デュアルライフ・二拠点生活[12] 新鮮マグロに採れたて野菜。5組11人が集う三崎港ビューの“シェア別荘”とは?

デュアルライフ・二拠点生活[12] 新鮮マグロに採れたて野菜。5組11人が集う三崎港ビューの“シェア別荘”とは?

玄関のドアを開ければ目の前に三崎港――。「三崎の『ミ~』で!」という掛け声とともにポーズをとってくれた彼らは、この場所に建つ築80年の古民家で週末移住を楽しむ5組の人々だ。

職業もバラバラで知り合ってからの年月も浅い。しかし、旧知の仲のように息もぴったりだ。そんな彼らが営むデュアルライフと地域との交流の様子を覗いてみよう。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】

これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます

品川から京急本線で1時間ちょい、そこから路線バスで15分

三浦半島の南端に位置する三崎港(神奈川県三浦市)。全国有数のマグロ水揚げ港として知られ、年間15隻前後のマグロ漁船が入港する。

最寄駅の三崎口駅までは、品川駅から京急本線快特に乗って1時間ちょい。そこから路線バスに揺られること15分で三崎港に到着した。2階の窓からの風景。晴れた日には左の方角に富士山も見える(撮影/相馬ミナ)

2階の窓からの風景。晴れた日には左の方角に富士山も見える(撮影/相馬ミナ)

港内に係留された水中観光船の脇には、「うらり」の愛称で親しまれている「三崎フィッシャリーナ・ウォーフ」。2001 年に旧三崎魚市場の跡地の一部に建てられた施設で、新鮮な魚や野菜を販売している。年間の来館者数は130万人を超える。「うらり」の2階デッキからは360°の眺望が楽しめる。料理教室やお笑いライブなども定期的に開催(撮影/相馬ミナ)

「うらり」の2階デッキからは360°の眺望が楽しめる。料理教室やお笑いライブなども定期的に開催(撮影/相馬ミナ)

また、毎週日曜の目玉は早朝5時~朝9時に開催される「三崎朝市」。マグロを中心に、海の幸、山の幸を求める人々で大いににぎわう。白首系の「三浦大根」は食感が柔らかいのに煮崩れしにくい。おでんなどの煮物に最適(写真提供/山本葵)

白首系の「三浦大根」は食感が柔らかいのに煮崩れしにくい。おでんなどの煮物に最適(写真提供/山本葵)

さらに、街を歩くと美味しそうな飲食店が続々と現れた。例えば、老舗の「まるいち魚店」では店頭で選んだ地魚を隣の食堂で食べられるというサービス付き(調理代は別)。扱う魚のほとんどは三崎港で水揚げされたもの。すべて量り売りで販売してくれるのもうれしい(撮影/相馬ミナ)

扱う魚のほとんどは三崎港で水揚げされたもの。すべて量り売りで販売してくれるのもうれしい(撮影/相馬ミナ)

平日は表参道のアパート、週末は三崎の古民家というデュアルライフ

街の紹介はここまで。満を持してデュアラーたちにご登場いただこう。すべてのきっかけをつくったのは、コンサル業を営む杉本篤彦さん(29歳)。うらりにほど近い、三浦の看板ともいえるような通りにたたずむ古民家がデュアルライフの舞台だ。

杉本さんは言う。

「きっかけは、この物件を管理していた大家さんの姪っ子さんとの出会いから。4年前に三浦市が2週間のお試しで空き家に住める『三浦トライアルステイ』という企画を始めたんですが、私がそれに参加した際に住む家の相談をしました」以前から、自分と波長が合う人が集まるスペースをつくりたいと思っていた杉本さん。この出会いをきっかけにデュアラーとしての第一歩を踏み出した(撮影/相馬ミナ)

以前から、自分と波長が合う人が集まるスペースをつくりたいと思っていた杉本さん。この出会いをきっかけにデュアラーとしての第一歩を踏み出した(撮影/相馬ミナ)

とはいえ、二つ返事で物件を貸してくれたわけではない。

「三崎はマグロで儲けた人たちが多い街。収入のために空き家を売ったり貸したりするよりは、思い出が詰まった空き家のままにしておきたいと考える人が多いため、物件サイトに載っていない空き家もたくさんあります。仲良くなれば中を見せてくれて、『月いくらでいい』と言われるパターンも少なくないですね」

