大金を出して立派な設備を整えても、「やらされ仕事」では絶対に続かない…――フェアトレードに取り組む 藤原愛の仕事論(2)

大金を出して立派な設備を整えても、「やらされ仕事」では絶対に続かない…――フェアトレードに取り組む 藤原愛の仕事論(2)

インドネシアの小さな島の人たちのためにフェアトレードに取り組んでいる藤原愛さんの連載インタビュー企画。第2回は、愛さんが実際にカポポサン島に渡ってから気づいた真の問題、それを解決するために取った行動、そして目の前に次々と立ちはだかる壁を乗り越えて、ココナッツオイルが日本に届いた時のことなどを語っていただいた。

プロフィール

藤原 愛 (ふじわら・あい)

1987年兵庫県生まれ。高校卒業後、カナダへ1年間語学留学。帰国後、2年間スペインバーのバーテンダーを経て、22歳の時フェアトレードポリシーのショップカフェ“Love’s Gallery”を神戸市に開業。2012年、閉店しインドネシアへ移住、通訳の仕事を経験。この時知人を介してココナッツオイルに出会い、2014年、カポポサン島でフェアトレードココナッツオイルプロジェクトを開始。現在に至るまで、島民の生活改善、自立支援、環境保護に寄与している。一児の母。ココナッツオイルはオンラインでも購入可能

Love’s Gallery http://lovesgallery.wixsite.com/coconutoil

予想とは違った島の姿

──友人からココナッツをもらってその1週間後にはカポポサン島にいたってめちゃめちゃ行動が早いですね。

昔からやりたいことはすぐやらなきゃ気がすまない性格で(笑)。でも最初から今のような結果をイメージしていたわけではなくて、みんながすごく貧しいなら利益を与えられるようにしたいというシンプルな考えしかなかったんです。それと、先進国の人間が考えがちなことなのですが、小学校や図書館を建てようなどと考えていました。

でも実際に島に行ってみたら電気、水道、ガス、電話回線は通っていなくて、孤立している島ではあるけれども、小学校はあって識字率も高かったんです。島の雰囲気はのんびりしてて、島民も素朴でやさしくて、すごくいい島だなと思いました。夜になると空が星で覆い尽くされていて、距離も近くて、本当に降ってきそうで感動しました。最初は大量の小さな虫が私に襲いかかって来ていると錯覚したほどです。

▲美しく、豊かな海に恵まれたカポポサン島

「真の問題」を発見

海もきれいで魚もたくさんいたのですが、その豊かさが問題の原因にもなっていたんです。海が豊かであるがゆえに手っ取り早く魚を獲ろうと、漁師はダイナマイトを海に投げて爆発した衝撃で魚を気絶させて獲るダイナマイト漁や、しびれ薬を海中に撒いて動けなくなった魚を獲るポタセウム漁をしていたのですが、同時にそのせいでサンゴも死んでしまっていました。この状況を知った時、真の問題はこっちやなと思ったんです。

──どういうことですか?

私たちからカポポサン島の人たちを見たら、何もないから貧しい、貧しいからかわいそうと思いますが、当の本人たちは島で生きることに何の問題も感じてなくて、むしろすごく幸せそうで、全く悲観していないんですよね。だから貧しいからかわいそうだとか助けてあげないといけないという気持ちは私の主観でしかなかったわけです。

でも彼らは問題にしてないけれど、これからもずっと魚の住処であるサンゴ礁を破壊し続けていったら子供たちが漁師になった時に魚がいなくなります。そうなると島で生きていくことそのものが難しくなる。だから海の環境破壊こそが問題で、すぐにでも止めなあかんと思ったんです。でも他の漁法に切り替えようとしても漁具を買うお金はないし、先程言った通り、島には漁業くらいしか稼げる仕事がないので、漁師に代わる仕事を作らなければなりません。そこで、ココナッツオイルの生産を島の産業にできないかと考えたわけです。

それで、島に連れてきてもらった漁師のアンディにココナッツオイルの作り方を見たいと言ったら、島民に「この日本人の子、ココナッツオイルに興味があるねんて」と紹介してくれて。島民も気さくなのですぐ「じゃあ作ってるとこ見せてあげるよ」と見せてくれました。その様子は、島民がそこら中に自生しているヤシの実を取ってきて、完全に手作りしていました。これで原材料から生産工程を把握できたので、あとは流通と販売ルートを私が確保すればフェアトレード商品として世に出せるのではないか。私が島の人たちから適正な金額で買い取って日本で販売することで、最低限の現金収入は確保でき、島民たちが日々の生活のためにダイナマイト漁や毒を使った漁をしなくなり、その結果サンゴ礁のあるきれいな海が守ることができる。これは立派なフェアトレードだと言えるなと。そう確信した瞬間、「これや! やっと私の本当にやりたかったことに出会えた! これは絶対にやらなあかん!」とすぐ動き出したんです。

▲カポポサン島で現地の女性と一緒に

現地法人を設立

──やはり行動が早いですね。具体的にはどのように行動したのですか?

