家族ができて「働き方」が変わった。本当の意味で“生きる”ということがわかった――フェアトレードに取り組む 藤原愛の仕事論(4)

家族ができて「働き方」が変わった。本当の意味で“生きる”ということがわかった――フェアトレードに取り組む 藤原愛の仕事論(4)

インドネシアの小さな島の人たちのためにフェアトレードに取り組んでいる藤原愛さんの連載インタビュー企画。連載最終回となる今回は、確固たる信念をもってフェアトレードに取り組んでいる愛さんの仕事観や働き方、今後の目標について語っていただいた。

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プロフィール

藤原 愛 (ふじわら・あい)

1987年兵庫県生まれ。高校卒業後、カナダへ1年間語学留学。帰国後、2年間スペインバーのバーテンダーを経て、22歳の時フェアトレードポリシーのショップカフェ“Love’s Gallery”を神戸市に開業。2012年、閉店しインドネシアへ移住、通訳の仕事を経験。この時知人を介してココナッツオイルに出会い、2014年、カポポサン島でフェアトレードココナッツオイルプロジェクトを開始。現在に至るまで、島民の生活改善、自立支援、環境保護に寄与している。一児の母。ココナッツオイルはオンラインでも購入可能

Love’s Gallery http://lovesgallery.wixsite.com/coconutoil

仕事とは生きることそのもの

──仕事観についてお聞きしたいのですが、愛さんは仕事というものをどのように捉えていますか?

仕事とは生きることそのものじゃないですかね。中には仕事と私生活を完全に分けている人もいますが、私はそれができなかったからこれまで好きで入った会社も辞めているんだと思います。

私が元々フェアトレードを仕事にしたいと思ったのは、いい形でお金を生んでいいことに使えばいい循環が生まれていい社会にきっとなると思ったから。それを実現するために、はじめは多少無理してでも仕方ないと思っていましたが、今は無理なく回るような感じになりかけていると実感し始めてるところなんです。自分自身が変わったのが一つの大きな理由なのですが、カポポサン島のココナッツオイルに触れることで、食品表示を見て買い物するようになったり、インドネシアの手作りの商品を買ってみたという人が増えています。このようないい循環が生まれてるような気がして、それがすごくうれしいんです。

このいい循環を頑張って確立させたいですよね。世界を変えたいと言うと大げさすぎるんですが、そのためには新しい文化を作らなければならないと思うので、それを作っていくのが私の仕事かな。例えばカポポサン島には産業がなかったわけですが、今では私が買っているココナッツオイルがカポポサン島の名産品として、観光に来た現地の人に向けて販売されていたりして。「日本で販売されてるココナッツオイル」というのがブランドになっているようなんですよ。このことで、逆輸入という形で新しい文化、価値を生めたのではと思うんです。それでも私はこの仕事を仕事とも思ってないというか、私は自分の人生を生きてるだけで、それ以上でも以下でもないという感覚なんですよ。

──仕事を仕事だと思っていないというのは?

おいしいものを食べたいから食べるとか、子供と遊ぶのは楽しいから遊ぶというのと全く同じ感覚で、仕事も単純にやりたいからやる、楽しいからやる。自分が幸せになれるからそうする。そうじゃないと自分じゃない。だから毎日が誕生日みたいで楽しいですよ(笑)。

幼子を抱えての働き方

──現在はどのような働き方なのですか?

今は自分のお店や事務所を持っていなくて、基本的に自宅で作業をしています。その他は週末のイベント出店ですね。作業やイベントがない日は、育児、家事をしたり、のんびりしたりしています。

このフェアトレードビジネスを始めた時は独身だったのですが、その2年後の2016年に結婚して、2018年1月に息子を出産しました。息子が2、3ヶ月くらいの時にイベントに産後初出店したのですが、やっぱり乳飲み子を連れての仕事は大変でした。夫が協力してくれないと絶対無理でしたね。当時はまだ大量の在庫を抱えていて、乳飲み子を抱えての作業はやはりすぐ限界が来て、なかなか思うように在庫がはけませんでした。産休の間にたくさんあった卸先も減り、販売委託先で売れないまま賞味期限が切れて廃棄になったココナッツオイルも少なくありません。このままでは2ヶ月に1回でも100キロを仕入れるのは厳しいと正直に村長に話すと、「大丈夫、大丈夫。少し休めばいいよ」って言ってくれて。どっちが助けてもらっているのかわからへんなと思いますよね。私がもっともっとLove’s Galleryとココナッツオイルの知名度を上げられたらこんなことにはならなかったと反省ばかりの毎日でした。

