し、スペースを小分けに。自分だけの特等席を見つける楽しみも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 広さは18坪。中庭に面し、やわらかな日差しが差し込む、気持ちのいい空間だ。足場板を本棚に活用し、スペースを小分けに。自分だけの特等席を見つける楽しみも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)(画像提供/ビルススタジオ)

(画像提供/ビルススタジオ)

デモンストレーションのはずが「自分たちでやりたくなりました」

「実は最初から、図書館ありき、ではなかったんです」と中村さん。

「もともと僕らは空間プロデュースが本業。さらに、普通の検索サイトなら一番にはじかれるような、古かったり、駅から遠かったりする、でも魅力的な物件をマッチングしています。ただ、リノベーションできるといってもみなさん、どうもイメージが湧かないようで、一目で良さが分かる空間を自分たちでつくってみようと考えました。そこで、倉庫として借りていた部屋と隣の空き室を合わせて、改修できないか大家さんにお願いしたのがきっかけです」

そこで、設計担当がイメージしたパースがこれ。(写真提供/ビルススタジオ)

(写真提供/ビルススタジオ)

「ガラスの入り口、向こう側に小さい庭があって、すごくいいねって話になったんです。本当は改修して、いいなと言ってくれる人にお店を任せようと思っていたんですけど、自分たちでやってみたい! と、社内プロジェクトとなりました。どうせなら、地域の人が気軽に集まれる、のんびり過ごせるような場所がいい。そして、この場所がこの物件の価値、さらに街の価値につながればいいなと考えました。いわば社会的な”実験“です」

そこで、どんな場所がいいかと考えた結果が、「図書館」だった。「このあたりは住宅街で、たくさんの蔵書を“捨てるのもしのびないし、誰かが活用してくれるなら”と寄贈してくれる方がたくさんいました。図書館なら、ふらっと立ち寄れるし、ずっと誰かがいる必要もないので、僕たちが運営しやすいメリットもあります」工事の様子。「スタッフで約5カ月かけて少しずつDIYしました」(写真提供/ビルススタジオ)

工事の様子。「スタッフで約5カ月かけて少しずつDIYしました」(写真提供/ビルススタジオ)

不動産や建築を身近に感じてもらう「場」としての機能も

ビルススタジオのスタッフが1日店主になるイベントも定期的に開催している。

例えば「夜のMET不動産部~スナック純」。中村さんが、普段の仕事のなかで、共有したい不動産や建築の小さなあれこれを、お酒を飲みながら語る場所。「不動産ってどうしても難しくて、とっつきにくい話題だったりするじゃないですか。でも、お酒を媒体にしておしゃべりすることで、興味を持ってもらったり、なにかしらの気づきを持ってもらえたらいいなって思ってはじめました」

また、ケーキ好きな男性スタッフによる、毎週水曜日のモーニングは常連さんも多いとか。「彼のつくるケーキがけっこう美味しいと評判で。その間はお店番と同時に彼は建築士の試験の勉強をしていたりします」。そのほか、女性スタッフによる「ゴジカラとしょかん」は、隔週金曜日に開催。お酒を飲みながらゆっくり読書する。明かりの灯った図書館に、会社帰りに吸い寄せられる人も。

「物件探しやリノベーションって、どうしてもある程度ニーズや条件が明確になってからの話になってしまうのですが、そんなビジネスの手前で、それぞれの好きなもの、関係性をつくるうえで、こうした場は有効だなと思っています」(写真提供/ビルススタジオ) (写真提供/ビルススタジオ)中村さん店主の「スナック純」。「最初は人がいっぱい集まりすぎて、パーティーみたになってしまって(笑)。ゆっくり話せなかったので、今は当日告知にしています」(写真提供/ビルススタジオ) 中村さん店主の「スナック純」。「最初は人がいっぱい集まりすぎて、パーティーみたになってしまって(笑)。ゆっくり話せなかったので、今は当日告知にしています」(写真提供/ビルススタジオ)スタッフが各自で看板やメニューをつくって、オーナー気分を味わう。「お客さんが常連になったり、常連さんから仕事を依頼されたりしています」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

スタッフが各自で看板やメニューをつくって、オーナー気分を味わう。「お客さんが常連になったり、常連さんから仕事を依頼されたりしています」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

自分たちの生活圏を楽しくする――それが最初の動機

そもそも、もみじ図書館がある一画のすぐ近く、市役所へと抜ける「もみじ通り」は、かつては80店舗ほどの商店が軒を連ねる生活に密着した商店街だった。しかし、他の商店街の例にもれず、郊外の大型モール進出の影響で次々と閉店し、2003年には商店会が解散。シャッターが目立つ通りに。

