違法ダウンロード刑罰化規定が、著作権の保護にはほとんど役に立たないかもしれない件
今回はsophizmさんのブログ『@sophizmの日記』からご寄稿いただきました。
違法ダウンロード刑罰化規定が、著作権の保護にはほとんど役に立たないかもしれない件
追記(2012/07/03 23:15)
本ブログは「法曹関係者ではない」個人ブログです。趣味の法令解釈であって、正確性は各々で判断してください。また、下記解釈の是非に関わらず違法ファイルのダウンロードは「違法」です。違法行為を助長する意図はないことをご理解ください。
さらに、下記解釈には以下の懸念があります。
法令・省令で「有料著作物等」の定義が狭められ確定される可能性がある
著作隣接権についての解釈が別途必要である
施行前の条文で、今後状況が変わる場合もあります。
以上、追記
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煽り記事です。勘違いだったらごめんなさい。
0,導入
小倉先生のブログを読んでブッたまげた。同時に「まず条文に当たるべし」という基本を蔑ろにしていた自分が恥ずかしい。これほどまでウンコみたいな条文だとは思わなかった。
法案の成立過程がいかに拙速で手続き的に不十分かは先日の記事に書いた。
「日本版フェアユース成立過程との対比に見る違法ダウンロード刑罰化の異常さ。」2012年06月17日『@sophizmの日記』
http://d.hatena.ne.jp/sophizm/20120617/1339928890
だからなのか、この法文を書いた人は著作権のチョの字も理解できてないんじゃないだろうか・・・。
もしくは全くその逆か。
とりあえず、衆議院の議案には掲載されていなかった「修正案」である違法ダウンロード刑罰化の法案が、参議院の議案では掲載されているので、以下に載せる。
第百二条第九項第五号の改正規定の次に次のように加える。
第百十九条第一項中「場合を含む」の下に「。第三項において同じ」を加え、同条に次の一項を加える。
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。「著作権法の一部を改正する法律案に対する修正案」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/6_529E.htm
新設119条3項としては
第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
相変わらず、条文自体を見ても意味がわからないことでお馴染みの著作権法らしい内容となっているので、「なかなか著作権法のこと、分かってるじゃないか」とか通ぶってみたのは内緒です。
同条文は、簡単に書くと
私的使用の目的をもつて、有償著作物等を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
となる。
ここで問題にしたいのは「有償著作物」なる概念だ。これが真にケシカランと私なんかは思うわけです。
1,著作権法の基本の基本
なぜケシカランかという説明の前に、著作権法の基本の基本について簡単に書いておきたい。具体的には「著作物」とはなにか、である。
法律用語には一般的に「モノ」という言葉を使うときに3種類を使い分けています。「もの」と「物」と「者」です。「者」は個人は法人などの人を指し、「物*1」は文字通り物体や物質などを指し、「もの」はそれ以外の場合に使われるかと思います。
そこで「著作物」といったとき、そこには「物」という文字が使われているので、著作物とはなんらかの物体を指すものと考える人も少なくないと思う。例えば
●音楽の著作物
と言われた時に何を思い浮かべるか、
●小説の著作物
と言われた時に何を思い浮かべるか。
前者であれば、おそらく「CD」そのものを思い浮かべた人がいるでしょうし、後者であれば「本」を思い浮かべた人がいるでしょう。
しかし、それは「著作物」ではないです。
著作権法は「無体財産権」の1つと云われ、文字通り体を持たない財産権で、いわゆる物体としての財産権とは異なるものを財産権と擬制しているところに価値がある。著作権法は台2条第1項第1号に於いて
著作物 思想又は感情を創作的に表現したもの
と定義しており、著作物とは「表現したもの」です。
「表現したもの」
そう、「表現した物」じゃなくて「表現したもの」。つまり、本来「物」ではない「もの」を著作「物」としているのが著作権法。
では、「音楽の著作物」とは何か、「小説の著作物」とは何か。音楽で言えば、それはCDに入っているソレであり、楽譜として示されているソレであり、お風呂で鼻歌として発せられているソレ。小説で言えば、本に載っているソレであり、誰かが朗読して聞こえてくるアレも小説の著作物です。
つまり、著作物とは、それが載っている(化体している)物質、媒体に関わらず、その内容そのものそれ自体を指す。
2,有償著作物等のなにがおかしいか
新設119条3項は「有償著作物等を違法にダウンロードした」ときに刑罰を科すことになっています。そして、「有償著作物等」とは
録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。
と定義されている。
指摘したい要所を掻い摘むと
有償で公衆に提供され、又は提示されているもの
ここだ。
「有償で公衆に提供または提示される著作物」という概念はなんだ。
条文に即した説明をしたいと思う。
著作権法には譲渡権という権利が置かれてます。例えば、著作権者がCDを作って売るとき、「売る権利」を著作権者は持っている。ただ、条文には
著作物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
とは書かれていない。
著作者は、その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。*2
とある。なぜなら、著作物は譲渡できないから。著作権は譲渡できる、譲渡権も譲渡できる、著作物の原作品又は複製物という物を譲渡することはできる。しかし著作物は譲渡できない。著作物は概念で、表現で、無体財産だから。
3,具体的な話
iTunesで有料配信されているAという曲があったします。そのAという曲が違法にアップロードされ、違法アップロードだと知りつつAをダウンロードしたとする。その場合、まさにここにいう場合に当てはまりそうだ。
他方で、同時に、公式PVがオフィシャルにyoutubeに上がっていたとします。このPVに含まれる曲AもまたAだ。iTunesで配信されているAとyoutubeのPVに含まれるAは『全く同一の著作物』のはずだ。ライブ音源だったとしても、同じAという曲である以上、『全く同一の著作物』でないといけない。ただし演奏が異なるならそれぞれ「実演等」は異なることになるが、ここでは著作物の同一性を指摘します。
同一著作物である以上、違法にダウンロードされたAがiTunesのAなのかPVのAなのか、はたまたそれ以外のAなのかを切り分ける術はない。なぜなら、すべてAという表現、概念、無体の財産だから。
小倉先生曰く
「有償」とは、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けることをいう。したがって、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けない場合には、広告収入等により利益を得る目的であったとしても、「有償」要件を満たさないことになる。
とのことなので、youtubeのAは無償で提供又は提示されているものといえます。
Aが同時に有償でも無償でも提供又は提示されている以上、「有償で公衆に提供または提示される著作物」という要件には当てはまらないはずだ。小倉先生は3説を提示してらっしゃるが、「AがAと異なりAと同じである」という考え方は「著作物」という概念上ありえないのじゃないかなと思う。
せめて譲渡権などの文言に倣って
●著作権者又は著作権者から許諾を得た者が、その著作物をその原作品又は複製物を有償で公衆に提供又は提示していた場合
としなかったのだろうか。
4,まとめみたいな
正直、よく分からないです。どうしてこのような条文になったのか、理解不能。売られている著作物とyoutubeに公式で上げられている著作物が「別の著作物」だという理解しかしていないような気がする。もしくは、私が間違っているか。私が間違っていなければ、CMで流れている音楽や、ラジオで流れている音楽も無償で提供又は提示された著作物なのだから、もはやテレビにもラジオにもyoutubeにもiTunesの試聴にも出てきていないような音源しか想定できないように思える。
結局、「有償著作物」のうち「著作物」に限って言えば、著作権者の権利保護にはほとんど役に立たないかもしれない。
著作隣接権については、また別の話。
*1:ブツとも読む
*2:カッコ書き内削除
執筆: この記事はsophizmさんのブログ『@sophizmの日記』からご寄稿いただきました。
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