パリの暮らしとインテリア[2]アクセサリーアーティストが家族と暮らすアトリエ付きの一軒家
私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。今回はアクセサリーアーティストの純子さんが家族と暮らす、アトリエの離れが付いた一軒家に伺いました。連載【パリの暮らしとインテリア】
フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。
アパルトマン暮らしから一軒家へ
二人目の子どもを授かった2002年の当時、純子さんは夫のピエールさんとパリの最新トレンド発信地として人気の北マレ地区でアパルトマンの6階に住んでいました。まだ2歳だった長女と買い物などで毎日何度も階段を上り下りするのが大変で、ピエールさんと一軒家を探し始めました。
条件を夫婦でよく話し合ったそうです。
1.治安が比較的良いパリ南西部
2.パリのメトロで行ける場所
3.車が止められるスペースがあること
4.アクセサリーのアトリエをつくるスペースがあること母屋(奥)とガレージ(手前)の間には中庭がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)
純子さんは、当時のことをこう話します。
「売りに出されている物件を20軒くらい見に行きました。とてもいい物件でも、郊外で電車やバス移動があるところだと、どうしても気が向きませんでした。
決め手になったのは、近所の住民が親切だったことです。今住んでいる家の契約書類のサインがせまっていた時期に、住民が道にテーブルを出して、飲んだり食べたりしているところ(日本でいう町内会の集まり)に遭遇し、みんなこの周辺のことなどを親身になって教えてくれました。
今の家は、パリのメトロでのアクセスが良いところ、通りが袋小路になっていて静かなところが気に入っています。購入当時はまだ小さかった長女、これから生まれてくる次女のためにも、歩いて10分以内に幼稚園から中学校まであることも助かりました」
ピエールさんは食関係の仕事をしていてたくさんの荷物を積んで車で朝早くに出かけるので、パリにもアクセスが良いこの場所がお気に入りと言います。また、レコードコレクターでもある彼は、近隣に気にせず音楽を楽しめるようになったことも大きかったようです。
「パリにいたころは車を駐車するのにも時間がかかったりして、ストレスフルな日々でした。それと僕は音楽が大好きなので一軒家に憧れていました。
パリのアパルトマンでは、こちらが注意していても音が近隣トラブルのもとになったりしますし、どこからかいろんな音が聞こえてきて、絶えずリラックスできない環境でした。
一軒家を手に入れてからは近隣のことも気にならないし、時間に自由ができて満足しています」 ピエールさんはリビングの一部に自分のスペースをつくり、いつでも好きな音楽を聴けるように配置しています。年に何度か季節に合わせて額に入れたレコードジャケット入れ替え、まるでギャラリーのよう。「次女と音楽センスが合ってうれしい」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga) 2階に上がって左右に子ども部屋がある。ブルーのペンキは空をイメージして、自分たちで色を配合(写真撮影/Manabu Matsunaga)手づくりの花瓶が飾ってあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)
2002年当時は、まだユーロ通貨になって間もないころ。不動産もそれほど高騰はしていない時期で、とてもリーズナブルに購入できたそう。
「住居スペースは95平米、離れのガレージは25平米、中庭、車が2台分置ける駐車スペースもあって、申し分ない物件でした。それとカーヴ(ワイン貯蔵庫)が地下にあり、買い貯めていたワインも安全にストックできるのも気に入っています」とピエールさん。
購入したあとは、家族にとってより快適な空間にするために居住スペースとガレージの改装をしました。
「住居スペースは4人家族が住むには広さとしては理想的でしたが、細かく部屋が仕切られていたので、開放的なスペースにしたいと夫婦で意見が一致しました。まずは仕切り壁を取り壊し、台所も配置を換え、床がタイルだったのをフローリングにしました。
それとガレージをアトリエにするために、断熱材を入れたりして大工事になりました。
物件の購入金額に加え、その10~15%相当の工事費がかかりました」(純子さん)
一軒家でアクセサリーアーティストの活動拠点を手に入れた
