売れる営業はたとえ話が上手い?営業力は脳の使い方と関係していた

同じ会社で、同じマニュアルを手にして、同じように働いてきたはずなのに、ふと気づくと同僚に営業成績で先を越されてしまっている。努力していないわけでもないのに一体なぜ…。そんなときは、つい不安になってしまいますよね。

大手企業を中心に教育研修事業を展開し、研修講師育成や研修プログラム開発を行っている伊藤泰司氏によると、売れる営業と売れない営業の差は、脳の使い方にあり、脳科学を活用することで、より多くのYESやより大きなYESを得られるようになるといいます。

今回は、同氏の著書『いつ・どこで・誰に・何でも 売れる人の法則』(クロスメディア・パブリッシング)より、営業に関連する脳の器官とその性質についてご紹介します。

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■売れる営業は相手の記憶に残る

記憶を司る【海馬(かいま)】

商品やサービスを売るためには、まずは鮮明に相手に自分が薦めるものを記憶してもらわなければなりません。そのためには、すぐに忘れさられる記憶と、長く残る記憶の特徴を知っておく必要があるでしょう。

記憶を司る「海馬」は「知識メモリー」と「体験メモリー」の2つの箱が置かれているようなもの。容量の少ない「知識メモリー」には海馬が「忘れてもよい」と判断した記憶が入力され、新しい情報が入ると、古い情報は次から次へと抜け落ちていきます。

一方、容量のある「体験メモリー」に入力された情報は、「自分の人生のためにも持っていたほうがいい」と海馬が判断し、いつまでも忘れずに残ります。記憶力の高い人たちは、こうした「記憶から抜けにくい入れ方」をしているのです。

感情を揺さぶる【扁桃体(へんとうたい)】

情報を「知識メモリー」に入れるか、それとも「体験メモリー」に入れるか。海馬がその判断を行う際、基準としているのが 「扁桃体」です。感情や喜怒哀楽を合わせて司る「扁桃体」が反応しない情報は、単なる知識として「知識メモリー」の箱に入れられ、すぐに忘れられてしまいます。一方、扁桃体がプルプルと震えた情報は、絶対に捨ててはいけない情報として「体験メモリー」に入れられるそう。つまるところ、上述の「記憶から抜けにくい入れ方」とは、扁桃体をよりプルプルさせ、「体験メモリー」に情報を入力することを指すのです。

【海馬と扁桃体をうまく稼働させる方法ー「たとえ話」を駆使する】

では、どうすれば扁桃体をよりプルプルと震わせ、相手の海馬の体験メモリーに商品やサービスの記憶をとどめておくことができるのでしょう。それは疑似体験を引き起こし、情報を自分事化することです。売れる営業ほど「たとえ話」がうまく、お客様にあたかも自分が主役になりきったような映像を妄想させることを得意とします。そうすることで、お客様の感情を揺さぶり、相手の扁桃体を震わせているのです。

■売れる営業はやる気を常に維持する

やる気スイッチの役割を担う【淡蒼球(たんそうきゅう)】

また、売れる営業と売れない営業の大きな違いに、「やる気」があります。脳の前方に位置する「淡蒼球」は、どんな仕事にも必要な「やる気スイッチ」の役割を司っています。ところが、この淡蒼球、「やる気スイッチ」を担当しているわりには、自分の判断でスイッチを押すことができないという弱点があります。

では、どうすれば淡蒼球にやる気になってもらえるのでしょう?その方法は二つです。一つは、上述の扁桃体がプルプルと震えたときにびっくりしてやる気スイッチを入れる準備をする方法と、もう一つは、「初めの一歩」を実際に踏み出すことで、あとからスイッチを入れる方法です。

一流のスポーツ選手やタレントは、日々過酷なトレーニングを積んでいるため、人並みはずれてイメージする力が強く、ハードルを下げるまでもなく扁桃体が警報レベルでプルプルします。しかしながら、それはごく限られた人のやり方であり、凡人はそうもいきません。

【淡蒼球をうまく稼働させる方法ー考えるより「初めの一歩」】

凡人ほど「どこから手をつけようか」「どうやったらうまくいくだろう」と、いつまでも考え込んでいるうち、やる気スイッチは一向に入らないもの。そこでまずはハードルを下げて、小さいところからとにかく始めることが重要となってきます。「初めの一歩」を踏み出すことにより、感情を司る扁桃体を震わせやすくなり、連動して「やる気スイッチ」の役割を担う淡蒼球は稼働するのです。

売れる営業をよく観察してみると、イメージトレーニングが人並み外れてうまいか、初めの一歩を臆さずに踏み切れるひとが多いですよね。

■売れる営業は小さなレベルで新しい変化を起こす

ブレーキをかける【側座核(そくざかく)】

感情を司る扁桃体や記憶を司る海馬の働きを邪魔したがる器官が側座核です。いつもネガティブモードでなまけ者、その上、ひねくれた性格というのですから厄介です。

側座核は新しいことを始めたり、がんばったりすることが大嫌いな性質なので、海馬がなにか入力して新しい情報を残そうとすると、「やめとけ」と邪魔に入ります。短期集中ダイエットをやったあとにリバウンドしたり、短期集中セミナーに通ってインプットしたはずの知識がさっぱり残っていない場合、この側座核の働きが要因になっているかもしれません。

【側坐核に邪魔させない方法ー「PDCA」サイクルを繰り返す】

新しい習慣を身につけるためには、側座核に悟られない小さなレベルで新しい行動を上書きしていくことが大切です。習慣を一気に変えようとすると側座核がすぐ変化に気づき、リバウンドという名の返り討ちにあってしまうため、それを遮るためにも「PDCAサイクル」を利用します。「PLAN(計画)」「DO(実行)」「CHECK(評価)」「ACTION(改善)」を繰り返すことで、継続的に業務を改善することが可能となります。

かつては「がんばればなんとかなる」「根性で乗り切れ」などと言われたものですが、脳科学が解明されつつある現代では、脳のクセや性質を知り、うまく取り入れることで、日々の営業活動の糧にすることが可能となりました。売れる営業は、たとえ話を駆使し、「初めの一歩」を踏み出し、PDCAサイクルを繰り返す。納得ですね。

文=山葵夕子

参照=『いつ・どこで・誰に・何でも 売れる人の法則』(クロスメディア・パブリッシング)

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