石川に「伝統工芸のテーマパーク」があるらしい!?
アラサーになった人がこれまでは見向きもしてこなかったものに突如ハマった、という話をよく聞いていた。「突然ジャニーズにハマった」や「急にコスメオタクになった」などと知人から聞かされるたびに覚悟はしていたのだけれど、私(ライターの生湯葉シホと言います)は27歳を迎えた2019年、まさかの「食器」にハマった。
ふらっと入ったカフェに食器や酒器のギャラリーが併設されていたり、旅行先で工芸品を扱っている雑貨店を見つけたりすると、平気で1時間くらい居続けてしまう。だから今回、びゅうたび編集部から「加賀で伝統工芸を体験する旅行に行きませんか?」とお誘いを受けたとき、「それはもう!」と前のめりで快諾した。
……というわけで、JR東京駅から北陸新幹線で約2時間半のJR金沢駅へ、そこから約40分間北陸本線にゆられ、伝統工芸のテーマパークがあるというJR粟津駅に向かうことになった。
東京駅
新幹線のビールこそ旅の醍醐味!
暑さも一段落し、気持ちのいい陽気になってきた9月下旬。今回の加賀旅行には、友だちの潮ちゃんと一緒に向かう。午前中の新幹線だったのだけれど、お互いにテンションが上がってさっそくビールを開けてしまった(これも旅の醍醐味ということで)。
金沢に到着するなりはしゃぐ潮ちゃん
金沢駅
車窓から見える街並みを楽しみながら温泉街へ
金沢駅から乗り継ぐ予定の北陸本線は、約1時間に1本。念のため早めに着く新幹線をとっていたので、次の列車まで40分ほど空き時間ができた。ひとまず金沢の玄関口・鼓門を背景に記念撮影をしたあと、いよいよ北陸本線に乗り込む。
福井駅行きの北陸本線
車内では、金沢駅のおみやげコーナーを散策して見つけた「しおサイダー」と「金沢カレーコーラ」を飲んだ。そもそも「金沢カレー」って? と思ったので調べてみると、ソースのかかったカツがのった石川名物のカレーらしい。
ソースカツ……? と若干の怖さを抱きながらカレーコーラを飲んだが、本当にソースカツとカレーの味がした。面白いけれど味のインパクトが強すぎるので、2人で1瓶でちょうどよかった。
金沢カレーコーラ しおサイダー
目的地の粟津は温泉街ということもあり、車窓から見える景色も温泉街らしい感じかと思っていたのだけれど、思いのほか民家が続く。ずっと見ていると、潮ちゃんが「なんか、黒い屋根瓦の家が多くない?」と気づいた。
あ、たしかに!
これも気になって調べてみると、「能登の黒い屋根瓦」として名物の光景らしい。なんでも、屋根の上に積もった雪が早く溶けて落ちやすい、という理由からこういった民家が多いのだそう。
サイダーとコーラを飲みつつ、濡れたように光る民家の屋根を車窓からぼんやりと見ていたら粟津駅に到着していた。
粟津駅
宿の「辻のや花乃庄」で早めの夕食を
粟津駅から、今回宿泊する宿「辻のや花乃庄」へ向かう。駅からは事前予約制の無料送迎バスで8分ほど。
到着!
しばらく宿の周りを散策したあとで、早めに夕食をいただいた。石川名物の「のどぐろ」の天ぷら、紅葉に見立てたかるかん煮、秋らしい松茸ごはん……と盛りだくさんのメニュー。
金箔が散らされた、黒毛和牛のせいろ蒸し
中でも、黒毛和牛のせいろ蒸しはおいしすぎてため息が出た。口の中で溶ける、とはこのことか! と納得してしまう。潮ちゃんは衝撃を受けたようで、「明日からこの肉のいない世界で生きていかないといけないのか……?」と何度かつぶやいていた。
辻のや花乃庄
入浴後は庭園のプロジェクションマッピング
夕食のあとは館内の温泉に入り、移動の疲れをとる。露天風呂はもちろん、壺湯、寝ころび湯、座り打たせ湯、岩盤浴などたくさんの種類があって、2時間近くのんびりしてしまった。
露天風呂でテンションが上がって恋バナをした
お風呂のあとは、宿の名物でもある日本庭園のプロジェクションマッピングを鑑賞した。このプロジェクションマッピングは20時から22時までの2時間、365日毎日開催しているのだそう。時間によって投影される模様が変化してゆくのが綺麗で、いつまでも眺めていられそうだった。
木々を背景に、幻想的な模様が投影される
温泉でホカホカになった体で部屋に戻り、ぐっすり眠った。
加賀 伝統工芸村 ゆのくにの森
伝統工芸のテーマパークへ!
翌日は、今回の旅のメインでもある伝統工芸のテーマパーク、「加賀 伝統工芸村 ゆのくにの森」へ向かう。宿からは歩いて10分ほどで到着した。
「ゆのくにの森」の入り口に到着!
なんでも、この施設では蒔絵体験や吹きガラス体験、金箔はり体験など、50種類以上(!)の伝統工芸体験ができるらしい。施設内は広く自然豊かで、随所で石川らしい風景が見られるのも歩いていて楽しいポイントだ。
友禅染の工程である「友禅流し」を再現した小川もインスタジェニックな通りもあった
ゆのくにの森
オリジナル箸を創る「沈金体験」に挑戦!
