「ミドル層が機能していないことが一番の問題」田中雅子さんインタビュー(1)
せっかく社会人になったのに雑用ばかり。そんな毎日に飽き飽きしている若手社員もいるのではないでしょうか。
しかし、どんな仕事でも100%の力を出し切ることが、30代、40代の仕事につながっていくと語るのは、ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)在社時代に「巻き込み仕事術」を実践して同社のV字回復の一翼を担い、現在は経営コンサルタントとして多方面で活躍をしている田中雅子さんです。
田中さんの新刊『20代で知っておきたい「仕事の基本」』(学研パブリッシング/刊)は、そうした20代の仕事の基本を熱く語った一冊。今回は田中さんにインタビューを行い、仕事とは何か、自身の20代の頃の話などについて熱く語ってもらいました。3回に分けてお送りするインタビュー、今回は前編です。
(聞き手/金井元貴)
■日本の大組織の凋落、原因は“ミドル層のぬるさ”?
―このたび田中さんが上梓された『20代で知っておきたい「仕事の基本」』ですが、タイトルにもありますように、20代向けに書かれたビジネス書となっています。どのような想いから本書を執筆されたのでしょうか。
「私はコンサルタントとして、普段から様々な企業を見ていますが、今後の日本のビジネスに大きな危機感を覚えることがよくあるんです。全体的に大組織が硬直化しているんですね。つまり、スピード感や実行力がないんです。日本の企業は今後、グローバル化の中で勝ち残っていけないのではないかと。
日本人はもともと勤勉で働き者でそして、チャレンジャーでした。たとえば戦後まもなくの日本には、パナソニック創業者の松下幸之助さんやソニー創業者の盛田昭夫さんたちのような、自分たちの技術で世界を驚かせてやろうという気概のある人がたくさんいました。そういった気概が日本の経済を牽引してきたのだろうと思います。
反対に、今の大組織を見ると非常に硬直化していて、ユニクロの柳井正社長の言葉をお借りするなら「体たらく」という感じなんです。成果に対して誰もコミットしていないし、熱意も思い入れもない。適当に過ごして給料をもらえればいいやという雰囲気が、組織の中に蔓延していますよね」
―本来はそういった大きな組織が、日本経済を引っ張っていかないといけないはずなんですよね。
「そうそう。もちろん小さな会社が頑張っているおかげもあるけれど、本来はそうなんですよね。その意味で、私の中にも、日本の企業の将来は一体どうなっちゃうんだろうという危機感があるんですよ。
私が入った頃のユニクロは減収減益の真っただ中で、上場企業としてこのままでいいのかという危機感を全員が共有し、V字回復のためにまさに必死で仕事していたんです。そんな環境にいたから、その視点を持って別の企業に行くと、『あれっ?』っと拍子抜けしてしまうんです。
問題はいろいろな点にあると思いますが、やはり一番の問題は、私たちのようなミドル層が機能していないことだと思うんですね。50代の部長や執行役員クラスの人たちは、高度成長期やバブル経済の中でやってきたから、なんとなく仕事をしてもそういうポジションにつけた。ただ、彼らは言われたことをトップダウンでやってきただけで、自分の意思でマネジメントをしてきたわけではありません。
自分たちが実力を蓄えていないため、下の世代を育成することには非常に弱い。不景気だから、すぐ成果を出せる即戦力の人材を採用して、そのまま疲れ果てれば使い捨て、みたいな人の扱い方です。
でも、そんな企業にも良いものを持っている若者がたくさんいるんです。本当にもったいない。若い人たち自身も、そのぬるい世界に浸りながら、なんとなく『これでいいのか』と不安を感じているんですよね」
―でも、ぬるい世界しか知らないと、そのうちぬるいのが「当たり前」になってしまいます。
「そうなんですよ。厳しく教育できないミドル層が悪いというのは分かっているけれど、おじさんたちはぬるい体質が出来上がってしまっているから(笑)、今さら体質を変えろと言ってもできないんですよね。そんなことから、柔軟で成長の余地がまだまだある20代、30代の人たちに向けて、正しい成長の仕方を書いたのがこの本なんです。
今、出ている20代、30代向けの本を読んでも、やっぱりぬるいんですよ。書いてあることがすごく優しい。でも、現実の商売はすごく厳しいし、ギリギリのところで経営者はやっているわけです。結局、そうした商売の厳しさを叩き込まれた人が、あとで活躍しているんですよ。
若いうちにやった努力は、30代、40代で響いてきます。だから、20代でこういったことを身につけておけば、仕事をしていく上での宝になるからやろうよ、という想いを込めて出版しました」
―田中さんご自身が20代に身につけた考え方やスキルの中で、現在、最も生かされているものは何ですか?
