[会見全文]映画「ジョーカー」トッド・フィリップス監督ビデオ通話会見 「またホアキンと仕事ができるなら何でもやる」

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孤独だが純粋で心優しいコメディアン志望の男・アーサーが、唯一無二の悪のカリスマへと変貌していく様を描いた映画「ジョーカー」が、10月4日(金)に日米同日公開となる。

ホアキン・フェニックスが「バットマン」シリーズの中で最も有名なヴィラン(悪役)・ジョーカーを演じた本作は、第76回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、最高賞となる金獅子賞を受賞。オスカー作品賞獲得への期待も高まっている。

9月20日、本作で監督と脚本を務めたトッド・フィリップスがビデオ通話会見を実施。日本の記者からの質問に答えた。

――素晴らしい作品でした。アメリカの社会的な問題や人間のあり方が描かれている作品の中で、監督が最も大切にしたメッセージは何でしょうか。

フィリップス監督:私は映画のメッセージを必ずしも定義したいとは思いません。映画を見に来た人の中には、ジョーカーの原点を描いた話として、何らかのメッセージを受け取らない場合もあります。政治的な映画だと見る人がいるかもしれませんが、それは私が意図した所ではありません。また人によっては人道主義者的な映画だと思う人もいるでしょう。どんなメッセージを受け取るかは全て観客に委ねています。

――共同脚本のスコット・シルバーや主演のホアキン・フェニックスとアイデアを出し合って脚本を練られたと聞きました。2017年に脚本を書き上げた時と、実際に完成した映画では、内容がどのくらい変わっているのでしょうか。

フィリップス監督:数字で説明するなら映画は脚本の80%を反映し、撮影の当日に変わった部分が20%ほどあります。変更した部分はザジー・ビーツのキャラクターに関して。また、ホアキンと私が話し合った結果、脚本に手を入れて即興にしたシーンもあります。脚本は映画の青写真的なもので、完成した映画がすべてです。

――バットマン生誕80周年を祝い、ちょうど本日、DCのジム・リーが日本で式典に出席します。記念すべき年に今までと全く違ったジョーカーを生み出したことに驚きました。時代を反映して意図的にこのようなジョーカーを作ったのでしょうか。あるいは、すでにあったイメージのジョーカーを作ったのでしょうか。また、今作のジョーカーは今後、(他のシリーズとは関連しない)独立した作品となるのでしょうか?

フィリップス監督:二つ目の質問からまず答えると、このジョーカーは独立したもの。決して大きなユニバースの一部として作ったものではありません。作品を作った目的は、みんなが長い間知っていて愛着を感じているキャラクターを研究し、しっかりとした現実的なキャラクタースタディーを作り出すことにありました。素晴らしいコミックスが描かれ、過去に偉大な俳優が演じているし、テレビ番組も制作されたキャラクターであるがゆえに、チャレンジもあり怖い気持ちもありました。しかし、ホアキンと私にとって、自分たちのバージョンを作ることが大切だったんです。制作している時、全て可能な限り現実のレンズを通してみようとしました。ジム・リーに関してだけれど、アニバーサリーに来るというのは面白いですね。彼とはメールでのやりとりしかしていないけれど、映画がとてもよかったと言ってくれました。みんなが知っているジョーカーとは全て逸脱しているのにも関わらず、私たちが作ったこの映画の独特なスタイルが特に気に入ったと話してくれました。

――ホアキン・フェニックスとロバート・デ・ニーロは映画史に名を残す怪物的な名俳優だと思いますが、この二人の共演シーンについて撮影現場の様子はいかがでしたか?

フィリップス監督:怖気づいたと言っていいのか……、私とホアキンは二人ともロバート・デ・ニーロが最高の俳優だと思っています。撮影の現場ではなく、ボブ(デ・ニーロ)のオフィスにこの映画の制作について話に行った時、ホアキンは彼と一度も共演したことがなく、また彼を崇拝していたのでとても緊張していました。私はホアキンとボブと一緒に映画作りの話をしているなんてとても非現実的でした。最終的にあの共演シーンを撮影した時、ホアキンはジョーカーとして自分の世界に入り込んでいました。9~10ページのシーンで4、5日かかって撮影を済ませました。その時はもうホアキンはキャラクターにすっかり入り込んでいたんです。ボブと会う前の怖気づいたような気分は彼のニューヨークのオフィスに行った時のこと。この二人の俳優の間に座っていたあの日は素晴らしい一日でした。

――劇中でジョーカーが踊るシーンが印象的でした。

フィリップス監督:初期の頃にホアキンと話したのは、アーサーとジョーカーの頭の中には常に音楽が流れているということ。これを表現する方法として考えたのがダンスです。そしてもう一つ、ダンスは彼の転身も表しているんです。最初、彼が真剣にダンスしているのは銃を渡された時。アパートの中でダンスをしています。そして、その次は地下鉄の中で3人の男との事件があった後。ダンスが少し上手くなり、次はバスルームで踊っています。彼の中からジョーカーが出現していることをダンスで表しているんです。その部分を楽しんで作りました。それが、ある階段で最高潮に達する。アーサーを捨てジョーカーを受け入れていくんです。

――続編はないと監督はおっしゃっていますが、もしホアキンが希望したら状況は変わるのでしょうか?