日常的に使えるものが作りたい! ということで、潮ちゃんと私はお箸の「沈金体験」をしてみることに。沈金とは、漆面に模様を彫って、金箔や金粉を埋め込んでいく伝統的な技法だという。
まずはお箸の前に、漆のプレートで練習していく。鉄筆を使い、漆の表面に傷を付けるようなイメージで絵や模様を入れていくのだけれど、これが想像以上に難しい……! 鉄筆を寝かせると彫れなくなってしまうので、垂直に保ち続けないといけない。しかもお箸はプレートよりかなり細いので、さらに難易度が上がる。
「本当にお箸に彫るの? 細すぎない……?」
プレートに慣れたら本番のお箸に移り、慎重に彫り進めていく。できあがるまでお互いのデザインは見ないことにして、黙々と作業を続けた(1時間くらい黙っていたと思う)。
彫り終えると、職人さんがその部分に漆を塗り込んでくれる。余分な漆をふきとり、金粉を沈めてもらう。
最後に上から金粉を散らすと、沈金のお箸が完成!
漆が塗りたてで直接さわるとかぶれてしまうので、すぐにビニールに入れてもらった。潮ちゃんのお箸は、ブランコや月や星などをちりばめたロマンチックなデザインだったことが判明した(オシャレ!)。
沈金体験は難しかったけれど、時間を忘れるほど楽しかった。職人さんによると、一度沈金を体験して以来ハマってしまい、ゆのくにの森に何度も通っているというお客さんもいるのだそう。
ゆのくにの森
どこから見ても金の「黄金の間」を見学
沈金体験のあとは村内を散策する。「金箔の館」という建物の中には、部屋全体が黄金に輝く「黄金の間」があると聞いてさっそく入ってみた。
「黄金の間」の天井、壁、襖、欄間は純金箔、畳は金糸で装飾されているという。想像以上の黄金ぶりにくらくらしてしまった。なんでも、金沢の金箔は全国で生産されている金箔の99%以上を占めるのだとか。
いわれてみると、金沢にきて以来、金箔があしらわれたおみやげや食べ物を頻繁に見ている(昨晩の黒毛和牛もだった)。金箔の館の売店にも金箔入りのコスメやアクセサリーがずらっと並んでいて、金という色の迫力を感じた。
村内では金箔が巻かれた「金箔ソフト」も買える
ゆのくにの森
ゆのくにの森で伝統工芸品のおみやげ探し
ランチは「うどん処 陣太鼓」で、地元・小松市で製造された小松うどんをいただいた。
白く細くてやわらかい麺が小松うどんの特徴なのだとか。出汁もあっさりめで、「これなら毎日食べられる……」と思えるようなやさしい味だった。
食事のあとは、村内を歩いておみやげ品を探す。体験施設が多いだけあって、村内で売っている伝統工芸品もかなりの数!
ガラス工芸のグラスは涼しげで美しい鮮やかさがかわいい九谷焼のお皿と盃
ガラスの酒器や九谷焼の豆皿、蒔絵の小物入れなどがところ狭しと並んでいて、見るたびに「かわいい!」「これもほしい!!」とはしゃいでしまう。私は自分と家族のおみやげに、ガラス工芸の箸置きを購入した。
ひとつひとつ表情が違うガラスの箸置き
村内はかなり広く見どころも多いので、可能ならたっぷり半日くらいの時間をかけて遊びに行くのをおすすめしたい。
小松バスでゆのくにの森の目の前の上荒屋バス停から粟津駅まで乗車した。少し道が混んでいたので20分ほど(通常12分ほど)かけて粟津駅に戻り、1日目と同じく北陸本線で金沢に向かう。
金沢駅
北陸新幹線内でおみやげの地ビールを
あとは東京に帰るだけということで、金沢駅のおみやげコーナーで地ビールの「Yuwaku Yuzu Ale」と「金澤麦酒」を購入。名産であるのどぐろの浜焼と合わせて、東京駅に向かう新幹線の中で楽しんだ。
東京までの約2時間半という時間は、ビールを1本飲み、旅行の感想を話して、ちょっと酔いが回ってきたらウトウトする……という流れにちょうどよすぎる。「楽しかった!」「楽しかったね!」と何度も言い合ってから解散した。
自宅
工芸体験で作ったお箸は、家で活躍中
当たり前のことなのだけれど、仲のいい友だちと行く旅行は楽しいな、としみじみ感じる1泊2日だった。東京から粟津までは列車を乗り継いで4時間近くかかるのでちょっと飽きるかなと思っていたが、おしゃべりをしたり地ビールを飲んだり、車窓からの風景を楽しんだりしていたらあっという間だった。
伝統工芸の体験も、その集中ぶりやデザインのセンスに驚くなど、友だちの知らなかった一面を見られたような気がしてうれしかった。女子ふたりで行く加賀温泉郷、かなりおすすめです。
作ったお箸はおみやげの箸置きと一緒に使っている
掲載情報は2019年10月29日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
旅するメディア「びゅうたび」は、ライターが現地を取材し、どんな旅をしたのかをモデルコースとともにお届け。個性たっぷりのライター陣が、独自の視点で書く新鮮な情報を、臨場感たっぷりにご紹介します。
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。