「当事者意識」を持って行動すれば、きっと世界の誰かが幸せになってくれる――フェアトレードに取り組む 藤原愛の仕事論(3)

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「当事者意識」を持って行動すれば、きっと世界の誰かが幸せになってくれる――フェアトレードに取り組む 藤原愛の仕事論(3)

インドネシアの小さな島の人たちのためにフェアトレードに取り組んでいる藤原愛さんの連載インタビュー企画。今回は幾多の困難を乗り越え、カポポサン島での高品質のココナッツオイルの量産、日本での販売を実現したことで夢をかなえた瞬間の話や、仕事のやりがい、真のフェアトレードとは、などについて語っていただいた。

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プロフィール

藤原 愛 (ふじわら・あい)

1987年兵庫県生まれ。高校卒業後、カナダへ1年間語学留学。帰国後、2年間スペインバーのバーテンダーを経て、22歳の時フェアトレードポリシーのショップカフェ“Love’s Gallery”を神戸市に開業。2012年、閉店しインドネシアへ移住、通訳の仕事を経験。この時知人を介してココナッツオイルに出会い、2014年、カポポサン島でフェアトレードココナッツオイルプロジェクトを開始。現在に至るまで、島民の生活改善、自立支援、環境保護に寄与している。一児の母。ココナッツオイルはオンラインでも購入可能

Love’s Gallery http://lovesgallery.wixsite.com/coconutoil

料理、リンス、化粧水。いろいろ使える万能オイル

──愛さんが商品化したココナッツオイルについて教えてください。

原料がココナッツ100%なので、いろんな用途があります。まず、食用としてはバター代わりにパンに塗ってもおいしいです。炒め物に使っても、ココナッツの風味がすごく出ておいしくなります。酸化しにくい油なのでアレルギー体質の人やアンチエイジングにいいと言われています。また、美容にもいいんです。お湯にといてリンスやトリートメントとして髪に塗ったり、化粧水、乳液、保湿液として顔に直接塗ると一日しっとりします。特に乾燥肌や敏感肌の方に好評でリピーターになってくださっています。

それと、昨年(2018年)10月にはココナッツオイル石鹸も商品化しました。ココナッツオイルは食用として販売しているので、消費期限が切れてしまった在庫は廃油にして捨ててしまうしかありません。それがもったいないので石鹸として商品化したというわけです。私はよくココナッツオイル石鹸でメイクを落として洗顔した後、ココナッツオイルを顔に塗っています。

▲愛さんが心血を注いで商品化したカポポサン島産のココナッツオイル。50g800円、125g1800円、385g3700円。左の正方形の商品は昨年10月に開発したココナッツオイル石鹸。100g1250円。パッケージデザインも愛さんが手掛けている。商品はオンラインサイトから購入できる

http://lovesgallery.wixsite.com/coconutoil

──その後、ココナッツオイルは日本で順調に売れたのですか?

いえいえ、とんでもない。スタート以来、ココナッツオイルが毎月100キロ届くようになったのですが、なかなか日本で100キロを売り切るのは大変なんですよ。一番小さいSSサイズ瓶(50グラム)なら毎月2000個、大きいLサイズ瓶(385グラム)なら毎月220個売らなければいけませんからね。最初の頃は数店の知り合いの店やフェスなどのイベント等で細々と売るしかなかったのでしんどかったです。それで在庫がどんどん溜まっていきました。私の計算が甘かったし、毎月100キロ買わなあかんと自分一人で頑張りすぎてた部分があったんですよね。

▲国内のフェスで販売し始めた頃の愛さん

ついに夢が叶った

それで、半年くらい経った時にもうそろそろ本気でやばいかもと思って、現地パートナーに「だいぶ在庫が溜まっているので、買い取るのは2ヶ月に1回でもいい?」って正直に全部話したんです。そうしたら、「うん、大丈夫だよ、休憩してもらっていいよ」と言ってくれて、「今はもうダイナマイトやしびれ薬を使って漁をする人は誰もいなくなったよ」と教えてくれました。さらに、「アリガト、アイ~!」と村長が日本語で語っているボイスメッセージも送ってくれたんです。これを聞いた時はうれしすぎて、思わず涙が溢れ出て止まりませんでした。