私のプランをアンディ経由で村長に話すと、「それは島にとってもすごくいいことだからぜひやってくれ」と快諾してくれました。村長はアンディとすごく仲がよかったので一気に信用してもらえたんです。そして、ココナッツオイルを輸出するためには法人組織が必要なので、現地法人を立ち上げようとしました。でもこれが想像以上に難しくて。インドネシアでは外国人が法人を立ち上げる場合、資本金が日本円で3000万円くらい必要だったんです。そんな大金を用意するのはとても無理だったので、アンディと村長に経営者になってもらって法人を設立しました。

──その島に連れてきてくれたアンディはカポポサン島出身じゃないのになぜ経営者になってくれたのでしょうか。

元々アンディはカポポサン島の周辺で漁をする漁師で、その弟はダイビングショップを経営していて、カポポサン島周辺にダイバーを連れてきてガイドをしていました。なので珊瑚を破壊するダイナマイト漁やしびれ薬を使う漁に対して怒っていたんです。そこへ私が島に来て現状や改善案についていろいろ質問したので、「そこまで真剣に島のことを考えてくれて本当にありがとう」と言って信頼してくれました。それとダイナマイト漁をなくしたいという思いが一致したんです。その人にはもう1人、貿易をしている弟もいるので「ココナッツオイルを輸入するなら弟に任せろ。俺たちが愛のパートナーとして協力するから一緒に頑張ろう」と兄弟でこのココナッツオイルのフェアトレードビジネスのパートナーになってくれたんです。

▲中央のハンモックに座っている男性がフェアトレードのパートナーになり、ココナッツオイル生産のマネジメント業を担当しているアンディ

そして島の人たちが作ったココナッツオイルを私が日本でその法人を通して定期的に買い取って販売するというフェアトレードビジネスを始めたわけです。それで2014年の夏に帰国しました。

──設立した現地法人が島民を従業員として雇ってココナッツオイルを作るということなのですか?

いえ、そうではなくて、島の広場にココナッツオイルを作るための建屋を建て、機械を設置して、島民の誰もが使えるようになっています。なので、そこにココナッツオイルを作りたい島民がやって来て機械を操作して作り、できた分を村長(=設立した法人)が買い取って、まとまった量を私が村長から買い取るという流れです。島民は150人くらいなのですが、もちろん全員がやってるわけではありません。無理矢理やらせても品質が保てませんからね。自由参加型です。

▲カポポサン島でココナッツオイルを作る島民たち

──愛さんはその現地法人に参画していないわけですよね。取り引きをするにあたって契約書などは交わしているのですか?

いえ、全く交わしてないです。正直、単なる口約束なので、向こうが私にココナッツオイルを送ってこなくなったらそこで終わりです。一緒に法人を作ったとしても、乗っ取られたら同じことなので。信頼関係だけでやってるようなものですね(笑)。

──購入価格や量、販売価格はどんな感じで決めたのですか?

そこはすごく悩みました。原材料となるココナッツも島民の物なので、完成したココナッツオイルだけじゃなくてココナッツから買い取りました。その時、島民が、島の外から買い付けに来る人はすごく安い値段でしか買ってくれないと言っていたので、その何倍かの値段で買うことにしました。そのココナッツを使って島民が作ったココナッツオイルを更に買い取るので、ココナッツオイルを作る労働に対してもお金を支払っているということです。この代金は前払いです。基本的にフェアトレードは現地の人の生活ベースが整ってから生産してもらうというのが条件としてあるので。

買い取る量は当初、毎月100キロにしました。島民がダイナマイト漁をやめても生活していけるだけのお金や生産量の限界、それと椰子の実を枯渇させずにサスティナブルに生産できる量の限界を元に算出しました。島民の食用の椰子の実が足りなくなったら意味がないですからね。日本での販売価格は、輸入のための経費を差し引いた上で、私自身も最低限生活できるくらいの利益が出るように設定しました。と言ってもざっくり計算しただけなんですけどね。このせいで後に痛い目を見ることになります(笑)。

クラウドファンディングで資金調達を試みるもすぐやめる

──法人を設立した後は商品の生産、輸入までスムーズにことは運んだのですか?

