ドラマ『同期のサクラ』主人公サクラの行動に学ぶ──共感型の職場における「正しさ」とは

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ドラマ『同期のサクラ』主人公サクラの行動に学ぶ──共感型の職場における「正しさ」とは

ドラマ『同期のサクラ』に登場する主人公、北野桜(高畑充希)は、一切空気を読まず、正しいと思うことをはっきり相手に伝える性格です。その言動は社内外で波乱を呼び、希望部署への配属がかなわないばかりか、窓際部署や子会社へ異動させられ、理不尽な扱いを受けています。

サクラの行動は、本当に「正しかった」のでしょうか。職場のコミュニケーションに精通する沢渡あまねさんと、これからの時代の「正しさ」のあり方について、掘り下げてみましょう。

沢渡 あまねさんあまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え()』ほか多数。

【1】周りの落ち度はどこまで指摘したらいい?

他人の迷惑になる行為を見過ごせないサクラ(高畑充希)。通勤途中で道行く人に「すみませんが、通行の邪魔になっているので横に広がらないでいただけると助かります」(1話)「スマホを見ながら歩くのをやめていただけると助かります」(5話)と、注意してまわり、遅刻しそうになってしまいます。

ビジネス現場ではこう動く【評価】★★☆☆☆沢渡あまねさん

他者の落ち度に対して、正義感を持って指摘するサクラの勇気は評価できます。しかし、正論だけで押し通すと、相手のメリットにならないこともあり、反感を買ってしまいます。客観的に状況を見つめ、明るく、相手の得になるような指摘の仕方をすると、彼女の要望も受け入れられやすくなります。

相手のメリットをさらりと明るく伝えよう

ここでのサクラの伝え方は少しもったいないと、感じました。例えば1話の場合、「盛り上がってますね、ちょっと通していただけると嬉しいな~」と、明るくサラッと言えばがらりと印象は変わります。相手の状況に笑顔で共感を示しながら、自分の希望もしっかり伝えることで、ダメ出しをされた印象が弱まり、相手も受け入れようという気持ちになると思います。

できればユーモアまじりで伝えた方がよいのですが、まずは「明るく伝える」「相手のメリットになる言い方をする」ことを意識するだけで、相手のコミュニケーションも変わってくるでしょう。

【2】同僚が上司の理不尽に困っていたらどう助ける?

同期の清水菊夫(竜星涼)は、営業部で部長(丸山智己)に振り回されています。残業続きに、夜の接待。下請けに工期を短縮するよう強要しろと言われています。

高圧的な菊夫の上司に、サクラは「これ以上過酷な残業を強要して菊夫くんが過労死でもしたら、上司として管理責任を問われることになると思いますが、その覚悟はおありなんでしょうか?」とはっきり指摘します。(2話より)

ビジネス現場ではこう動く【評価】★★★★★沢渡あまねさん

気合いや根性、異常な超過労働を良しとする時代遅れのマネジメントをしてしまう人。そういう人たちには、ずばりストレートに指摘しないと調子に乗ってしまい、自分たちに非があるとは思ってくれません。サクラのようにストレートに言わなければ、職場は変わっていきません。素晴らしい行動だと思います。

はっきり伝えなければ、組織は変わらない

多くの企業では、過去の成功パターンにすがって、成長意欲のある若手を傷つけている中間層やシニア層が存在していることが少なくありません。とはいえ、こうしたことを上司に直接言いにくい場合もありますよね。

その時はこの部長の上の立場である本部長や、他部署の部長など、周りの役職者を味方につけることが有効です。自分自身で伝えると不利益が発生してしまうような状況ならば、周りにアピールすることによって守ってもらえるように自衛することも必要です。

サクラはただ愚痴を言っているわけではなく、「私には夢があります!」と自分の夢に対して真摯な姿勢を貫いています。こうした軸があれば、その人の意見には共感者が増えていくはずです。味方を増やすためには、まずは自分自身が「自分なりの軸」や「正義」を持って行動しましょう。

転職や第三者機関へ訴えることも有効

サクラはこの事件の後に、社史編纂室に左遷されてしまいます。サクラは同期には共感者を増やしているのですが、上司や役員からの共感は得られていません。

これだけ正しいことをして受け入れられないということは、彼女自身が組織のカルチャーとマッチしていない可能性があります。花村建設のような旧態依然とした組織には、サクラのような考え方は新しすぎるのかもしれません。

サクラの夢は花村建設でなければ叶えられないのかもしれませんが、一旦転職を考えてみるのも一つの手です。あるいは、誰に相談しても長時間労働が是正されず、八方塞がりな場合は、労働基準監督署など第三者機関に相談することも検討してみるといいでしょう。

【3】悩んでいる人の心の内面にどこまで踏み込める?