杉本さんも、そのパターン。姪っ子さんとかなり打ち解けた段階で、週末移住者のための共同スペースをつくるという「シェア別荘計画」を打ち明けた。「それなら、親戚の空き家でこんな物件があるよ」という流れで、この古民家を紹介してもらった。撮影場所はメンバーお気に入りの喫茶店「トエム」。人気のクリームソーダは380円(写真提供/山本葵)

撮影場所はメンバーお気に入りの喫茶店「トエム」。人気のクリームソーダは380円(写真提供/山本葵)

平日は表参道のアパート、週末は三崎の古民家というデュアルライフが始まったのは2年半前。家賃は5万円以内という“お友達価格”だ。しかし、11年間誰も住んでいない物件は予想以上に手強かった。

「まずは普通に住めるような家にしようと、一人で黙々と作業。掃除が本当に大変で、ぶっちゃけ、何度も心が折れそうになりました(笑)」

杉本さんがFacebookに載せていた夕日の写真が決め手

そんな杉本さんの思いに賛同して合流したのが、自営業役員の山本陽平(33歳)さんとインテリア雑貨企画開発の葵(33歳)さん夫妻。

陽平さんはお祭り好きが高じて「オマツリジャパン」という全国のお祭り情報サイトを立ち上げた“お祭り男”だ。取材前日も後ろの海南神社の八雲祭で御輿を担いだ陽平さんは「肩、バッキバキですよ」と笑う。葵さんはシェア別荘のオシャレ担当(撮影/相馬ミナ) 取材前日も後ろの海南神社の八雲祭で御輿を担いだ陽平さんは「肩、バッキバキですよ」と笑う。葵さんはシェア別荘のオシャレ担当(撮影/相馬ミナ)神輿は地元の青年会のメンバーらが担ぐ(写真提供/山本葵)

神輿は地元の青年会のメンバーらが担ぐ(写真提供/山本葵)

現在、山本さん夫妻は西新宿の賃貸マンションに住んでいるが、杉本さんからの誘いに軽い気持ちで乗ったという。

「費用の負担も少ないし、二人ともアウトドア好き。そして、何よりも杉本さんがFacebookに載せていた夕日の写真が決め手でした」(葵さん)三崎のすぐ南にある城ヶ島から望む夕日と大島の影。夕日好きの葵さんにとっては堪らない1枚だった(写真提供/山本葵)

三崎のすぐ南にある城ヶ島から望む夕日と大島の影。夕日好きの葵さんにとっては堪らない1枚だった(写真提供/山本葵)

時代を感じさせる柱や掛け軸など、古民家の魅力は残したい

古民家での週末移住に山本さん夫妻という戦力が加わった。杉本さんとしては家賃負担が半分になったこともうれしい。

「こないだ部屋の畳を剥がしたら昭和48年の新聞が敷かれていました。つまり46年間、そのままだったということ」(葵さん)

とはいえ、古民家の魅力は極力残したい。時代を感じさせる柱や掛け軸もそのひとつだ。長年にわたって誰も触れなかった調度品が家の歴史を物語る。コンロや洗濯機を設置したことで、ようやく“普通に住める”レベルの家に(撮影/相馬ミナ)

コンロや洗濯機を設置したことで、ようやく“普通に住める”レベルの家に(撮影/相馬ミナ)

みんなと場をつくる楽しさ、喜びも悲しみも共有できる

仲間はどんどん増えていった。昨年11月に会社員の永田篤史さん(42歳)と1歳の息子を連れた栗山和基さん(36歳)、奈央美さん(34歳)夫妻が参戦。Negiccoファン歴6年の永田さん。推しメンを聞くと「箱推し」、すなわちグループ全体を推すスタイルらしい(撮影/相馬ミナ)

Negiccoファン歴6年の永田さん。推しメンを聞くと「箱推し」、すなわちグループ全体を推すスタイルらしい(撮影/相馬ミナ)

「多拠点居住にはもともと興味があったんです。今は江戸川区に住んでいますが、将来的にはマレーシアと日本の両方に拠点を持ちたくて。さらに、エストニアの電子国民の資格も取りました」

「東京と比べて、ここは時間の流れもゆっくり。魚も美味しいし」と語る永田さん。シェア別荘が旅館に泊まるのと決定的に違うのは、「みんなと場をつくる楽しさ、喜びも悲しみも共有できる点」だという。

一方で、栗山家は西新宿でシェアハウスを運営。自身もそこで暮らしている。メインの住居も週末用の別荘もシェアしているのだ。「今日は『ジモティー』経由で乾燥機をもらいました。子ども連れだと服が多くなるので、ここで乾かせるといいなと思って」(撮影/相馬ミナ)