純子さんは日本の服飾学校を卒業後、パリでアクセサリーアーティストとして活動。一軒家購入を機に、念願のアトリエを手に入れました。 ガレージを改装して純子さんのアトリエに(写真撮影/Manabu Matsunaga)使う道具や材料は作業をしながらでも手が届くところに置いています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
純子さんの作品はパリのブティック数カ所に置かれているほか、ポップアップショップでも頻繁に展示・販売しています。
「ポップアップショップでは、お客さんと対話を通じてその方の趣味や求めているものが分かり、自分のクリエーションの参考にもなります。そこで得たことを活かしながら、アトリエでの制作活動に集中したいんです」 パリの歴史的なパッサージュ(アーケード商店街)で展示の準備(写真撮影/Manabu Matsunaga) 新作は陶器のピアス。手づくりなので、同じものは一つもない一点物です(写真撮影/Manabu Matsunaga)お客さん対応をする純子さん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
手づくりの感覚を大切にして一点物にこだわる姿勢、お客さんに真摯に対応する純子さんの姿に、写真家として同じくクリエーションに携わる筆者も心打たれました。 作品制作中(写真撮影/Manabu Matsunaga)子どもたちが小さいときにつくったオブジェも大切に飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
数年前から始めた陶器アクセサリーや、自分で使うお皿などは、地元にある美術学校エコール・デ・ボザールの窯を週1で借りて制作しているとのこと。
「そのうち、アトリエに自分の窯を置きたいです。アトリエの奥は夫のキッチンラボになっていますが、少しスペースを貸してほしいと交渉中です」と笑顔で語ります。花瓶やお皿などの陶器づくりにも凝っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
撮影にうかがったのは夏休み前の天気の良い日曜日でした。庭には桜の木やフランボワーズなどがありました。夏が終わるころには、甘いブドウも実るでしょう。 家の門を開けるとすぐ、桜の木と母屋が見えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)純子さん一家は毎年できるブドウを楽しみにしています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
ピエールさんは20年間シェフとしてレストランで働いていたので、料理はお手のもの。キッチンは中庭に簡単にアクセスできるようにつくられていて、天気の良い日はパラソルを立てて食事をします。 ピエールさんの料理をする手さばきはさすが(写真撮影/Manabu Matsunaga) イタリア製のプロ用のガスレンジ。今後改装しても、これだけは使い続けていきたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)キッチンからの眺め。バーベキュー用の窯も奥に見えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)
家購入20年の記念に。まだまだ夢が広がる
「今、アトリエ以外の改装計画も立てているところなんです。家を購入してから20年の記念に、バスルームを全面改装したいのです。日本風の洗い場があってくつろげる空間にしたくて。でも子どもたちはイタリア式の水圧が高いシャワールームがいいと言っていて。なかなか意見がまとまりませんね(笑)」と純子さん。
ピエールさんも夢を膨らませます。
「僕は地球環境問題に興味があるので、エネルギーの節約の意味も込めて家の断熱材の強化をしたいです。
また、今は庭のコンポストで生ゴミを使って庭用の肥料をつくっていて、自分の庭で取れるサクランボ、フランボワーズ、ブドウを安全で美味しく食べられるようにしています。本当は庭に鶏を飼って新鮮な卵を毎朝食べるのが夢なんです。でも隣近所に迷惑にならないようにしないと」
いろんな夢を持ち続け、それを素直に話し合い、お互いの世界を展開しているお二人に乾杯!です。これからの家の進化も楽しみです。 二人で見つけたヴィンテージのランプ、ガラスと木の素材が他のインテリアにもマッチ(写真撮影/Manabu Matsunaga) 純子さんが少しずつ集めたアンティークのレース類(写真撮影/Manabu Matsunaga)ピエールさんを唸らせた(!)純子さんの父親のフランス車と純子さんが5歳の時の写真が大切に飾ってあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)
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