英ガーディアン紙の経営が黒字化 収入の56%をデジタルから 鍵となった会員制とは(小林恭子の英国メディア・ウオッチ)

英ガーディアン紙の経営が黒字化 収入の56%をデジタルから 鍵となった会員制とは

今回は小林恭子さんのブログ『小林恭子の英国メディア・ウオッチ 』からご寄稿いただきました。

英ガーディアン紙の経営が黒字化 収入の56%をデジタルから 鍵となった会員制とは (小林恭子の英国メディア・ウオッチ)

「メディア展望」(新聞通信調査会発行)8月号掲載の筆者記事に補足しました。

「メディア展望」『新聞通信調査会』
https://www.chosakai.gr.jp/project/media/

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 英国の左派系高級紙「ガーディアン」(月曜から土曜)と日曜紙「オブザーバー」を発行するガーディアン・ニュース&メディア社が長年の赤字を克服し、2018-19年度で80万ポンド(約1億円)の営業利益を計上した。親会社となるガーディアン・メディア・グループ(以下、「グループ」)が、8月上旬、19年3月決算で正式に発表した。

「Guardian broke even last year, parent company confirms」2019年8月7日『The Guardian』
https://www.theguardian.com/media/2019/aug/07/guardian-broke-even-last-year-parent-company-confirms

 グループの収入は2億2450万ポンド(約290億円)に達し、経営陣が3か年計画で目指していた損益分岐点に達した。鍵はデジタル収入と読者からの支援の増加であるという。

 グループの収入の半分以上(56%)がデジタルから生じるようになっている(プリント版発行による収入は43%)。

収入の内訳 ガーディアンのウェブサイトから
 収入の内訳は、大きい順から「広告収入」(40%)、「読者からの収入」(28%)、「店頭での販売収入」(24%)。

収入の内訳 ガーディアンのウェブサイトから
  

 今回の決算では、海外事業の結果を初めて公表。ガーディアンのウェブサイトには米国版とオーストラリア版があるが、この2つのウェブサイトの広告収入と読者からの支援は3008万ポンドの収入を生み出したという。これはグループの海外事業収入の14%にあたる。

 3月時点で、ウェブサイト(ガーディアンとオブザーバーは1つのウェブサイトを共有)には1億6300万人のユニークユーザーがおり、13億5000万のページビューがあったという。

 現在、ガーディアンに定期的に財政支援を提供する人は65万5000人に達し、過去1年に一度でも支援した人は約30万人だ。

 グループは、非営利組織「スコット財団」に所有されており、10億ポンドの寄贈財産を持つ。これを長年にわたって投資することによって得た収入の中で年間300万ポンドをジャーナリズムに投入している。

新聞ビジネスをどのように立て直したのか

 グループの中核をなすガーディアン・ニュース&メディア社は、2017-18年度には1900万ポンドの損失、15-16年度には5700万ポンドの損失を出したものの、過去3年で経営が大幅に改善された。

 経営状況改善の鍵は2016年1月から導入された、「リレーションシップ戦略」だ。読者とのかかわり(リレーションシップ)をより深めることで収入を増大させ、3年で経費を20%減少させることを目指した。

 人員削減の過程では解雇費用に430万ポンドを支払い、編集・販売・サポート部門の従業員を1475人から1437人に減らしている。

 また、ガーディアン、オブザーバー両紙は英国の新聞では固有となる縦に細長い「ベルリナー判」で印刷されてきたが、これを小型タブロイド判に変更(2018年1月)したことも経費削減に寄与した。

購読者のほかに会員、支援者を募る

 「読者からの収入」と言えば、店頭で新聞を買うことから得られる販売収入か、プリント版あるいは電子版の有料購読による収入が一般的。

 しかし、ガーディアンは左派リベラル系の政治姿勢や継続した調査報道を看板とし、同紙のジャーナリズムに貢献する「会員」あるいは「支援者」として金銭を払う選択肢を読者に提供した。

 ほかの英国の新聞は電子版での記事の閲読に一定の限度を設け、購読者でないとすべては読めないようにしているが、ガーディアンやオブザーバーは過去記事も含めて無料で読めるようにしている。

