日本人は生活の中でどう植物を利用してきたのか?

 私たちが生活している空間を見渡すと、電化製品やプラスチックでできた製品にあふれている。
 昔は調理や風呂を沸かすにも薪を使っていたが、今ではIHコンロで調理出来たり、ガスや電気を使ってボタン1つでお風呂を簡単に沸かすことができるようになっている。しかし、本来、日本人は、自然を暮らしの中に取り込んできた。では、先人たちは植物をどう利用してきたのだろうか。

 『日本人は植物をどう利用してきたか』(中西弘樹/著、岩波書店/刊)は、青少年交友協会の新聞『野外文化』に「生活文化と植物」と題して50回にわたって連載した記事をもとに、全面的に書き改め、加筆したもの。さまざまな植物の利用の仕方について「食材として」「健康のために」「日常の道具として」「成分を利用する」「家の構成要素として」「年中行事との関わり」の6章に渡って紹介している。

 例えば「食材として」では、日本特有の辛味植物としてワサビをとりあげている。ワサビはアブラナ科の多年草で、山地の渓流沿いに生育し、春には白い花を咲かせる。野生のものは古くから使われていたが、栽培は江戸時代末期からで、今ではワサビ田とよばれる水流のある砂利場で行われ、長野県と静岡県が主産地となっている。根茎には独特の辛味と香りがあり、鼻の奥につーんとくる辛味は、生魚の生臭さを消すため、刺身の香辛料として使われてきた。

 「日常の道具として」では、楊枝を紹介。木や竹でできていた生活の中の小道具もプラスチック製に変わっているが、相変わらず木を使っているものの中に爪楊枝がある。
 楊枝はもともと歯を掃除する道具として発達したものだ。ブッダが楊枝で歯を磨き、口内を清めることを僧侶に広めたのがはじまりといわれ、その風習がインドから中国を経て、日本へ仏教とともに伝えられたといわれている。
 材料としては、ヤナギ類、クロモジ、スギ、タケ、モモなど多くの樹種が使われてきたが、中でも有名なのが「クロモジ」だ。いまでも和菓子にそえられる楊枝は、この材が使われている。クロモジにはシネオール、リナロールなどという精油分に基づく香気があり、一種の殺菌作用がある。だから、この材の妻楊枝で歯を掃除することは、歯の衛生にいいと考えられているのだ。爪楊枝の材料一つとっても、昔の人の感覚や知恵には驚かされるばかりだ。

 最先端の技術で私たちの生活も様々な面で便利になっている。しかし、使うには不便と感じるものもあるかもしれないが、植物でできている製品には、プラスチックでできているものとは違うあたたかみのようなものを感じるもの。自然環境をもっと大切にするという意味でも、もっと植物を利用した道具に目を向けてみてはどうだろうか。
(新刊JP編集部)



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