雑誌の世界観をウェブに持ち込む 『BRUTUS』と『ぴあ』の新たな挑戦

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雑誌の世界観をウェブに持ち込む 『BRUTUS』と『ぴあ』の新たな挑戦

 3月12日、下北沢の「本屋B&B」でトークイベント「『BRUTUS』と『ぴあ』がデジタルで目指す世界とは?」が開催され、『BRUTUS』編集長の西田善太さん、『ぴあ』(アプリ)編集長の岡政人さん、博報堂ケトル代表で本屋B&B開業者のひとり、嶋浩一郎さんが登壇しました。

 同イベントでは、両媒体が2018年11月にデジタル版のサービスを開始したことを受け、「二つの雑誌ブランドが、デジタル世界でどんな人と情報の出会いをつくりだすのか?」を問うトークが展開されました。

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 嶋さんが前提として提示していたのは、ウェブメディアで世界観を構築することの難しさ。「ウェブはひとつひとつの記事のPVが高いと評価されて、全体として世界観を作ったことが評価されることがあんまりないんですよね」と語ります。

「雑誌って1つの世界観があるじゃないですか。これは西田さんがよく言うんですけど、雑誌っていうのは限られたスペースの中で情報をセレクトしなきゃいけないから、どんな情報を選ぶかっていう視点が重要で、そこにファンがつく。その雑誌ならではの人格や文脈ができるわけですよね」(嶋)

 嶋さんは続けて「(両媒体は)雑誌の世界観を体現してデジタルコンテンツを作っている」と分析。それでは『BRUTUS』と『ぴあ』はどのような考えを持って、雑誌の世界観をウェブに持ち込もうと試みたのでしょうか。

 『BRUTUS』は今でも雑誌媒体を持ちつつ、ウェブ媒体として『BRUTUS.jp』をスタートさせました。西田さんは「『BRUTUS』は特集のメディア」と位置付けたうえで、ウェブコンテンツを作る際にも「ニュースサイトにはしたくなかった」と語ります。

 「インターネットの本質はリンク構造にある」と西田さん。『BRUTUS.jp』では、BRUTUSの特集や定例記事をひとつひとつデジタルに最適化しながらアーカイブ。その記事を数多くのキーワードでつなぐことで、自分だけの”読み方””飛び方”、思いもよらない情報の連鎖を楽しめる仕組みになっています。数年後にも見つけてもらえる、コンテンツを再利用できるところがウェブの強みだと考えているのだそう。雑誌のアーカイブでは何号分も購入し保管しなければならなかったのが、ウェブ媒体ならスマートフォン1台で可能になるからです。現在は過去5年分、100冊のBRUTUS記事がアーカイブされ、これからの特集はもちろん、過去の号もさかのぼってアーカイブされていく予定です。

 一方の『ぴあ』は、雑誌媒体を2011年7月に休刊。その直後からアプリプロジェクトを始動させていたそうです。「雑誌だと、1ページ開くと新宿の映画情報の一覧がある横で、当時だと渋谷とかが載っていたのかな」と嶋さんは振り返ります。岡さんも「雑誌だと1冊で1週間分の情報をぱらぱらとページをめくれば一瞬で俯瞰できるけど、ネットでは(同じことは)絶対にできない」と語っていました。

 そのような雑誌の世界観をアプリでなら表現できると考えたのだそうです。「10個くらいのアプリを1個にしているのに近い」と岡さんが話す通り、『ぴあ』(アプリ)では映画の情報を作品、会場をインデックスしており、ステージや音楽などにカテゴリを切り替えると、映画と同じようにインデックスが使えるようになっています。雑誌を捲るのと同じ感覚で使えるようにと試行錯誤して独自に生み出した「チャンネル」UIについては、特許出願中だとか。

 また『ぴあ』はアプリで復刊したのではなく、「エンターテインメントの一次情報をきっかけに、人がリアルな場所に集まることで出会いや感動が生まれる&広まる」という「本質的価値」を踏襲した新しいサービスとしてスタートさせたそうです。

 『BRUTUS』と『ぴあ』はこのようにしてウェブコンテンツに雑誌の世界観を持ち込みました。両媒体とも読者が自分で情報を発見できる方法を提示しているという特徴があります。

 嶋さんが開業した「本屋B&B」では、コンセプトとして本との「偶然の出会い」を大きく掲げています。両媒体と同じく情報を提供する立場として、「自分の好きなことを自分で見つける」ことの大切さを語っていました。「好奇心を人任せにしない」と西田さんもそれに同意。

 3人は共通して情報を見つける場を作っています。検索することは発見ではなく確認でしかない、検索することで知識が減る、と意見をぶつけ合い、欲しかった情報の横に偶然あった情報と出会うことの重要性を話していました。

 最後に嶋さんは両媒体の今後やりたいことを尋ねました。西田さんは「コアな情報を発信する媒体としての枠を『BRUTUS』で守っていきたい。デジタルで場を得たのは楽しいこと。面白い人が20代、30代にいるので、そういう人を『BRUTUS.jp』でピックして、本誌にも役立てていきたいです」。

 また岡さんは、今回のイベントが『ぴあ』では実は取り上げられていないことを例に、「大小問わず、人が集まる場の情報と熱量をネットで可視化できたら理想。このリアルな場に集まった、この空間、感動とか出会いを時間と場所で可視化したい。それをやっていくのが『ぴあ』だと思う。」と話していました。

 同イベントはチケットが完売し、出版社で働く人や両媒体のファンなど、会場いっぱいの参加者で大盛況のうちに終了しました。読者がウェブ上の情報をどのように扱っていくか、自分で発見し体験することの重要性を問うトークにもなり、それを助ける媒体として『BRUTUS』と『ぴあ』の取り組みが見えるイベントになりました。

■関連リンク
・本屋B&B
http://bookandbeer.com/
・BRUTUS.jp
https://brutus.jp/
・ぴあ(アプリ)
https://lp.p.pia.jp/

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