働き方改革による残業規制で現場からの不満噴出!人事として何をするべき?【シゴト悩み相談室】

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働き方改革による残業規制で現場からの不満噴出!人事として何をするべき?【シゴト悩み相談室】

キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!

曽和利光さん

株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。

CASE32:「残業規制で、現場から不満が噴出しています…」(25歳・不動産会社勤務)

<相談内容>

今年4月の働き方改革関連法施行により、残業時間の上限が原則月45時間となりました。うちの会社では、これに先んじて今年1月から、法律をさらに下回る「月30時間」を徹底していますが、現場から不満が噴出していて対応に困っています。

私は人事担当で、残業削減を進めなければいけない立場ですが、他部署の同期からは「仕事は山のようにあるのに、1日2時間の残業しか認められないとはどういうことか」と詰め寄られます。ほかにも、「プロジェクトが追い込みの時も帰らなければならないなんて」「残業代が大幅に減った」などという声も聞かれます。

実際、人事部も採用シーズンは激務。こっそり仕事を家に持ち帰らざるを得ず「何のための働き方改革なのか」と思ったりもします。

とはいえ残業削減は取り組まなければならないことであり、止めるわけにはいきません。現場の不満に、人事としてどのように対応すればいいのでしょう?(人事職)

「時短先行」の今の働き方改革は、本質を見間違えている

基本的に「働き方改革」とは、「時短」ではなく「生産性向上」が目的とされています。

少子高齢化による労働人口減少に、生産性向上で対応しようという趣旨のことが、厚生労働省のレポートにも記されています。

ここで整理しておきたいのが、生産性とは「インプット」分の「アウトプット」という計算式で成り立っているということ。ここで言うインプットとは、労働時間や人件費で、アウトプットは売り上げや利益に当たります。つまり、労働時間や人件費(=分子)をかければ、その分が売り上げや利益(=分母)に反映されるという計算式になります。

ただ現状は、「分子を小さくすれば、その分、生産性が上がるのでは?」という考えのもと、手軽に着手しやすい方法として「時短」が先行している…という状況。実際、法整備も時短が先行しており、それが現場への圧になっています。

ところが、このやり方には大きな問題があると、私は思います。

個人の「成果」は、「1時間当たりの能力×時間」で算出されます。本来の働き方改革の目的である「生産性向上」とはすなわち、「個人の能力向上」を指します。しかし企業が推し進める「働き方改革」には、この視点が圧倒的に欠けています。

もちろん、インプット(労働時間)を下げてもアウトプットが下がらなければ、生産性は向上しますが、普通は下がるもの。つまり、時短と同時に個人の能力向上を図らなければ、アウトプットはインプットに合わせて下がるだけであり、生産性向上は望めないのです。

厳しい時短は「暗黙知」習得の機会を奪い、能力開発の観点でマイナス

では、「個人の能力向上」はどのように行えばいいか?

「個人の能力」は基本的に、「仕事の経験量」により積み上げられていきます。

能力向上の効率を上げるためには、形式知化(個人が持つ情報や知識を明文化・仕組化すること)された知識を習得する方法が挙げられますが、職場には形式知化されたもの以外に、「暗黙知のままの知識」もたくさんあります。厳しい時短の徹底により、これらの「暗黙知のままの知識」が習得されにくくなれば、個人の能力向上の阻害要因になる恐れがあります。

例えば営業の仕事を例にとって説明すると、「形式知化された知識」とは、基本的な営業フローや効果的な営業トークや営業ツールなどで、これらは社内の営業マニュアルを読んだりオンラインで学んだり、本を読んだりすることで習得することが可能です。

一方の「暗黙知のままの知識」とは、トップ営業が意図せず自然に行っていること。

以前もこの連載で触れたことがありますが、スーパープレイヤーは一般的に「自分がなぜスーパープレイヤーなのか」を言語化する能力が低いと言われています。プロは、何をすれば成果が出るのかなんていちいち考えることはなく、頭の中で最良の方法を自動処理して動いているので、それを形式知化することができないのです。フィギュアスケートの浅田真央さんがジャンプの飛び方を聞かれ、「よいしょって飛びます」と答えたのが代表的な例です。

ただ、この「暗黙知のままの知識」こそ、個人の能力を効率的に上げるために重要なノウハウであり、一番合理的に取得する方法は「見て盗む」こと。時短により、スーパープレイヤーと一緒に働く、営業に同行する機会が減れば、「彼らの暗黙知のままの知識・スキルを見て覚える、見て盗む」という機会が失われる、ということ。能力開発の観点でいえば、非常にマイナスな傾向であると危惧しています。

人事が行うべきは、「暗黙知を形式知化する手伝い」

とはいえ、法整備もされているため、時短には取り組まねばなりません。となると、相談者である人事が行うべきは、個人の能力を上げるためのサポート。すなわち、「暗黙知を形式化する」ために、社内のスーパープレイヤーが何をして成果を上げているのか、分析して言語化したり、マニュアル化したりして、広く共有するのです。

時短先行型のやり方は、「労働時間を強制的に短くすれば、みんな短い時間の中で今までと同じ成果を上げられるようになる」という考えなのでしょうが、そんなわけはありません。本来はその逆で、「短時間で成果を上げられる能力を身に着けたら、労働時間が短くなっても時間でも同じ成果を上げられるようになる」のが正しい考え方。従って、今からでも、個人の能力向上のために奔走するのが、現場の反発を鎮め、自社における働き方改革を進める一番の策だと考えます。

形式知化するのも、それを個人が習得するのもある程度時間がかかるため、すぐに成果が出る方法とは言えませんが、これが相談者が抱える問題解決の根本的な策であり、少なくとも「勤務時間ばかり削られて理不尽だ!」という反発は徐々に減ると思います。

なお、相談者も現状激務に悩まされているようですが…これについては、「相談者も、同じ部のデキる先輩の形式知と暗黙知を学ぶ」か、「形式知化支援を行っているコンサルティング会社に依頼する」か、のどちらかだと思います。相談者の勤務先は大手のようですから、提案書をまとめて上司に掛け合ってみるなどして、コンサルティング会社を入れてみてはいかがでしょう?

もしくは、自身の業務を少しでもスピードアップする方法を探ってみましょう。

最近の若手社員はスマートフォンで何でもこなしてしまうため、PCの操作にあまり慣れておらず、PCスキルが低い人が少なくありません。相談者がそれに当てはまるかどうかはわかりませんが、もし思い当たるようでしたら、WordやExcelを独学して、作業のスピードアップを目指すのは一つの方法です。特に人事はデータを扱うことが多いので、「Excelの達人」を目指してみてはどうでしょう?

「もっと手軽な方法を」というのであれば、ショートカットキーを覚えて駆使するだけでも作業スピードは著しく上がります。もしまだ試していないのであれば、そういうちょっとした工夫でスピードアップを積み重ねて、生産性向上に努めてみてください。

アドバイスまとめ

まずは自分の業務スピードアップに努め、

「暗黙知の形式知化」に割く時間を捻出し、

社員の能力向上→生産性向上のために尽力を

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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