実力もないのに26歳でリーダーに。キャリアアップできている実感がない【シゴト悩み相談室】
キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
CASE31:「キャリアアップできている実感がどうしても持てません」(26歳男性・人材サービス会社勤務)
<相談内容>
大学卒業後、設立間もない人材サービス会社に営業職として就職しました。当時はまだ社員数は20人程度で、私が初の新卒入社。当時、営業部門は営業担当役員とマネージャー、新入社員2人だけという状態でしたが、自社の方向性を考えながら営業戦略を組み立て、それを現場でがむしゃらに推進してきました。
入社して4年が経ちましたが、その間に会社は急成長。今では社員数130名にまで拡大しました。営業部門は50名に拡大、そしてこの春からチームリーダーを任されています。しかし、「キャリアアップできている」という実感が全く湧きません。
実戦で学び、早く成長したいという思いを持って選んだ会社でしたが、目の前の数字を追うのに忙しく、毎日があっという間に過ぎていったという印象です。研修制度もない中でここまでプレイヤーとして走り続けて来たので、マネジメント力が身についているとは思えません。それどころか、営業としてのスキルもまだまだこれからと感じているのに、3名の新人のマネジメントを任されていることに不安を感じています。
こんな自分が「キャリアアップできている」と胸を張って言えるようになるには、どうすればいいのでしょうか?ただ、毎日本当に忙しく、ビジネススクールに通う時間はとてもなさそうです。(営業職)
キャリアップできていないはずはない。問題は「自己効力感」の低さだけ
なぜ「キャリアアップできていない」と思うのでしょう?
相談内容を見る限り、キャリアップしていないと思われる要素は一つもありません。急成長期にある会社でがむしゃらに頑張り、愚直に数字を追い、その成果が認められてリーダーに抜擢されたのではないですか?
基本的に会社は、成果を上げていない人に責任ある仕事を任せたりはしません。相談者は評価されているのです。もっと自分に自信を持ってください。
勤務先企業は、入社したてのころは「設立間もなかった」とのこと。そういう創業期の会社は、まだ「勝ちパターン」ができ上がっていないケースが多く、営業方法もおそらく試行錯誤しながら、より良い方法を作り上げてきたのでしょう。ゼロから新しいやり方を生み出すのは非常に難易度が高く、苦労は多いですがその分経験値もぐんと上がります。そんな状況下にいたのですから、営業として十分すぎるほどスキルも付き、経験も積むことができているはずです。
それに、「毎日があっという間に過ぎていった」ということは、心理学用語でいう「フロー状態」にあったと推察されます。時間の感覚がなくなるというのは、それだけ物事に集中し、没頭できているということ。つまらない仕事をイヤイヤやっていると、時間が経つのが遅く感じるもの。相談者の4年間は体感的にはあっという間でも、振り返ってみると濃く、充実した4年間だったことと思います。
従って、相談者の「キャリアアップできていない」という悩みは事実ではなく、自己効力感の問題だけだと思われます。
「自己効力感」とは、自分の可能性を自分自身で認知できている状態のこと。自己効力感が低い状態が続くと、チャレンジすることを恐れたり、高い目標を掲げなくなったり、わざと少し手を抜いたり…という“実害”が生まれます。相談者は、客観的には明らかに「仕事ができる人」なのですから、今のうちに自己効力感を高める努力をしたほうがいいと思います。
バンデューラの「自己効力感を高める4つの方法」を試してみよう
心理学者のアルバート・バンデューラは、自己効力感を高める方法として「成功体験」、「代理体験」、「言葉による説得」、「情動的体験」の4つを挙げています。
まず「成功体験」ですが、ただ経験しただけでは成功体験にはなりません。経験を振り返り、何をどう感じ、何を得たのか自分で「内省」して「教訓化」することで、自分の中で応用可能な知的財産として蓄積され、「成功体験」になります。
相談者は、成功体験に価する経験は何度も経験しているはず。おそらく立ち止まって振り返る心の余裕がなく、上司からフィードバックを得る機会もなかったのでしょうが、これを機に自分を見つめ直す時間を確保し、今までやってきたことを書き出してみましょう。
経験は、放置していてはただ流れて消えていくだけ。向き合ってみれば「自分、結構頑張っているな」と自信を持てるのではないでしょうか。
次に「代理体験」。成功している他者を観察することで、自分がやっているようなイメージを持ち、自己効力感を高めるという方法です。
よく若手営業が上司や先輩の商談に同行して現場で営業ノウハウを学びますが、これも代理体験の一例です。社内でハイパフォーマーと呼ばれている先輩を見つけ、その先輩がどんなことをして成果を上げているのか、行動を観察してみるといいでしょう。
ただ、おそらく相談者自身が、社内でもトップレベルの「できる人」であるはず。先輩を観察した結果、「あれぐらいなら自分もやっている」「自分のほうができているんじゃない?」と感じ、自己効力感が高まるかもしれません。
「言葉による説得」は、簡単に言えば第三者による励まし。人は褒められたり、励まされたりすると、自己効力感が高まります。「この人ならばきっと、ダメ出しではなく励ましの言葉をくれるだろう」と思える上司や先輩を選び、今回のような悩みを打ち明けてみましょう。できれば、松岡修造のようなアツい人を選べば、全力で励まし、応援してくれるでしょう。
最後の「情動的体験」とは、気持ちを高め、興奮させてくれるような映像を見たり音楽を聴いたりすることで、「今ならできるような気がする!」という刺激を自ら与えること。誰でもすぐにできる、一番手軽な方法と言えるでしょう。
よく、映画『ロッキー』でかかる「ロッキーのテーマ」を聴くと気持ちが昂ると言われ、ビジネスの場でも活用されていたりしますが、このような自分なりの「気持ちが高揚するもの」を持っておくといいかもしれません。ロックのようなアグレッシブな曲を聴くでもいいし、迫力あるオーケストラでもいいし、『キングダム』のお気に入りの1シーンを読むのもいいかもしれませんね。
相談者の場合、「キャリアアップできていない」というのは主観による幻想なのですから、気分を上げれば自己効力感も上がると思われます。まずは「説得」「情動的体験」のいずれかを試してみれば、悩みが軽減し、心が晴れるのではないでしょうか?
ただ、今後のキャリアのためにも、今までの経験を振り返って内省し、成功体験に変える作業は、ぜひ行っていただきたいと思います。
会社は相談者のような人を評価し、フィードバックする制度を早く整備すべき
相談者のように頑張っている人がこのように悩み、自信を失ってしまうのは、非常にもったいないこと。これは会社側にも大きな責任があります。今回は相談者だけではなく、経営者や人事担当者にも、大いに物申したいですね。
すでに設立して数年が経ち、会社の規模も大きくなっているのですから、「忙しくて時間がない」を言い訳にせず、評価制度をきちんと整備し、1対1のフィードバックミーティングを定期的に実施すべきです。
急成長中だからという理由で内部の整備を後回しにするのは「創業期ベンチャーあるある」ですが、仕事ができる人が自己効力感のなさから離脱してしまうというのも、実はよく聞く話。社員に成長の機会を与えるだけでなく、成長“感”を与える努力をしないと、人材が定着するはずはありません。
もしも相談者のようなタイプが、松岡修造みたいなアツいヘッドハンターやキャリアドバイザーに出会ったら…おそらくあっという間に引き抜かれてしまいますよ。
アドバイスまとめ
相談者がすべきは「自己効力感を上げる努力」だけ。
経験を振り返る時間を持ち、経験を「成功体験」に変えれば
キャリアアップを実感できる
EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭
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