「20代の頃って夢見がちですよね。自分が急成長できたり、いきなり大きな仕事を任せてもらえたりするんじゃないかと思うところがあるけれど、いちばん大切なのは目の前にある仕事なんです。地味だけど、一個一個の仕事、たとえばお茶くみやコピー取りも含めて、会社に直接貢献できることにベストを尽くす。何に対しても一生懸命やるということなんですよ。そうやって仕事の“基本”をつかんで、初めて次のステップに行くことができる。
だから、“目の前の仕事に100%全力を尽くす”ということが、私が20代で学んで、今もまったくブレていないところですね」
―仕事の規模が大きくなっても、実は、100%全力を尽くす姿勢や、細かいことをコツコツできる力が一番必要なんですよね。
「そうですよね。これは私の20代前半の話ですが、大学院で研究者になるために勉強をしていたところ、突然、家業を継ぐことになりました。自分が進んでいたのと全く違う方向に、いきなり放り込まれる形でビジネスの世界に入ったんです。
それなので、心の整理もつかないし、目の前の現実が消化できないなかで仕事人生が始まりました。資金繰りで、明日いくら足りなかったら会社はどうなるんだろうとか、明日従業員を何人切らなきゃいけないんだろうとか、仕事に入った瞬間から厳しかった。
そうした、よくわからない状態でできるのって、目の前に突きつけられていることを一つ一つ解決して、こなしていって、そこから次につなげるしかないんですよ。トイレ掃除をする人がいなければ自分がやればいい、コピーをとる人がいなければそれも自分がやればいい。他にやってくれる人は、誰もいないんです。
会計をやり始めた理由もそうです。自分がやるしかないから。でもそうやって目の前のことを必死になってやった経験が、後になってみると大切な財産になっているんですよね。だから結果はどうであれ、120%、今できるベストを尽くさないと。それでないと後で絶対、何も残らないし、後悔してしまうと思います。
若い頃は『この仕事、やる意味あるのかな』と思うことってたくさんありますけど、どんなことでも一生懸命やっていれば次が見えてくるし、経営者やデキる上司は、きちんとそれを見てくれているんですよ。私が働いていたユニクロも、そういう文化でしたね。
一つ一つきちんとやっていても、仕事に抜け漏れは発生します。でも、なんとかしなくてはいけない。なぜかといえば、お客様のためです。100%お客様に満足してもらうために、どんなことでもみんな一生懸命やります。
一生懸命やっているからこそ、たまには怒号が飛び交うこともあるし、きつく叱られたりもする。でも、決して自分が否定されているとか、無能だといわれているわけではないんですよ。お客様に対して、もっとできることがあるだろうということを、みんなで追求しているだけなんですよね。それで、一度その仕事の熱さを味わっちゃうと、また熱血したくなるんですよ(笑)」
―熱さを、また味わいたくなっちゃうんですね。
「やりきった感があるし、思い切って色々な失敗をしたからこそ、次に生かそうと素直に思えるんですよね。でも、100%の力を出さずに言い訳ばかりしていたら、結果はもちろん出ないし、次のステップにも踏み込んでいけませんよね」
(中編に続く)
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