しかし、2011年にカフェ食堂「FAR EAST KITCHEN」「dough-doughnuts」がオープンするなどし、人通りが少しずつ増加。「もみじ図書館」の試みも注目を浴び、地域活性化や街づくりの一環として媒体に取り上げられることも増えたそう。しかし、それには戸惑いも。

「正直、街づくりをしている感覚はあまりなくって(笑)。『FAR EAST KITCHEN』も、もとはといえば、ウチの代表の塩田が、自分の事務所をもみじ通りでリノベ工事をしているうちに、“美味しいランチのお店が近所にあったらいいな”と、たまたま知り合ったシェフの藤田さんに、近所に来ないか誘ったのが経緯だとか。『dough-doughnuts』の店主の石田さんも、もとは他のエリアでの出店を考えていたのに、気付けは近所に開店といった感じで(笑)。基本的には、自分たちの200m圏内で、おいしいお店が近所にあったらいいなぁがスタート地点なんです」地元客で常ににぎわう人気カフェ「FAR EAST KITCHEN」。地元野菜のサラダ、季節のスープ、選べるデザートなど、組み合わせを選べるランチが定番(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 地元客で常ににぎわう人気カフェ「FAR EAST KITCHEN」。地元野菜のサラダ、季節のスープ、選べるデザートなど、組み合わせを選べるランチが定番(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)もみじ通りにあるショップの駐車場は共通で。手書きの案内板が味わい深い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

もみじ通りにあるショップの駐車場は共通で。手書きの案内板が味わい深い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

物件マッチングの課題も、活気を生み出すことで乗り越えたい

ただしネックもある。空き物件はあっても、借主を募集している物件は少ないということだ。

「大家さんの高齢化などで、人に貸すのが面倒なんですよね。『FAR EAST KITCHEN』さんのときは、これがいいなと思った空き家に手紙を投函してお願いし、『dough-doughnuts』さんのときは、名刺代わりにドーナツを持参しました。ただ、こうしたお店に人気が出て、人通りが増えてくれば、貸してくれる大家さんが増えてくるはず。その橋渡しをするのが僕たちの仕事です」

ほかにも、北欧や東欧の雑貨や洋服を扱うお店「SoPo LUCA」のオーナーさんは塩田代表の友人、身体に優しい惣菜店「ソザイソウザイ」の店主さんは「FAR EAST KITCHEN」の常連さん。人が人を呼び、ゆるやかにつながっている。ややエリアを広ければ、本格コーヒー店、パン屋さんも新しくオープン。シェアオフィスも登場している。さらにこうした環境に惹かれて、この界隈に暮らす人たちが増えるなど、街が変わりつつある。以前のようなにぎわいからは、まだまだ遠くても、だ。遠方から買い求める人もいるほど、今や、宇都宮の人気店となった「dough-doughnuts」。カフェとテイクアウト専門の2カ所ある 遠方から買い求める人もいるほど、今や、宇都宮の人気店となった「dough-doughnuts」。カフェとテイクアウト専門の2カ所あるもみじ通り。ドーナツショップ「dough-doughnuts」のカフェの隣には、「まじめなソザイとまじめにつくったソウザイ」をコンセプトにした「ソザイソウザイ」が(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

もみじ通り。ドーナツショップ「dough-doughnuts」のカフェの隣には、「まじめなソザイとまじめにつくったソウザイ」をコンセプトにした「ソザイソウザイ」が(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「今は、長い社会実験の途中。僕たちの仕事は設計だけじゃない。気持ちのいい場所、環境づくりから関わった方がいいと思うから、あれこれやっています。やっぱり、歩いて楽しい街がいいですから。今後は、夜に食事できるスナックみたいなのができたらいいなぁって思っています」。挑戦はまだ続いている。今回お話を伺った、ビルススタジオ不動産企画部の中村純さん。「自信をもって、これが正解と分かっているわけではなくて、いつも試行錯誤。でも僕たちだからこそできることがあると、危機感も感じつつ、挑戦しています」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今回お話を伺った、ビルススタジオ不動産企画部の中村純さん。「自信をもって、これが正解と分かっているわけではなくて、いつも試行錯誤。でも僕たちだからこそできることがあると、危機感も感じつつ、挑戦しています」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)●取材協力

ビルススタジオ
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