▲カポポサン島にて、村長と

ダイナマイト漁やポタセウム漁はなくなって豊かな海と島の未来は守られたし、私自身も厳しかったとはいえこのフェアトレードビジネスだけで何とか食べていくことができていたので。これまでずっと探し続けてもなかなか見つからず、やっと見つけた本当にやりたかったことが実現できたのがめちゃめちゃうれしかった。我ながらよくここまでやったなと思いました(笑)。その後のココナッツオイルの輸入は、2ヶ月に1回という双方にとっていいペースになりました。

さらにその後、島民はココナッツオイルを売ったお金を元手にロブスターの養殖を始めたり、釣り道具を買って漁を始めたりと、海を傷つけることなくより効率的に稼げるようになったんです。この話が次第に広まり、インドネシア政府も注目してカポポサン島に何度か視察に来ました。カポポサン島の事例を他の島にも広げたいと考え、島民に他の島でココナッツオイルの作り方を教えてほしいと依頼して、実際に島民がそうしているんです。なのでココナッツオイルを作り始めてからも、彼ら自身でどんどん行動してよりよい状況に変えているんですよ。

──日本からインドネシアに渡ってからはかなりつらいこともあったとのことですが、もし、カポポサン島に出会ってなかったらどうしていたと思いますか?

どうしたんでしょうね。それを考えたらぞっとしますね。もしあの時、カポポサン島のココナッツオイルに出会えなければ、あのまま日本に帰っていたかもしれないですからね。あの時は本当につらくて、もう何がつらかったのかも覚えてないくらい。正直、インドネシアの記憶はカポポサン島に出会ったところくらいからしかないんですよ。だからカポポサン島には本当に救われたと思っています。

経営状態は今もギリギリ

──愛さん自身の現在の経営状況について教えてください。このフェアトレードビジネスを始めてから4年ですが、トータルで赤字にはなってないんですか?

どうなんでしょうね。計算苦手なんでちゃんとはしてないんですよ。でも生活できてるし何とか回ってるからいけてるんちゃいますかね(笑)。今は結婚しているのですが、仮に独身のままだったとしても最低限暮らしていけるくらいの収入は得られていると思いますよ。ただ、そうはいっても正直、経営的には波があるので今でも厳しくて、何とか続けているという感じです。もちろん人を雇える余裕なんてないので、ずっと1人でやってます。たまに学生さんから報酬はいらないからボランティアで手伝いたいという連絡もくるんですが、いわゆる情熱搾取、やりがい搾取はよくないと思うのでお断りしているんです。

──今でもカポポサン島にはよく行くんですか?

いえ、基本的には生産は全部島の人たちに任せているし、島の経済も環境を破壊することなくいい感じで回っているようなので行っていません。ただ、問題がある時は行きます。前回は2016年に行ったのですが、その時は、現地から送られてきたココナッツオイルの品質にばらつきがあって、ちょっとこのままでは店頭に出されへんなという商品が多かったんです。なので島に行って、村長と現地パートナーに「こういうことが続けばもうこの仕事はできないです。香りや色など、このレベルのクオリティじゃないと買い取りません」と直接改善を求めました。でも直接生産現場を見ることはしませんでした。私が一方的に「私の要求通りちゃんと作ってるかチェックしたいから現場を見せて」と上から指示してもよくなる関係ではないので。その代わりに小学校に文房具をいっぱい持って行って子どもたちにプレゼントしたり遊んだりと、島民とコミュニケーションを取ることに時間を使いました。

▲カポポサン島の子どもたちに文房具をプレゼント

──今の活動のやりがいは?

日本に帰国して地元に帰ったばかりの頃は、地元の人たちは私が取り組んでいるフェアトレードについて全然知らなかったのですが、最近少しずつ認知されてきて、地元の人が集うイベントに呼ばれることも増えました。そこでおじいちゃんがココナッツオイルを買ってくれて、「今まで保湿とかしたことなかったけどすごくいい」と言ってくれたりするのがうれしいし楽しいんですよね。そういうところにやりがいを見出しています。