フィリップス監督:状況は変わると思います。この作品をホアキンと作ったことで、人生の中で最も素晴らしいと言える経験ができました。またホアキンと仕事ができるなら何でもやるつもりです。続編の可能性について冗談で話したことがあっても、真剣に話した事は一度もありません。もし彼が本気で「もう一本作るべきだ」と言ったら、そのことで彼と話したいし真剣に考えるつもりです。彼は本当に素晴らしいから。

―監督の「ハングオーバー!」シリーズも大好きです。これまでジョークやユーモアを詰め込んだ作品を多く作られてきて、今作ではジョークの違った側面を描いていると感じました。監督にとって人生におけるジョークの役割とは?

フィリップス監督:この映画で表現しようとしたことは、ホアキンが実際に言っています。「俺の人生は悲劇だと思ってきた。でも今分かった。喜劇だったんだ」というセリフです。コメディー映画を多く作り、コミック作品の仕事も多くし、面白い人と仕事をしてきた人間にとっていつも彼らから受け取ったことがこの言葉。これをこの映画でも少し探求したいと思ったんです。

――改めて、素晴らしいジョーカーを作り上げたホアキンの演技について振り返ってください。

フィリップス監督:今までもホアキンはこの世代で最も優れた俳優だと思っていましたが、彼が毎日この役作りでもたらしてくれたものは驚きの連続でした。説明するのは難しいです。脚本のページを見て、そのシーンが演じられるのを目の当たりにしていれば分かるかもしれませんが、ホアキンのような俳優が役をどれほど素晴らしいものにしてくれるのか、数値で示すことはできません。見ている側は、口をポカンと開けてしまうような状態になるんです。カメラのオペレーターに向かって、「今見ていた? 信じられない!」と言ってしまったほどです。それほど素晴らしいけれど、説明したり言葉で表現するのは難しいです。

――これまで何度もチームを組み、今作ではプロデューサーとして参加したブラッドリー・クーパーがこの映画にもたらしたものは?

フィリップス監督:私たちはお互いの映画を制作している。つまりお互いにフィードバックを与え合う関係です。脚本に対するフィードバックもそうだし、編集室に一緒に入ることもあります。私にとってブラッドリーは編集室においてはかけがえのない存在です。一日中、そして何日も足を運んで、カットやシーンを見てはメモを書いてくれる。これは「アリー/スター誕生」で私がしたことと基本的には同じです。素晴らしいパートナーシップで、「ハングオーバー!」シリーズの1作目の撮影からもう12年も知っている仲ですが、最も信頼している親友であり、コラボレーターの一人です。

――アーサーがトークショーに行く時の「Rock and Roll Part 2」(ゲイリー・グリッター)など、音楽の使い方が印象的でした。音楽はどのように選んでいるのですが?

フィリップス監督:脚本の中にすでに書いていることもありますし、ポストプロダクションの段階で決めることもあります。「Rock and Roll」は脚本に書き込んでありました。この音楽はあまりにもばかげています。アーサーの頭の中で彼が狂気へと落ちていく過程で流れている曲です。アメリカではこの曲は何年もの間スポーツの競技場で使われていました。チームが準備できてから、競技場に入っていく時にかかる音楽です。この曲は意図的に選びました。ばかばかしいのは意図的にそうしたんです。

――子どもの頃からDCコミックスのファンでしたか? ジョーカー以外に映画を作りたいと思ったキャラクターはいますか?

フィリップス監督:子どもの頃にコミックスを読んでいて、正直なところ最初に面白いと思ったのはフランク・ミラーの「デアデビル」シリーズでした。「デアデビル」はマーベルコミックスですが、フランク・ミラーのおかげで今度は「ダークナイト」に興味を持つようになりました。そこで初めてジョーカーとバットマンに触れるようになったんです。コミックスを映画化したいというアイデアが浮かんだ時に、最初に思いついたのはジョーカーでした。彼は大混乱を象徴していると思ったし、決まったバックストーリーもないし、それが自分にとっては魅力を感じる部分だったんです。他のキャラクターで浮かんだものは一つもありません。映画で描くならジョーカーしかあり得ませんでした。

――劇中で(「モダン・タイムス」のテーマ曲)「Smile」が効果的に流れていますが、チャップリンに対する思いを聞かせてください。

フィリップス監督:脚本を書いている時に何度も見た作品があります。その中のひとつがサイレント映画の「笑う男」で、コミックスの「ジョーカー」のクリエイターが参考にしたのもこの映画でした。その他によく見たのがチャーリー・チャップリン。なぜならアーサーには少しチャップリン的な所があると感じたからです。道化師になろうとしている時や、チャップリンの身体で表現するコメディーの部分は特にそうだと思います。「Smile」はチャップリン映画の中で大きな役割を果たしているので、今作でも採用しました。

――今作は1970年代が舞台となっていると思うのですが、監督が70年代を好んでいるという理由の他に、アーサーを描く上で70年代が適していた理由があれば教えてください。

フィリップス監督:自分たちの頭の中では、このストーリーは70年代後半から80年代初期の設定です。これには多くの理由がありますが、主な理由はDCのユニバースから切り離すためです。今までのシリーズとこのジョーカーが共存することは避けたかった。だから意図的に全てその話が起こる前に設定したんです。映画「タクシードライバー」「狼たちの午後」「キング・オブ・コメディ」のような時代に起こった出来事として作りたかったんです。70年代はスタジオがキャラクター描写の作品を制作していた時代でもあります。そういうわけで、いくつかの理由でその時代に設定しました。

映画「ジョーカー」本予告(YouTube)
https://youtu.be/C3nQcMM5fS4

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C)DC Comics

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よしだたつき

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PR会社出身のゆとり第一世代。 目標は「象を一撃で倒す文章の書き方」を習得することです。

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