国交省の役人の息子である木島葵(新田真剣佑)。高い地位にいる親や兄と自分を比べて、「自分には力がない」と落ち込んでしまいます。その葵に対して、サクラは葵のプレゼンテーションやスピーチの才能を率直に褒め、心を動かします。

「あんた黙ってたらなんの価値もないから。嘘も方便って言うけどさ、人を幸せにしたい、希望や勇気を与えたいと思ってたら、絶対いつか本当の言葉になるよ」

「あなたには素晴らしい才能があるんだよ。元手もかからずに、たくさんの人を動かせる力がある。そんな言葉を失ってどうするの?」

(5話より)

ビジネス現場ではこう動く【評価】★★★★☆沢渡あまねさん

相手の良さや価値を客観的に言語化することは重要です。「私にはこういう価値があり、あなたにはこういう価値があるから一緒に仕事をしましょう」と働きかけることで、新しいコラボレーションが生まれ、イノベーションに繋がります。とはいえ、しつこく言葉をかけすぎてしまうと重荷に感じてしまう人もいるかもしれません。相手の性格や心理状態、余力を見て言葉をかけるようにした方が良いでしょう。

共感型の組織では互いの価値・良さを言語化すること

現代のマネジメントにおけるキーワードは「共感・エンパシー」です。いかに相手の立場に立ち、相手の目線に立って言葉をかけ、支援できるのかが、フラットで柔軟性の高い組織にするために重要なことです。

人は誰かに言語化してもらえなければ、自分の価値や得意・不得意を自己認識できないものです。日本人はこうしたことがとても苦手ですが、積極的に相手の価値や得意な面は言葉にしましょう。

個々人がクリエイティブに価値を発揮していくこれからの時代、人と人、組織と組織が繋がる共感型組織において、サクラのようなアクションがより一層求められるようになると思います。

【4】自分の夢と正義、どちらを優先させる?

サクラの夢だった地元の島と本土の間に架かる橋が、ようやく着工しました。しかし、橋に使うコンクリートの量に問題があることをサクラは知ります。

サクラはいつものように土木部の役員(丸山智己)にストレートに進言しますが、「橋を建築し直すことはできない、このまま工事を続けるか、すべて中止にするかどちらかだ」と言われてしまいます。この事実を、住民説明会で伝えるかどうか迷い、結果真実を話してしまいます。(7話より)

ビジネス現場ではこう動く【評価】★★☆☆☆沢渡あまねさん

こうした住民説明会では、会社としてどうするかという姿勢が求められるので、いきなりこの話をするのは得策ではありません。住民をいたずらに不安にし、場を混乱させてしまいます。サクラは、社内外にもっと味方を作っておくことをお勧めします。

その正義感は「誰の得に」なるのか

正義感やコンプライアンス意識は間違いなく重要なものですが、サクラの場合、十分に社内で根回しをして、理解のある人に協力を仰ぐと、もう少しスマートに動けるのではないかと思います。

彼女の正義感はとても評価したいと思いますが、すべてのことを、その場で瞬発的にストレートに伝えることが良いわけではありません。それまでのすべての努力が無に帰してしまい、誰も得をしないのです。

正しいことをしたいなら、そのためにどうすればいいのかと策を練る。サクラは忖度をしないと決めているなら、もう一段階ドライになって、「どうすれば自分の正しさを通せるのか」といった戦略を立てましょう。

【まとめ】思いに戦略と参謀が加われば無敵になれる★★★☆☆

今、時代は大きく変わろうとしています。これまで日本の大手企業では一般的だった、トップを頂点とした統制的な仕事の仕方は絶望的に時代遅れになりつつあります。一方で、スピード感のあるベンチャー企業が、イノベーションを起こして世の中を牽引するようになってきました。

これまでの仕事の仕方や常識を疑ってかからなければ、組織もそこで働く個人も成長は頭打ちになってしまいます。常識にとらわれず、軸を持って行動し、正しく提言していくサクラの行動は、これからの時代にこそ価値を発揮する生き方です。

ただ、旧態依然の大きな組織では、正論をつきつめると組織の論理によって潰されてしまうことがあります。サクラは「思いの強さ」に加えて、上を説得するために必要な参謀を見つけることができたなら、無敵だったと思います。

今後、彼女がどう動けば周りを動かせるのかもっと戦略的に動くことを学び、より成長していくことを期待したいですね。

<番組情報>

『同期のサクラ』(日本テレビ 水曜 22時~)

新潟の小さな離島からひとり上京し、大手ゼネコン「花村建設」に入社した北野桜。「私には夢があります!」と高らかに宣言し、心を通わせる仲間を作り、離島と本土の間に橋を架けたいという夢を目指して邁進します。誰にも忖度せず、逆境に負けないで自分を貫いたサクラと同期の10年にわたるストーリーを追いかける。脚本は『家政婦のミタ』『過保護のカホコ』などの遊川和彦、出演は高畑充希、橋本愛、新田真剣佑、竜星涼、岡山天音、津嘉山正種、相武紗季、椎名桔平他。

WRITING:石川香苗子

新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。

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