『AI 崩壊』入江悠監督インタビュー「自分達で勉強するというのは徹底してやろうと思い“人工知能学会”に入会しました」
大沢たかおさんを主演に迎え、『22年目の告白―私が殺人犯です―』の入江悠監督がAIをテーマにオリジナル脚本で挑むサスペンス超大作『AI 崩壊』が現在大ヒット上映中です。
本作の舞台はAIが私たちの生活に欠かせなくなった10年後の日本。しかし、人を救うはずの医療AI<のぞみ>が突然暴走を始め、人間の生きる価値を選別し殺戮を開始。大沢さん演じる桐生は警察からAIを暴走させたテロリストに断定されてしまい、日本中にAI捜査網が張り巡らされる中、逃亡劇を繰り広げることに……。
『SR サイタマノラッパー』シリーズや『22年目の告白-私が殺人犯です-』などを手がけてきた、入江悠監督がオリジナル脚本で挑む本作。作品作りへの思いや、リアルな描写のこだわりなどを聞きました。
――本作は監督のオリジナル脚本ですが、AIというテーマのどの様な部分に一番惹かれましたか?
入江:まず、進化が進み、色んなところに波及しているAIの現在地を知りたいと思いました。人工知能の小説や漫画、映画を色々見てきましたが、もうちょっと今の自分たちの近いところで描いたらどういう風に描けるんだろうかというのがありました。それを取材していくうちに、生活の中で少しずつ浸透していくんだろうなとか、10年後の2030年はこのくらい生活が変わってきているんじゃないのかなというのが見えてきて、これならいけると思い脚本を書きだしました。
――今後、現実の社会でも起こりそうだなと思うシーンもありましたが、監督自身が未来に危機感をもってらっしゃるのでしょうか?
入江:AIについて知らないより、知っている方がいいんじゃないかと思っているんですよね。調べていくうちに健康とか病気とか医療AIの進歩が速くて、自分の健康管理をする上でAIがあると便利だなと思いました。海外でもかなりAIが進んでいて、レントゲンをお医者さんが診るよりも、AIが診た方が大量に早く診れたりするので、癌が見つかったとか病気が早く治療できたという事例があるんですよ。みんな病気をするよりは健康でいたいですよね。それを叶えてくれるというのは、AIを取り入れた一番良い例だと思いました。
一方で危機感というか怖さみたいなのは、<一人の人間>としてというよりも、人間が<集合体>として把握されてしまうというのは、AIによるデータ化の性質上あると思うんです。あくまでもコンピューターなので、無感情の判断が恐ろしいことにつながりそうだなとも思いました。
――『22年目の告白』に引き続きニュース映像などリアルな描写が印象的でした。リアルさを追求するために心がけたこと、工夫していることを教えてください。
入江:脚本段階ではなるべくスペシャリストの先生に取材をするというのと、自分達で勉強するというのは徹底してやろうと思いました。日本映画の世界では日々色々な作品が作られていますけど、その中で一番勉強したぞっていう自負はあります。スタッフとかプロデューサーもそうですけど、当たれるところは全部当たっていきましたね。撮影中もスタッフがロボットの最先端の技術を作っている会社とか、テクノロジーを専門に使っている会社とかに声をかけて協力してもらいました。本作は、少し先の未来の話なので10年後にこの映画を観てもらえた時にも、あぁなるほどこういう描写をしたんだなというのはやっぱり検証される恐れがあると思うので、ちゃんとディティールを詰めていく作業をしました。
――「人工知能学会」にも入会されたそうですね。
入江:そうですね。大沢たかおさんが人工知能の研究者という設定なので、そもそも研究者はどういう生活をしているのか?とか、論文ってどういう風に書いているの?とか、もしくは学会の集まりはどのくらいのペースでやっているのか?というのを知りたいなと思ったので「人工知能学会」に入りました。毎月会報とかが送られてきたりするんですけど論文を読んで本当に難しいなって思いながら…(笑) そういうのも少しずつ自分の肌感覚で知っていったので、大沢さんに演出をしている時も確固たる自信になったし、頼れるところが一つできたっていう感じはあります。
――俳優さん達がそれぞれのキャラクターにぴったりだと感じたのですが、キャスティングで一番こだわった部分はどこですか。
入江:大沢たかおさんは最初にお声掛けしました。年齢的なことや大沢さんが今まで演じられてきた作品とか、ビジュアル面とか色々な理由がありますけど、物語にサスペンス的な要素が強いので、この人はただ一面的に良い人だとか悪い人だとかっていうのではなく、二面性みたいなのが醸し出せる人がいいなと思いました。賀来賢人君とか岩田剛典君とか広瀬アリスさんもそうですが、ある種の知性を感じられる人が最終的に決まっていきました。やはりどこかでお客さんのことを、「この人は今何を考えているのだろう?」とか「どっちに進んでいくのか?」という風に引っ張っていってくれないとキャラクターとして難しいので、そこまで自分で計算してできる俳優さんがいいなと。かなり豪華な方々に集まってもらえたなと思います。
撮影しているときに、賀来君や岩田君は役の性格が芝居で表現できているかを丁寧に聞いてくれて、あぁやっぱりこの人たちで良かったなと思いました。
――実際に「のぞみ」が誕生したら監督は使用されますか?
入江:医療に関して言うとAIの力を借りた方がいいだろうなって思います。未だに病院ですごく待たされるとか、もしくは次の診療まで何日も空いちゃうなどありますが、自分にちょっと異変があったときに人工知能が素早いレスポンスをくれたりしたら色んな人が救われるのではないかな、と。カルテも電子化が進んでいますし、少しずつ色んな人の難病治療とかにデータを収集して活用したりすることが進んでいますので、一般の人がそこにメリットを感じるようになるのは近いと思います。
――今日は大変貴重なお話をありがとうございました!
『AI崩壊』予告編
https://youtu.be/tMSlaXhGrfs [リンク]
【STORY】 2030年。人々の生活を支える医療AI「のぞみ」の開発者である桐生浩介(大沢たかお)は、その功績が認められ娘と共に久々に日本に帰国する。英雄のような扱いを受ける桐生だったが、突如のぞみが暴走を開始――人間の生きる価値を合理的に選別し、殺戮を始める。警察庁の天才捜査官・桜庭(岩田剛典)は、AIを暴走させたテロリストを開発者である桐生と断定。日本中に張り巡らされたAI監視網で、逃亡者・桐生を追い詰める。桐生が開発したAIを管理していたのは、桐生の亡き妻でありAI共同開発者の望(松嶋菜々子)の弟、西村(賀来賢人)。事件の鍵を握る西村も奔走する一方で、所轄のベテラン刑事・合田(三浦友和)と捜査一課の新米刑事・奥瀬(広瀬アリス)は足を使った捜査で桐生に迫る。日本中がパニックに陥る中、桐生の決死の逃亡の果てに待っているものとは?一体、なぜAIは暴走したのか?止まらないAI社会の崩壊は、衝撃の結末へ――。
(c)2019映画「AI崩壊」製作委員会
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