リモートワークで効率的に仕事をするには「何が」必要か?
自宅やコワーキングスペース、カフェなど、場所にしばられずに仕事ができる「リモートワーク」。最近、働き方の選択肢のひとつとして、リモートワークを導入する企業も増えてきました。今回はリモートワークについて、メリットや効率よく仕事をするための工夫・ポイントについて取材をしてきました。話をおうかがいしたのは、全社員リモートワークで、さらにリモートワークの情報発信を行うWebサイト「リモートワークラボ」を運用している株式会社ソニックガーデンの倉貫代表です。
倉貫 義人さん
株式会社ソニックガーデン創業者・代表取締役社長。
大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。月額定額&成果契約で顧問サービスを提供する「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、オフィスの撤廃、管理のない会社経営など新しい取り組みも行っている。著書に『管理ゼロで成果はあがる』『「納品」をなくせばうまくいく』など。
リモートワークラボ
株式会社ソニックガーデン
なぜ今リモートワークなのか?
―今、リモートワークが注目されている背景とは
少し前から「テレワーク」という言葉がありましたね。「社員が介護や子育てで地方に帰らないといけない」という背景から「社員が退職しなくても済む働き方」として、徐々に注目されるようになっていきました。かつて日本は「定年まで働き、リタイア後は退職金や年金で悠々自適の第二の人生を過ごす」のが当たり前でしたが、今は人生100年、そういった「第二の人生」はないし、それより「今を楽しむ」時代になってきました。若い人は家や車や服などを「所有」することよりも、夫婦で子育てや家族の時間を楽しんだり、旅行に行ったりする「体験」に価値をおいていますから、ますます自分の時間が貴重になっている社会的背景もあると思います。
―企業にとってのメリットは、「人材の確保」以外にもありますか?
先進的な会社だと「コストダウン」や「働き方改革」を理由に挙げますが、個人的にはそれは本質的ではないと思っています。私たちはやむを得ずリモートワークを始めたのですが、今も続けているのはリモートワークのほうが「圧倒的に生産性が高い」からです。
―「生産性が高い」とは、具体的にどのようなことですか?
早い意志決定ですぐに次の手が打てるため、事業スピードと生産性がアップします。一例は会議の激減。物理的オフィスの場合、出席者の予定と会議室の空き時間を調整しますね。参加人数が多ければ多いほど調整は難しく、結局2週間先に会議が設定されることもあります。つまり、意思決定が2週間先延ばしになるのです。これは大きなコストです。約半月もあれば、ビジネスの世界では状況が変わってしまうこともありますよね。私たちはネット上の「仮想オフィス」で仕事をしていますが、岡山県だろうがマカオだろうが、どこにいても、社員の時間調整だけで会議ができて物事が圧倒的に早く進みます。
リモートワークのメリット
―では次に、働く人にとってのメリットを教えてください。
最大のメリットは、通勤がなくなることです。多くの人は通勤が習慣化しているので、当たり前に思っているでしょうが、よく考えると通勤時間ってオンでもオフでもない謎の時間ですよね。1日8時間の労働時間に、往復2時間の通勤時間を加えると「1日10時間」を労働のために費やしています。でもこの2時間分の給料は出ません。通勤時間は自分の人生の時間なんです。
よく通勤中に「勉強や読書ができる」とポジティブに言ったりしますが、何も満員電車の中で勉強することはないんですよね。通勤時間がなくなればその分、適した環境で勉強や読書をしたり、個人のチャレンジをしたり、家族のために使うことができます。つまり、「通勤しなくて得られる時間が確実に自分自身のものになる」というのが、「今を楽しむ」時代において一番大きな価値だと思います。
―リモートワークのメリットは好きなところで仕事ができることもありますね。
そうですね。ネットとパソコンがあればどこでも仕事ができます。弊社の場合、ネット上の「仮想オフィス」に出社さえすればOKな完全フレックス制の働き方で、全社員リモートワーク。スノーボードが好きな社員は都内から長野県に移住したり、旅好きの社員は、東南アジアで2カ月ぐらい民泊しながら仕事をしたり、オーストラリアで新車を運転して移送するアルバイトをしながら仕事をしたり。もちろん電源とネット環境は必須ではありますが、かなり自由ですよね(笑)。
リモート可でさらにフレックス制であれば、家事や家族の予定に柔軟に対応できますね。仕事の合間ににわか雨が降れば洗濯物を取り込んだり、子どもの家庭訪問があれば対応したり。平日の昼間に教習所に通って、その後に仕事をする社員もいました。
―人生が楽しくなる働き方ですね。
そうですね。でも私はリモートワークを押し売りするつもりはありません。ただ、よく「本当にやれるの?」と聞かれるので、「本当にできますよ」とお伝えしたいです。それまで、仕事と働く場所、個人の生活は「どれを優先しますか?」というトレードオフの時代だったのが、すべてを両立できる時代が来たのだと思っています。
―社員全員がリモートワーク、ご苦労もあったと思いますが…?
