8月3日公開映画『グッド・ヴァイブレーションズ』試写レポート

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8月3日公開映画『グッド・ヴァイブレーションズ』試写レポート

テリー・フーリーという人物をご存知だろうか?

1970年代、紛争の只中にあった北アイルランドでレコード店を営み、さらにレコード・レーベル〈グッド・ヴァイブレーションズ〉を立ち上げた、”ベルファスト・パンクのゴッドファーザー”として知られている人物である。

今週土曜日8月3日公開の映画『グッド・ヴァイブレーションズ』は、そんな彼の実話に基づく物語だ。

はじめに、北アイルランド紛争について簡単に触れておきたいが、この辺りの事情はとても混み合っているので、かなり端折った説明になってしまうことを許してほしい。

単に「”the Troubles”(トラブル)」と呼ばれることもあるこの紛争は、主に北部アイルランドの少数派カトリック系住民の差別撤廃を求める公民権運動が、イングランド・スコットランド系入植者の子孫であるプロテスタント系住民と衝突したことをきっかけに、尖鋭化して起った一連の事件。住民同士のみならず、イギリス軍や、カトリック準軍事組織、ユニオニスト(プロテスタント)準軍事組織などが激しく衝突したために多くの死傷者を出すに至った。

背景の基礎知識を押さえたところで、本作のあらすじを紹介する。

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真実に基づくテリー・フーリーの物語。1970年代の北アイルランドは紛争の真っ只中にあり、多くの犠牲者を生み出していた。1975年に北アイルランドをツアー中のアイルランドのバンド、マイアミ・ショーバンドがアルスター義勇軍によって虐殺された<マイアミ・ショーバンド虐殺事件>によって、北アイルランドにやって来るミュージシャンは激減し、北アイルランドの音楽産業は壊滅状態となっていた。
そんな中、町を出ずに客のいないナイトクラブでDJを続けていたテリー・フーリーは、運命の女性ルースと出会い燃えるような恋に落ち、やがて結婚を決意する。そして生計を立てる為にベルファストにレコード店<GOOD VIBRATIONS>を開店させるのだった。
紛争と政治思想に翻弄されながらも、知恵と努力で何とか商売を軌道に乗せたテリー。ある日、若者達は自分が好きな60年代の音楽よりもパンクロックに夢中になっていて、バンドを結成し、夜な夜なライヴハウスで演奏を繰り広げていることを知る。興味本位でライヴハウスに顔を出してみたテリーが目撃したのは、理不尽な警察官に若者がパンクロックで団結し、抵抗している姿だった。
その光景にかつて感じた事の無い興奮と感動を覚えたテリーは、そこで出会ったバンド、ルーディ<RUDI>の演奏に惚れ込み、自らのレコード・レーベルを立ち上げ、彼らのレコードをリリースすることを決意する。誰も見向きをしなかった北アイルランドのパンクバンドのレコードを出したレーベル<GOOD VIBRATIONS>の名前は北アイルランドのパンクバンドに一気に広まり、彼の元には様々なバンドが集うようになっていく…。
だが、情勢の不安が続く中、商売も上手くいかなくなり、テリーも悩み多き日々を過ごす事となる。そんな時に解散を覚悟で彼の元を訪ねてきたアンダートーンズ<THE UNDERTONES>という新人バンドの録音で、最高の楽曲が誕生する。興奮したテリーはプロモーションの為にロンドンを訪れるが大手のレコード会社には門前払いに近い冷たい扱いをされる。しかし、唯一音源を受け取ってくれたのが、BBCラジオの有名なDJ、ジョン・ピールだった…。
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私がこの映画の特徴、そして見どころとして挙げたいのは、随所に散りばめられた実際の記録映像だ。それらの映像が当時のベルファストがどれほど切迫した情勢だったかをひしひしと感じさせる一方で、テリー・フーリーの陽気で、あっけらかんとしたキャラクターは、悲惨な状況や逆境にめげない勇気を与えてくれる。両者は良い対比になっていて、本作の見どころの一つと言えるだろう。

もう一つ見どころとして挙げるのは、テリーが感激したパンクバンドの若者たちの歌だ。彼らの歌の内容は割と素朴で、「近所の女の子に恋をした」だとか「金持ちなだけのいやな奴をなじる」だとか、ごく普通の日常的な感情を歌っている。しかしこの日常こそ、紛争の只中にある北アイルランドの人々にとって強いメッセージとなって突き刺さるのだ。劇中のテリーも「ベルファストでは普通でいることが許されないのだ」と独白するように、当時の北アイルランドは住民同士がプロテスタントかカトリックかというだけの理由で殺し合うような事態に陥っているのだから。近所の女の子が好きだと歌う、パンクバンドの若者たちは必死に反抗している。昨日までの友人さえ、教派が違うと分かればリンチされる異常な状況への彼らなりの反抗が、劇中のテリーの胸を打ったように、映画の観客の胸を打つ。

この映画には、北アイルランドの問題やパンクとは無縁の人にも響く力強いメッセージがある。
超大作ではないが、ユーモアと、鋭い風刺と、“決して揺るがず諦めない”精神の宿ったこの作品を、ぜひ劇場に足を運んで観ていただきたい。 (内)

▽映画『グッド・ヴァイブレーションズ』公式サイト
http://good-vibrations-film.com/

【映画情報】
『グッド・ヴァイブレーションズ』
2013年アイルランド・アカデミー賞作品賞ノミネート
2014年英国アカデミー賞英国デビュー賞ノミネート(脚本)
監督 : リサ・バロス・ディーサ、グレン・レイバーン
脚本 : コリン・カーベリー、グレン・パターソン
出演 : リチャード・ドーマー、ジョディ・ウィッテカー、マイケル・コーガン、カール・ジョンソン、リーアム・カニンガム、エイドリアン・ダンバー、ディラン・モラン他
2012年|原題:Good Vibrations|イギリス=アイルランド|カラー|シネマスコープ|103分|DCP|PG12
英国公開:2013年3月29日|日本語字幕:岡俊彦|配給:SPACE SHOWER FILMS
(C)Canderblinks (Vibes) Limited / Treasure Entertainment Limited 2012

公式HP:good-vibrations-film.com
公式twitter:@G_V_F_0803
公式Facebook:@GoodVibrationsFilm0803

8月3日(土)より新宿シネマカリテほかにてロードショー

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