15歳のすごいデビュー作〜坪田侑也『探偵はぼっちじゃない』

15歳のすごいデビュー作〜坪田侑也『探偵はぼっちじゃない』

 これまで半世紀少々生きてきて、さまざまな若手の台頭を目にしてきた。”高校球児が自分より年下”、”アイドルが自分より年下”、”若いママさんが自分の息子より年下”などなど、枚挙にいとまがない。というか、もはや自分より年下の人たちの方が多いんじゃね? ということでたいていの条件には動じないつもりでいたが、これは久々の衝撃であったと思うのが”作家が自分の息子より年下”。本書の著者、坪田侑也さんのことである。

 『探偵はぼっちじゃない』の語り手はふたり。中学生生活最後の夏を過ごす緑川光毅と、中学校の数学科教員である原口誠司だ。それぞれの視点から語られる物語は、接点があるのかないのかわからないまま進んでいく。緑川は大学受験を半年後に控えているがどうにも勉強に身が入らず、塾でも「このままだと今の志望校は厳しい」と言われてしまう。いい大学に入れと自分の価値観を押し付ける父親ともショッピングや習い事にうつつを抜かす母親ともそりが合わない。学校では目立つグループのクラスメイトと一緒にいるが、心からわかり合えている気はしない。一方、原口の勤務先は祖父が創設した学園の中等部。将来は父の後を継いで経営者になる予定なのだが、実は経営は傾きつつある。祖父はその原因を、自分の息子が教職を経験せずに経験者になってしまったことにあると考えていて、原口は半ば強制的に教員にさせられた。当然「経営者の息子」に対する風当たりは強く、ただでさえ人間的にも尊敬できないような同僚たちに囲まれて悶々とした日々を送っている。

 そんな彼らにそれぞれ新たな出会いが訪れる。緑川は同じ学年の星野温(あつむ)と、原口は同じマラソンコース選定係となった石坂と(厳密には、もともと同僚だったのだから「新たな出会い」ではないが)。星野は緑川に「一緒に推理小説を書いてくれないかな?」と驚きの提案をし、原口は得体が知れないと思っていた石坂の意外な秘密を知る。これは緑川と星野の、そして原口と石坂の間に存在する信頼の話だと思いながら読んだ。無理して周囲に合わせながら生きる必要はないし、無理してつきあわなければいけないような友だちならいらない。でも、もしありのままの自分をさらけ出せる相手と出会えたなら、それは人生の宝だ。自分の信じるところに従って生きることで共感できる相手とめぐり会えるとしたら、私たち読者はどんなに勇気づけられることだろう。

 読み始めてすぐから、著者のとてつもない筆力に圧倒された。坪田さんがこの小説を書かれたのは中学3年生時点でのことだそうだけれども、同年代の登場人物の心理描写に長けているのはまあわからなくはない(それだけでも十分すぎるほどすごいが)。驚愕させられたのは、若者であるとはいえ著者よりも6〜7歳年上の教師の心情がありありと描かれていることだ。坪田さんはうちのいちばん下の息子より1歳年下だが、なぜこれほど大人の気持ちをわかっておられるのか(うちの息子にもこの10分の1の理解力でもあれば、毎日同じようなことでバリバリと私に怒られることもないであろうに)。

 本書のさらにすごいところは、ミステリーとしてもしっかり書かれた小説であることだ。ネット心中のグループに登録している『S』の正体は? どこにいるのか? 青春小説であり、成長小説であり、そのうえミステリーでもある。デビュー作からこんなに完成度の高い作品を書いてしまうと後がたいへんなのでは…と老婆心全開で本編を読み終えた後にも驚きは待ち受けている。なんでしょう、このあとがきの安定感。デビュー15周年くらいの人が書くやつじゃないの、これ。学業との両立はたいへんでしょうが(今度は母心)、次回作も楽しみにお待ちしてます。

(松井ゆかり)

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