全社員リモートワークを目標に頑張ってきたというよりも、「在宅勤務や地方移住といった社員の希望を叶えつつ、会社もうまくいくにはどうしたらいいか」を考えて実行した結果、今の形になった、というのが本当のところです。
弊社がうまくリモートワークで仕事を回せているのは、自分たちで「仮想オフィス」のシステムを開発し、それをうまく活用できたからです。「仮想オフィス」では、パソコンのカメラで全員の顔を一覧で映しながら、お互いの存在感が感じられるようにしたことが大きな特徴です。「顔が見える」というのは意外と大事で、チャットツールなどだと「そこに本当にいるのかわからない・今話かけていいのかわからない」状態のまま声をかけるという心理的な負担がありますが、顔が見えることですぐに話かけられますし、孤独感や疎外感がありません。
リモートワークのデメリット・生産性を上げる工夫
―リモートワークは「ダラダラしてしまう」あるいは「働き過ぎてしまう」という人もいるのではないでしょうか。
それはリモートワークのせいではなくて、自己管理の問題です。オフィスでもついついネットサーフィンをしている人はいるし、定時を過ぎてもいつも会社に残っている人もいますよね。もともと人間の脳は8時間ずっと集中し続けることはあり得ませんので、その点では自己管理能力が必要になります。
在宅勤務でリモートワークをする工夫としては、なるべく仕事に集中できる場所を確保することです。リビングなど家族がいる部屋ではなく、狭くても自分用の部屋、もしくは寝室などでも良いでしょう。小さいお子さんには「ここはお父さんが仕事する場所だよ」と教えておいたり、「仕事中」と書いた札をドアに掛けておいたりという工夫をしている社員もいます。仕事の場所を確保することで、仕事の時間とそれ以外の時間の区別がつきますし、仕事中でも「家にいるから」という理由で家族から用事を頼まれたりすることも避けられます。家族全員が「仕事場」と認知していることは、案外大事です。
またデメリットというほどではないので余談ですが、「家族がいるので、飲み会のためだけに夕方から外出しにくい」という社員の声がありました。その解決策としては、「夜、飲み会があるときは日中からコワーキングスペースで仕事して、終わったら飲み会に合流する」という体験のシェアがありました (笑)。
―仕事に集中するための設備的な工夫はありますか?
疲れない椅子やバランスボール、スタンディングデスクなどを使う人もいます。弊社ではテレビ会議を頻繁に開くので、良いイヤホンを使う社員が多いですね。
テレビ会議といえば、自宅で仕事をするとある社員の「背景が気になる」という意見が出たことがありました。そこで、机や椅子が並んでいるオフィス空間の画像を巨大なポスターにして、その社員の部屋の壁に貼ってもらいました。すると、仮想オフィスに映る社員は、まるでオフィスで仕事しているように見えて、お互いに快適にテレビ会議ができるようになりました。
▲社員の自宅の壁にオフィス空間のポスターを貼ることで、テレビ会議が快適に。―コミュニケーションの面でのすれ違いはありませんか?
まずは、ややこしい話はテキストやメールでしないことが第一です。テレビ会議で話し合えばいいんです。大事なことが伝わればいいわけですから。テキストにするか、テレビ会議か、直接会うか、一番効果的な方法を柔軟に自分で選択することも重要だと思います。クリエイティブな仕事をしている限りはコミュニケーションや雑談は生産性向上にもつながりますので、雑談しやすい環境を作ることは、特に大事にしていますね。
リモートワークで効率よく仕事をする上で大事なこと
物理的オフィスに通勤して働くことに問題を感じていない人が無理にリモートワークをする必要はなくて、リモートワークの必要性がある人がそれを選択できる環境であることが大事だと思っています。
そして、リモートワークで起きる問題は、リモートワークじゃなくても起きたであろう問題です。例えば、リモートワークで社内がギスギスしているというのは、物理的オフィスの段階からギスギスしていた可能性が高いんです。「ちょっといいですか」と声も掛けられないような心理的安全がない職場をリモートワークにしてもうまくいきません。リモートワークで効率的に仕事をする上で大事なことは、個人と会社が良い状態であることでしょう。 インタビュー・文:野原 晄 撮影(インタビュー):平山 諭 画像提供:株式会社ソニックガーデン
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