「今日は『ジモティー』経由で乾燥機をもらいました。子ども連れだと服が多くなるので、ここで乾かせるといいなと思って」(撮影/相馬ミナ)

三浦半島には大人も子どもも楽しめるスポットがたくさんある

最後に仲間入りしたのは、中国人でエンジェル投資家のロウさん(39歳)家族。妻は42歳の会社員で、小学5年生の娘と小学2年生の息子がいる。

「住居は天王洲アイルにあるので、ここへのアクセスもいい。子どもが大きくなるにつれて、テーマパークとかよりは山や海で遊ばせたいと思うようになったんです」この日も目の前の海で魚獲り(撮影/相馬ミナ) この日も目の前の海で魚獲り(撮影/相馬ミナ)見事、ハゼと沢ガニをゲット(撮影/相馬ミナ)

見事、ハゼと沢ガニをゲット(撮影/相馬ミナ)

妻が言う。

「最近は小網代の森でホタルを観察したり、ソレイユの丘でバーベキューをしたり。三浦半島には大人も子どもも楽しめるスポットがたくさんあって気に入っています」

全国のデュアラー共通の悩みは「ゴミ出し」

ここに来るのは月に1回から3回程度と、皆さん頻度こそ違う。しかし、じつに濃い顔ぶれでそれぞれ専門分野を持っている。サッカーチームならかなり強力なイレブンになりそうだ。

ポイントは、週末移住者を“募集”しているわけではないということ。

「すべて、メンバーからの紹介です。“シェア別荘”で一番の醍醐味(だいごみ)は人。どの物件をシェアするかより、誰とシェアするかが重要なんです」(杉本さん)複数の家族が円滑に利用するためのチェックシート。三崎の先っちょにあるから「みさきっちょ」だという(撮影/相馬ミナ)

複数の家族が円滑に利用するためのチェックシート。三崎の先っちょにあるから「みさきっちょ」だという(撮影/相馬ミナ)

「あと、全国のデュアラー共通の悩みは『ゴミ出し』。平日はいないので、私たちも各自で持ち帰ったり、たまに地元の方にゴミ捨て代行してもらったりしています」(葵さん)

看板娘がいるような港町のバーもつくりたい

取材後、杉本さんと山本夫妻の案内で再び近所を散策した。どこか落ち着く懐かしい街並み(撮影/相馬ミナ)

どこか落ち着く懐かしい街並み(撮影/相馬ミナ)

「よく外に飲みに行くので、この辺の飲み屋の店主はみんな友達。看板娘がいるような港町のバーもつくりたいねと飲食店をやっている友達と相談しているところです。適任者がいたらやろうかなと」(杉本さん)

三崎港バスロータリー前の「山田酒店」では看板犬がお出迎えしてくれた。購入したお酒を店内で飲めるうえに、2階は民泊として開放しているという。天国か(撮影/相馬ミナ) 購入したお酒を店内で飲めるうえに、2階は民泊として開放しているという。天国か(撮影/相馬ミナ)毎年8月13日、14日の2日間は「みうら夜市」で盛り上がる(写真提供/山本葵)

毎年8月13日、14日の2日間は「みうら夜市」で盛り上がる(写真提供/山本葵)

この場所に5組全員がそろうのは2カ月に1回ぐらい

ちなみに、2週間に1回は都内で顔を合わせてミーティングを行う。来られない人はオンラインで参加する。この場所に5組全員がそろうのは2カ月に1回のペースだ。

「貴重な機会なので、今日はこれからみんなでバーベキューです」というので、「ぜひ、写真を送ってください」と頼んで三崎を後にした。届いた写真がこちら。どう見ても美味しいに決まっているやつだった(写真提供/山本葵)

届いた写真がこちら。どう見ても美味しいに決まっているやつだった(写真提供/山本葵)

今回取材した人々は皆、社会の第一線で活躍する人々。しかし、そんな彼らでも東京での生活に疲弊することがある。月に数回、東京に背を向けて眺める美しい夕焼けは心の避難所なのかもしれない。

風光明媚(めいび)で食べ物も美味しい土地に建つ別荘を安く“シェア”するという発想。今後、こうした動きはますます増えていくだろう。新鮮な魚、採れたての野菜、そして“シェア別荘”がある人生に乾杯!(写真提供/山本葵)

新鮮な魚、採れたての野菜、そして“シェア別荘”がある人生に乾杯!(写真提供/山本葵)●取材協力

オマツリジャパン
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