でもその後、コツコツ販売活動を継続したことで、ようやく1年かけて在庫はなくなりました。特に昨年(2018年)の秋は毎週のようにイベントに呼ばれて、兵庫だけではなく京都や大阪にも出店していました。その時はもちろん息子も一緒で、大変な面もありますが、めちゃめちゃ楽しいです。

▲家族でココナッツオイルを販売している

──やはり出産前と後ではだいぶ仕事に対する意識や働き方は変わりましたか?

かなり変わりましたね。出産前には考えられなかった動き方です。一人の時は自分の身を削ってでも他の人が喜んでくれたらそれでいいと、がむしゃらに突っ走ってたし、そのがむしゃら感が生きがいやったし、活力となっていました。でも家族ができてからは考え方が変わりました。息子の成長に合わせて私も自由になったりならなかったり。イベント出店のオファーが来た時、やれそうなら動くし、無理なら自然にあきらめるという感じです。自分が幸せであるためには家族も幸せでいてほしいし、そのためには私が倒れるわけにはいきませんからね。悪い言い方をすれば守りに入ったと言えるし、いい言い方をすれば本当に生きるということがわかったというか、命というものがわかったというか。

一方で、収入面では家族をもったことで逆に不安が増えました。自分のペースでは動けないし、私がマイナスを背負った時に家族に迷惑をかけることになるので。結婚、出産してからの方が気を引き締めて、数字と向かい合うようになりました。

今は私も母になりましたが、20代の頃は結婚や子供に全く興味がなかったんですよ。自分のやりたいことの足かせになるという感覚があって。でもそれは社会が作り出した幻想で、自営という働き方なので、息子を保育園に入れなくてもずっと一緒にいながら仕事もできているんです。まだこれからどうなるかわかりませんが、今のところは試行錯誤しつつ、一応仕事と育児の両立はできるんじゃないですかね。自分自身に合う働き方、生き方を作っていけばいいんじゃないかと思ってます。

地元に拠点を作り、新たなフェアトレード商品を

──今後の目標は?

最終的には自宅をお客さんにココナッツオイルを量り売りできるショップにしたいんですよ。フェアトレードをしていると環境問題に関わることになるので極力ゴミは減らしたいし、必要な分量だけ買ってもらうことで食品の廃棄問題の解決にもわずかながら寄与できます。実際、瓶持参で買いに来る常連さんもいるんですよ。単にココナッツオイルを売るだけではなくて、このような社会問題を発信できるアンテナショップというか拠点を、地元の兵庫県西脇市に作りたいと思ってます。西脇市も今、町おこしみたいな感じですごく頑張ってるから、私も外から人を呼べるような人間になって、地元に恩返しをしたいんですよね。どうにかこの2、3年で頑張って実現させたいです。

▲愛さんはただ販売するだけではなく、フェアトレードやココナッツオイルの作り方についてレクチャーする活動にも取り組んでいる

あと、今年で33歳になったので、また次の新しいことをやりたいなと思ってます。基本的に自分が心地よい循環の中で生活したいので、その流れで何かに出会えればいいですよね。今取り組んでいる活動も、元々カポポサン島にはココナッツオイルはあって、あとはパッケージやデザインや売り方だけの問題で、それは私ができることだったからしたというだけのこと。こんな感じで自然な流れでカポポサン島に出会ってココナッツオイルのフェアトレードができたように、息子や夫を連れてまた旅に出て、その過程で自然と何かに出会えて、私ができることと現地の方たちの求めるものが合えば、また新しい商品が生まれるんじゃないかな。そういう淡い期待をもっています(笑)。

それと、Love’s Galleryが誰もが知っているフェアトレードブランドとして確立していきたいですね。私もこれまでいろんな人にいっぱい応援してもらったので、同じように頑張っている人たちを支援できるような立場になりたいです。 取材・文:山下久猛 撮影:山田紗基子

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