 注目に値するのは、無料での記事閲読を維持する一方で、有料購読という形ではなく、「会員」、「支援者」、「貢献者」として読者に幾ばくかの料金を払ってもらう仕組みを考案したことだ。

購読者、貢献者

 現在、ガーディアンに毎月何らかのお金を払う人は65万5000人に上ると紹介したが、もう少し詳しく見てみよう。

 その内訳は、プリント版あるいは電子版の有料購読者(サブスクライバー)、会員(メンバー)、支援者(サポーター)、貢献者(コントリビューター)などに分かれる。

 また、昨年1年間で30万人が1回限りの形でお金を払っているので、トータルでは、年間約100万人から収入を得ている。

 有料購読者以外の区分けだが、

 ー「会員」には「サポーター」(年に49ポンドあるいは毎月5ポンドを払う)と「パートナー」(年に149ポンドあるいは毎月15ポンド)があり、前者はガーディアンが主催する会員向けイベント(有料)に出席でき、後者は同様のイベントに無料あるいは割引価格で参加できる。

 ー「支援者」は毎月5ポンドを払うことで、ジャーナリズムを支援する。

 ー「貢献者」は寄付金を払う仕組みで、頻度(「1回のみ」、「毎月」、「毎年」)と金額(2ポンド以上)を選択できる。「パトロン」という選択肢(年間1200ポンド以上)もある。

会員制、寄付金制度の広がり

 会員制でよく知られているのが、オランダの新興メディア「コレスポンデント」(電子版のみ)だ。

 サイトに広告は入れず、有料購読者からの収入でほぼ運営を賄う。読者を「会員」あるいは「貢献者」と見なし、より深い関係を持つことを目指す。

 現在6万人の会員を持つが、英語版(会員数5万人)を今年秋から開始予定。会員制を双方向の動きと考え、原稿の議題設定から執筆までの過程に会員も関与する。ジャーナリストは執筆経過を会員に明らかにし、会員はこれに情報を付け加える。執筆者と会員とが時間と知識を投入して1つの記事を作り上げていく。時折会員向けイベントを開催し、媒体との結びつきを強化している。

 「大きな規模の会員制」とも言えるのが、「フィランソロピー(社会奉仕、慈善事業)」による財政支援だ。

 米「クレイグ・ニューマーク・フィランソロピーズ」の創業者クレイグ・ニューマーク氏は、ジャーナリズム振興のために多額の寄付金を拠出している。ジャーナリズムの教育機関米ポインター・インスティテュートやニューヨーク市立大学のジャーナリズム・スクールなどが拠出先だ。

 ガーディアンは米ゲイツ財団、米ロックフェラー財団などから寄付金を受け取っている。「気候温暖化」、「現代の奴隷制度」など、テーマが指定される場合もある。いずれも、社会的に重要なテーマであるが、必ずしもページビューや広告収入の増大に結び付かないものである。

 しかし、支援を提供する組織の利害が報道の邪魔になる場合はないのか?

 ガーディアンの元編集長アラン・ラスブリジャー氏は「最初にルールを決めておく」ことを進言する(伊ペルージャのジャーナリズム祭にて、今年4月)。「このルールを関係者全員が分かるようにしておく。また、記事の中に該当するプロジェクトに誰がお金を出しているのかを明記する」という。

 ガーディアンの会員制・寄付金制度は、フェイスブックの個人情報流出事件を含むスクープ報道を次々と発信していることやその政治姿勢への支持、ファン層のベースがあってこそ、実現できたと言えよう。

 しかし、独自の支援者層を作りこれを収入増に結び付ける試みやフィランソロピーの支援は日本でも応用が可能に見える。

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 会員制、フィランソロピーについては、4月に開催された「伊ペルージャ・ジャーナリズム祭」で興味深い例があったので、次回以降、さらに詳しく紹介してみたい。

 
執筆: この記事は小林恭子さんのブログ『小林恭子の英国メディア・ウオッチ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年9月10日時点のものです。

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