『僕たちは希望という名の列車に乗った』ラース・クラウメ監督インタビュー”みんなそれぞれ人生を歩んでいれば、人生を変える瞬間というものに出会うもの”

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Eric (Jonas Dassler), Theo (Leonard Scheicher), Lena (Lena Klenke), Paul (Isaiah Michalski) und Kurt (Tom Gramenz) mit ihren Mitsch¸lern

原題『THE SILENT REVOLUTION』“沈黙の革命”が意味するように、ここで描かれる物語は1956年に東ドイツのある高校で起こった約5分間の黙とうが引き起こした実際の事件が基となっている。西ベルリンの映画館でハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を目にしたテオとクルトは、クラスに戻り級友たちに呼びかけて黙とうを実行する。それは自由を求めるハンガリー市民に共感した彼らの純粋な哀悼だったが、ソ連の影響下に置かれた東ドイツでは“社会主義国家への反逆”と見なされついには当局や人民教育相までも巻き込む大事件へと発展していく……。
無意識のうちに政治的タブーを犯してしまった若者たち。その胸中にだんだんと育っていくまっすぐな反抗心と連帯意識をドラマティックに描出した本作の監督ラース・クラウメに、東ドイツの高校生たちが起こした革命の物語に込めた思いを語ってもらった。

――劇中描かれる、まだ若い学生たちによる黙とうが引き起こす事の重大さにこの出来事が実話であったということも含め本当に衝撃を受けました。このことを初めて知ったとき、監督はどんなことを思われましたか?

ラース・クラウメ「僕自身この出来事を初めて知ったとき、実はあまりショックを受けなかった。ドイツの歴史では様々なことが起こっていたし、その中では本当に恐ろしい瞬間も多かったからだ。だからこの映画で描かれる事件は、ドイツ人として“そんなこともあるだろうね”というくらいの感想を抱くものなんだ。ドイツ中をまわってこの作品を上映したのだけれど、やはり各地域で同じようなことが起こっていたという声をたくさん聞いたんだよね。ただ一つこの作品の事件が珍しかった点というのは、学生たちが連帯したということ。当時、独裁的な体制に対しみんなで一つになって立ち上がったケースというのはあまりなかったから、そこが興味深い点だと思うし、この作品においても大きなポイントになっているよ」

――本作でフォーカスが当てられる1950年代の東ドイツはこれまで映画のなかではあまり語られてこなかった部分だと以前おっしゃっていましたね。

ラース・クラウメ「そう、そのためにこの作品を観たドイツの観客の反応はとても興味深くフレッシュなものだった。今まで描かれていなかった側面であるけれども、その時期を通して両ドイツは社会や政治的秩序の再建を行ったという事実は今見直されるべきだと思う。また、この物語の登場人物である学生たちはある意味でアウトサイダーとして社会の規範を破っているというところも重要なポイントとなっている。東ドイツを描いた作品を僕のような西ドイツ出身監督が作ると批判を浴びることが多いけれど、今回は原作を手がけたディートリッヒと密にコラボレーションをはかりながら行ったこともありすべからく好評だった。私自身思い入れが強い作品だったし、観客の皆さんも本作のリアリズムを通して熱意を汲み取ってくれたのだと思うよ」

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――制作中リサーチを重ねる中で当時の東ドイツに対する見方が変化したことや新たな発見はありましたか?

ラース・クラウメ「リサーチの中で社会における“個”という概念を改めて考えさせられた。西ドイツで育った私は資本主義的な個の捉え方に慣れ親しんでいたけれど、劇中描かれているような社会主義国の理想にのっとった個というのは確かに東ドイツで暮らしていた当時の人々の心に存在していたんだ。彼らは自分たちが望んでいたわけではない主義を急に押し付けられたにもかかわらず、“集合体”としての個に重きをおくやり方に対し前向きにトライしてみようといった姿勢だった。それはやらされていた、洗脳されていたというわけではなく“やってみよう”という感じに近かったらしく、その風潮に関しては知らなかった部分だったので非常に興味深いと感じたよ。今回キャストにも50~60年代に製作され発禁処分となった東ドイツ映画を観てもらったのだけれど、その中でも新しい試みに対する当時の人々の葛藤する姿は見られたんだ」

――学生キャストたちは当時のドイツの時代背景を理解するために様々なリサーチをしたとうかがっています。本作制作のうえで監督は彼らにどのような歴史的共通意識を持たせるようなディレクションをしましたか? また、リサーチを通して彼らの知られざる事実もあったかと思いますが、彼らの反応はどんなものでしたか?

ラース・クラウメ「役者である彼らには、演技におけるテクニカルなことにできるだけ専念してほしいという思いを抱いていた。しかし歴史背景を知った際にはどうしても個人の感情が動いてしまうから、そこが役者という職業の難しいところなんだよね。でも彼らはプロとして、冷静に受け止め取り組んでくれた。例えば、エリック・バビンスキー役を演じたヨナスにザクセンハウゼン強制収容所を訪れてもらった時のエピソードは印象深い。僕がその収容所を訪れた時は心を強く動かされ、涙をおさえることができなかったほどにエモーショナルになってしまったのだけれど、ヨナスは役作りという意識を強く強く持っていたから、もちろん心的影響を受けながらも役者としてしっかりと歴史を受け止めていたんだ」

theo(leonard schleicher)und kurt(tom gramenz) erzählen paul(isaiah micjalski) und erik(jonas dassler) von dem film

――原作者のディートリッヒ・ガルスカの人格が投影されたキャラクターであるクルト・ヴェヒター役を演じたトムには、ディートリッヒとの対談の内容をフィードバックしたディレクションが行われたのでしょうか?