いえいえ。そこからがまた大変でした。当時の作り方では衛生面に大きな問題があったので、とてもそのまま日本で売ることはできなかったんです。というのは、まずココナッツを割る時に、地面に突き刺した鉄の棒に打ち付けて割って中の果汁を出すんですね。さらにその棒に割った実をこすりつけて中身を削り取ります。その後、細かく砕いたココナッツの中身に水を加えてぎゅっと絞ります。それをタンクに入れて、2、3日天日干しすると水と油に発酵分離します。下にたまった水は捨てて、上に残った油分を数時間火にかけるとココナッツオイルの完成です。このように、すごく原始的な方法なので、日本で売るには衛生面でありえないという感じだったし、これを全部手作業でやるのはすごく手間のかかる重労働でした。

この2つの問題をクリアするために、ココナッツの実を砕く機械や実を削り取る機械や、それらを動かす発電機を買う必要がありました。全ての設備を整えようとすると最低でも日本円で100万円は必要。しかし、もちろん島にはとてもそんな大金はないし、私自身ももっていませんでした。そこで、クラウドファンディングで資金を募ることにしました。でも、ろくに集まらないまま1週間くらいで終了させたんです。

──なぜですか? クラウドファンディングを使えば身銭を切らなくても多くの資金を集められるかもしれないのに。

「このお金って本当に必要なんだろうか」と思ったからです。結局その機械を使うのは島民です。急に誰のかわからない大金で島に立派な設備が設置されて、自分たちが使ったこともないのに「今日からこの機械を使ってココナッツオイルを作れ」と言われても、違和感とか無理矢理やらされてる感しかないだろうし、そのせいで島民との関係性が悪くなる可能性が高くなります。それに、そもそもそんな大金、私や島民の身の丈に合ってないなと感じたんです。なので、私の貯金に加えて、日本に帰国してアルバイトをして稼いだお金を少しずつ現地法人に送って、徐々に設備を購入してもらったんです。これでまた貯金がなくなりました(笑)。

でも、このことによって、島の人たちは私も彼らと同じ立場で頑張っているということをわかってくれたから、信頼関係が築けて足並みが揃ったんですよ。結果的に身の丈に合ったことしかできなかったからこそ島の人たちの意識を変えることができたので、クラウドファンディングを使わなくてよかったと思っています。

──では今度こそその後は順調に?

いや、それがその新しい立派な機械を使っても、品質面でとても日本で商品として売れるレベルにはならなかったので、現地パートナーと相談しながらそれらの向上に取り組みました。ここが一番苦労した点ですね。最初の頃は買い付け量100キロの半分以上が商品として出せない品質で、私が日本の店に卸したい量に全然達してなかったのでそもそもビジネスとして成り立っていませんでした。そして、先程お話した通りココナッツオイルの仕入れ代は前払いで、かつ不良品でも廃棄になるだけで返品・返金はしないので、店頭に置けない商品が多ければその分の損失はすべて私が被ることになります。商品は自宅に送ってもらって、仕事も自宅でしているので在庫が増えると困るんです。そんなわけで、不良品が多ければ私がこのフェアトレードを続けられなくなり、結果的に島民が困ることになります。だからいかに品質を上げるかに腐心したわけです。

──料金前払いで不良品は全部自分の損失になるって、ビジネスとしてはリスクが高いですよね。

確かにそうなんですが、それを気にしたらフェアトレードはできないですからね。確かに私にとっては“フェア”トレードとは言えないのですが、とにかくダイナマイト漁をなくしたい一心でした。

そして、2014年12月、待ちに待った、商品としてのココナッツオイルが初めて日本に届いたんです。

──その時の気持ちは?

それはもうむちゃくちゃうれしかったですよ! うわー、やっと来た!って飛び跳ねるくらい。ようやくやりたかったことが形になった瞬間ですからね。届いたのは12月14日っていまだに日付まで覚えてますよ。

──愛さんの担当業務は?

カポポサン島から送られてきたココナッツオイルの瓶詰めやパッケージのデザイン、販売店を増やすための営業活動、販売店への送付作業などです。販売先は、最初は顔見知りのお店に商品を置いてもらっていましたが、その後、少しずつ日本各地のデパートや雑貨店などが置いてくれるようになりました。あとはインターネットでも販売しています。

また、週末にはいろんなイベントに出店して販売したり、来てくれた人に商品や私の活動について話しています。初めてイベントでココナッツオイルを販売した時のことは今でもはっきりと覚えています。友達に誘ってもらったフリーマーケットだったのですが、最初は何にもわからなくて、ラベルも何もない瓶にただココナッツオイルを詰めて出したんですね。その時、神戸で長年フェアトレードカフェを経営している人が声掛けてくれて、経緯を話すと「へ~こんなことやってんの、すごい」と感動してくれた一方で、「でもこれは安すぎる。ちゃんとラベルをかわいくしたらもっと商品価値上がるからもっと高く売れる。そこ頑張り」って言ってくれて今の状態になったんです。そうやってアドバイスしてくれる人がたくさんいたのがありたがいですよね。

数々の困難を乗り越え、日本でのカポポサン島産のココナッツオイルの販売にまで漕ぎ着けられた愛さん。そしてその後も苦しい中、頑張り続けた甲斐があり、大きな夢を実現したのでした。次回はついに夢がかなった瞬間のこと、仕事のやりがい、真のフェアトレードとは、などについて語っていただきます。こう、ご期待。 取材・文:山下久猛 撮影:山田紗基子

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