アフリカでの種子の権利を守る闘い(印鑰 智哉のブログ)

アフリカでの種子の権利を守る闘い

今回は印鑰智哉さんのブログ『印鑰 智哉のブログ』からご寄稿いただきました。

アフリカでの種子の権利を守る闘い(印鑰 智哉のブログ)

 日本で、そして世界で種子の権利が多国籍企業に奪われようとしている。特に市場に頼らない自給自足的な農業が多くを占めるアフリカにとってはそれは多くの農民たちの命を左右しかねない巨大な問題である。新たな植民地主義として批判が高まる。一方で、どういう戦略で人びとの食の権利を守っていくか、真剣な議論も世界で行われている。その議論は日本の中で種子を守る人びとにとっても耳を傾けるべきものだろう。
 
 アフリカでは8割以上の農民が今なお、自分たちで種子を採り、その種子を使った農業で生計を立てていると言われている。しかも多くの国が世界の最貧国であり、種子を買う、さらには化学肥料や農薬を買う農業に移行するというのはあまりに現実離れした計画だが、先進国との自由貿易協定によって履行を義務付けられる。南の国々にとって先進国による農産物の輸入が外貨獲得にとって不可欠な手段。先進国と種子の知的所有権の確立をめざす多国籍企業によって作り出された植物の新品種保護に関する国際条約(UPOV条約)とWTOのTRIPS協定が自由貿易協定によって押しつけられ、南の国は自由な種子政策を展開することが困難になりつつある。
 南アフリカでは昨年2018年種苗法(植物改良法と植物育成者権法)が改悪され、今年3月に大統領が署名して、UPOV条約に沿って多国籍企業がより種子を支配しやすい体制が動き出した(1)。
 一方、フランス語圏アフリカ諸国が加盟するアフリカ知的財産機関は加盟国にUPOV体制の履行を求めるが、17の加盟国の12カ国は国連で最貧国に指定される貧しい地域であり、自給自足的な農業に対してそれはあまりに現実的でない政策となっている(2)。しかし、先進国は食料保障及び栄養のためのG8ニューアライアンス計画を発表し、ビル・ゲイツ財団や民間企業の投資を呼び込み、生産性を上げるためとして、多国籍企業による種子・化学肥料・農薬をアフリカの農民に押しつけようとしている。

 種子市場の7割を遺伝子組み換え企業が独占する。しかし、遺伝子組み換え企業は世界からの大きな反発を受ける中で大きな壁にぶつかっている。2015年までは28カ国あった遺伝子組み換え耕作国は2017年には24カ国へと4カ国も減ってしまっている。彼らにとって種子以上に大きな売り物が農薬だが、これもまた世界で規制の動きが本格化している。世界が遺伝子組み換えや農薬に厳しい姿勢を取り始めている。この状況の中で、彼らはアフリカを最後のフロンティアとして狙い、今、複数のアフリカ諸国で遺伝子組み換えの栽培を始めようとしている。しかし、農民たちの反対の意志は強く、大変な攻防となりつつある。

 アフリカの圧倒的な部分の農業は、農民の種子(民間企業の種子ではなく、農民が保存した種子)をベースに動いてきた。こうした多国籍企業(≒遺伝子組み換え企業)の動きに対して、農民の種子による農業を認知させ、その権利を認めさせることが重要になる。
 アフリカのみならず、企業の種子に依存しない種子・農・食を守ろうとするすべての人びとにとって重要な方向となるだろう(3)。

 UPOV条約の中でも批准国による自由裁量権を認めており、民間企業の種子とは区別される農民の固有な種子に基づくシステムSUI GENERIS REGIME(独自のシステム)を認めさせることで、その国の自由裁量の範囲で育成者権(知的所有権)を制限し、農家がタネを採る権利、農民の種子を基盤とする農業を認める余地が存在している。
 たとえばブラジルやインドの種苗法には特例として農民の種子が知的所有権がかけられる民間品種とは別の扱いを受ける特例が設けられているが、これらは種子の権利を守るもう1つの方法として参考にできるだろう。それらは生物多様性条約や食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約の関係において国際的に位置づけられうる。これを世界の大きなコンセンサスへと育てていくことができれば、種子の多国籍企業による独占は阻むことができる。昨年末には国連の小農の権利宣言でも種子の権利は明記されており、まさに世界的に確立しなければならない大きな権利である。今後の世界の種子の権利確立に向けた動きに注目が必要だ。

 しかし、参院後に出る可能性の高い日本の種苗法改悪はこの自由裁量の部分も売り渡してしまうものとなってしまうのではないだろうか?

追記: アフリカの市民組織がわかりやすいビデオを作っているので紹介する。

AFSAfrica (Alliance for Food Sovereignty in Africa)による3分34秒のビデオ “Seed is Life”。英語だけど、シンプルな表現とアニメーションで、とてもわかりやすい。アフリカで種子をめぐって何が起きているか、構図がわかる。
 日本で起きている種子法廃止、種苗法改悪に向けた動きもこの動きと無縁ではない。AFSAfricaはアフリカの50カ国以上で食の決定権(食料主権)のために活動している市民組織。

「Seed Is Life」『YouTube』
https://www.youtube.com/watch?v=ZC5WXcaJ6Lg

(1) South Africa’s new seed and PVP Acts undermine farmers’ rights and entrench corporate capture, control and domination
https://acbio.org.za/en/south-africas-new-seed-and-pvp-acts-undermine-farmers-rights-and-entrench-corporate-capture-control

(2) A dysfunctional plant variety protection system: ten years of UPOV implementation in francophone Africa
https://grain.org/e/6202

(3) Plant Variety Protection in Developing Countries — A Tool for Designing a Sui Generis Plant Variety Protection System: An Alternative to UPOV 1991
http://www.apbrebes.org/files/seeds/ToolEnglishcompleteDez15.pdf (PDF)

 
執筆: この記事は印鑰智哉さんのブログ『印鑰 智哉のブログ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年8月9日時点のものです。

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