ラース・クラウメ「原作者のディートリッヒと僕はまさに二人三脚と言った感じで本作の脚本執筆を進めていった。トムとテオ・レムケ役を演じたレオナルドについては、彼らがとてもインスピレーションをくれる役者たちだったので二人に会ってから彼らの人柄をキャラクターに味付けしていくことでディートリッヒ自身の姿を役柄に反映させていくことができた」

――親世代と新しい世代の間にある価値観の差異、当時の両ドイツの恐ろしい過去から新しい未来へ移行しようとする模索の物語を、いまこの時代に描きたかったのは監督のどんな思いがあってなのでしょうか。

ラース・クラウメ「すべては、僕の前監督作『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』で描かれるフリッツ・バウワー(アウシュビッツで行われた残忍な行為を暴き、ナチス残党を追い詰めたナチ犯罪追及センターの検事)を知ったことから始まったんだ。それまでなぜ僕は今まで彼のことを知らなかったんだろうとショックを受けたし、これだけ重要な事実と興味深い物語があまり語られてこなかったことに疑問を抱いた。映画作家として作品を作るとき、僕は常に“ワオ!”と思わせてくれるような物語を求めているし、あとは大きなスクリーンの上映に耐えうるだけの画的なスケール感があるかどうかも重要に捉えている。『僕たちは希望という名の列車に乗った』の場合、制作に着手する前からディートリッヒが書いた原作が僕の手元にあったので改めて読み返したのだけれど、ナチス政権後に社会を再建しなければならなかった当時のドイツ人たちがどのように時代に立ち向かっていったのかが洞察的に書かれていると感じたし、その点はフリッツ・バウアーの物語に通じるところがあった。ただ、歴史的な出来事を映画としてそのまま描いてしまってはただの歴史の授業になってしまうから、そこに普遍的価値のあるメッセージをのせなければならないと考えたんだ。本作では言論や表現の自由、連帯するということという主張を付与したことでタイムレスな作品になったと思う。また、劇中では男女が関係性を築くうえで誤解を生んで葛藤したり、政治的な力や誤用、そして社会的な力によってより良い状況に変化させることを強調させたんだ」

hermann(ronald zehrfeld)verabschiedet theo(leonard schleicher)

――タイムレスな作品だからこそ観客は「自分だったらどうするか?」ということを考えさせられると思いますが、監督は本作のキャラクターの中でご自身に近い人物はいますか?

ラース・クラウメ「テオは自分の分身だと思っているよ。僕は17歳のときに初めて政治的な抗議活動に参加したのだけれど、それは当時好きだった女の子がやっていたからだったんだ(笑)。その時は政治に全く興味のないサッカー少年だったからね。ただ、テオのように実際に活動に触れてみることでそこから学んだことは本当に多かった。テオたちと同じように連帯感を持って立ち上がり、体制に声を上げるということは簡単なことのように見えてなかなかできないことだと思うし、僕自身も実際にその場になってみないとどう行動したかは分からない。でも、人と言うのは周りの人がしていることに追従してしまう傾向がある。それは、戦中沢山の人がナチスに賛同したことと同じだね」

――本作のように、たった一つの出来事が人生さえ左右してしまうことがあるということは監督の身に起こったことはありますか?

ラース・クラウメ「もちろんそういった瞬間と言うのは僕の人生においても沢山ある。僕がこの作品の登場人物と同じくらいの年齢の頃はちょうどベルリンの壁が崩壊したタイミングで、当時ルーマニアから来た先生に教わっていたのだけれど彼は貧しい祖国のために募金を募っていた。僕は、その寄付金をルーマニアまで運ぶ様子を写真に収める記録係を任せてもらったのだけれど、その時ルーマニアの悲惨な光景をこの目で見たという体験は深く心に刻まれたのがきっかけでフォトジャーナリストを志すようになったんだ。その旅はたった数日間だったのにも関わらず、そこから未来の自分像がはっきりと変わっていった。みんなそれぞれ人生を歩んでいればそのような人生を変える瞬間というものに出会うものだと思っているよ」

Regisseur Lars Kraume am Set von DAS SCHWEIGENDE KLASSENZIMMER

text Shiki Sugawara

『僕たちは希望という名の列車に乗った』
5月17日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ロードショー
bokutachi-kibou-movie.com   

監督:ラース・クラウメ『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』 原作:ディートリッヒ・ガルスカ「沈黙する教室」(アルファベータブックスより4月発刊予定)出演:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、ヨナス・ダスラ―、ロナルト・ツェアフェルト『東ベルリンから来た女』『あの日のように抱きしめて』、ブルクハルト・クラウスナー『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』
2018年/ドイツ/ドイツ語/シネスコ/111分/PG-12/日本語字幕:吉川美奈子 協力:ゲーテ・インスティトゥート東京 配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス 
(c)Studiocanal GmbH Julia Terjung
 

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