第161回芥川賞受賞作 なにげない日常に潜む、奇妙で滑稽な「狂気」
今回ご紹介するのは、今年7月に発表された第161回芥川賞を受賞した『むらさきのスカートの女』。『こちらあみ子』『あひる』『星の子』など、寡作ながらも作品を発表するごとに独自の視点と世界観で熱狂的な読者を増やし続けている今村夏子さんの最新作となります。
主人公の「わたし」は、近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが気になって仕方がありません。この女性はいつもむらさき色のスカートを履いて商店街に現れるため、このあたりではちょっとした有名人なのだといいます。彼女を長いこと観察しているうちに「友達になりたい」と強く思うようになった「わたし」は、自分と同じ職場で働くように密かに誘導します。それは見事に成功し、「わたし」はこれまで以上に「むらさきのスカートの女」の生活を観察し続けるように……。
あらすじだけ聞いても、「なぜ『わたし』はそこまで『むらさきのスカートの女』にこだわるの?」と疑問に感じた人も多いことでしょう。実は本書を読んでも、その理由は明確には明かされていません。そしておかしなことに、同じ職場で働くことになっても、「わたし」は「むらさきのスカートの女」と交流を持とうともしないのです。それなのに、彼女が朝出かける際に同じバスに乗り込んだり、休憩時間に所長と交わしている会話を盗み聞きしたり、使っているシャンプーまで把握していたりする「わたし」……。異常ともいえる執着心で「むらさきのスカートの女」の言動を延々と観察し続ける主人公の姿は、不気味でもありどこか滑稽でもあります。
「むらさきのスカートの女」は、仕事を始めてからどんどんと変化していきます。まず髪や体つきが健康的になり、爪にマニキュアを塗るようになり、香水をつけるようになり……。本書は一種の謎解き的な要素もあるため、ネタバレになることは詳しく書けないのですが、そうして次第に垢抜けていった彼女は、終盤である事件を起こしてしまいます。そこからが怒涛の展開。「わたし」がどのような行動をとるのかは、皆さんにもぜひ本書を読んで確かめていただきたいところです。
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