あと、私もこの活動を始めた頃はココナッツオイルを売ることが目的だったのですが、オイルの生産工程や島民と現地パートナーと私の思いを知ってもらうことで、皆さんが自身の消費行動やライフスタイルを考え直すきっかけになっていると感じられる瞬間があるんです。それがすごくおもしろいなと。私も自分でココナッツオイルを作る前までは何にも考えずにスーパーで買い物をしてたのですが、自分で原材料まで把握して商品を作った時に、添加物や保存料などは何も使わずに最初から最後まで手作りで商品を作るという行為がどれだけ素晴らしく、尊いかに気づいたんですよね。そういう人たちを応援したいから彼らの作った商品を買うという生活になっていったら、いつの間にか無添加とかオーガニックが当たり前になったんですよ。そうじゃなきゃいけないという思想からではなく、自分自身が同じように商品を作っているから、彼らを応援したいという気持ちで自然にそうなったんです。

真のフェアトレードとは何か

──フェアトレードをやっていくうちに愛さん自身も変わっていったと。

本当にその通りです。最初は「お金がない人たちを助けたい」という安易な気持ちだったんですが、それ自体やっていくうちにどんどん変わって、私の中でココナッツオイルの存在価値も変わっているのを感じています。

──フェアトレードって一般的には途上国で搾取されている人たちを解放するためにやるというイメージが強いですが、必ずしもそれだけではないと。

そうです。フェアトレードは、過去の私がそうだったように、誰かを助けたいという気持ちで始める人が多いので、どうしても支援というニュアンスが強くなりがちです。でも、みんなが当たり前のようにフェアトレードと呼ばれているような仕組みのビジネスをしていたら、搾取されて苦しむ人がいなくなるので「フェアトレード」と言う必要もないんですよね。最初にこの言葉を知った時、わざわざ「フェアトレードをしよう」と言わなければならない状況に愕然としました。なぜこの世界はフェアじゃないトレードばかりなのかと。

フェアトレードというと社会派という感じがするかもしれませんが、私は世界に対して自分が当事者になる、地球人としての自覚をもつという感覚かなと思うんですよね。

──確かに途上国の貧困問題や搾取の問題をニュースで知っても、なかなか当事者意識がもてないというか、遠い国の話で自分には関係ないと思ってしまいがちですよね。

でも決してそうじゃないんですよ。一昨年(2017年)の春に、共同通信の記者から取材依頼の連絡が来て、私のこれまでの活動を取材してもらったんですね。それからしばらく経ったある日、急に山口、福岡、高知などいろんなところに住んでる人からココナッツオイルを買いたいという電話がかかってきたり、ハワイから問い合わせのメールが来たんですよ。あと、インドネシアの現地パートナーからも連絡が来て、「親戚のおじさんが“これお前らがやってることちゃうんか?”とインドネシアの新聞記事の写メ送ってきたよ」と。取材を受けた時はどこの新聞に載るのか知らなかったのですが、全国紙や地方紙だけじゃなくて、ジャパンタイムズにも掲載されて世界中に配信されていたんです。ダイナマイト漁やポタセウム漁はインドネシアが長年抱えていた問題だったにもかかわらず誰も見向きもしませんでした。でも私がこの活動を始めたことによって通信社に取材されて、その記事がいつの間にかインドネシアの新聞にも載って、インドネシアの人たちにも地図にも載っていなかったカポポサン島の存在を知ってもらえたんです。

▲愛さんの記事が掲載されたインドネシアの新聞

この一件で、私がやってることは単純にカポポサン島からココナッツオイルを仕入れて日本で売ってるだけだと思っていたのですが、その余波は少しずつ広がっていて、気がつけば世界の顔も名前も知らない人たちと繋がっていたんです。その時に世界は一つなんやなと確信したんです。だからテレビや新聞で報じられている遠い国の問題が自分に関係ないということは絶対にないんですよ。自分の身の回りのことでもいいから、目の前の何かいいと思うことをやってたら、知らず知らずのうちに遠い国の誰かが幸せになってることもありうる。食べ物でも日用品や服でもちょっと未来のことを想像して買うだけでも全然違うんですよね。それが真のフェアトレードなんだと思います。

 

確固たる信念をもってフェアトレードに取り組んでいる愛さん。次回は仕事観や働き方、今後の目標について語っていただきます。こう、ご期待。 取材・文:山下久猛 撮影:山田紗基子

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