空き家問題や環境問題の糸口に。古材が注目される理由

空き家問題や環境問題の糸口に。古材・古木が注目される理由 古い木材を使ったりエイジング加工が施されたりした木材を使ったリノベーションやインテリア・家具が人気になるなど、古材や古木(※)という素材に注目が集まっている。単純にかっこいいというのはもちろん理由のひとつだが、それらは空き家問題や環境問題などさまざまな社会問題の解決の糸口にもなっているのだという。住む人にも、集う人にも、環境にもやさしい古木という素材の魅力について、2人の古材・古木のプロフェッショナルである、山翠舎の山上浩明氏とリクレイムドワークスの岩西剛氏に話を聞いた。その魅力はもちろん、過去から未来へとつながる古木の可能性に満ちた対談となった。山翠舎の東京支社ショールームにて。(左)山翠舎 代表取締役社長・山上浩明氏。創業80年以上という老舗の木工所(建具屋)で、現在では古木を使った店舗デザイン・設計・施工や古民家の移築・再生事業までを手掛ける。 (右)リクレイムドワークス ディレクター・岩西剛氏。アメリカ西海岸から輸入した古木を使った家具の販売や住宅リフォーム、店舗・オフィスのプランニングを行う(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

山翠舎の東京支社ショールームにて。(左)山翠舎 代表取締役社長・山上浩明氏。創業80年以上という老舗の木工所(建具屋)で、現在では古木を使った店舗デザイン・設計・施工や古民家の移築・再生事業までを手掛ける。 (右)リクレイムドワークス ディレクター・岩西剛氏。アメリカ西海岸から輸入した古木を使った家具の販売や住宅リフォーム、店舗・オフィスのプランニングを行う(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

歴史やストーリーが密に詰まった「古木」

長野県大町市にある山翠舎の倉庫兼工場。800坪/7階建相当の巨大な倉庫内には3500本もの古木が。写真で古民家50軒分(4階建て相当)なのだとか(画像提供/山翠舎)

長野県大町市にある山翠舎の倉庫兼工場。800坪/7階建相当の巨大な倉庫内には3500本もの古木が。写真で古民家50軒分(4階建て相当)なのだとか(画像提供/山翠舎)

岩西剛(以下、岩西):「古木(こぼく)・古材(こざい)・古材(ふるざい)、どう呼べばいいんですか?」ってよく聞かれるんですよね。

山上浩明(以下、山上):今度から「古木(こぼく)」って言いませんか? 「古材」だと、鉄など木以外のいろいろな材料も含まれてしまいますよね。古いものを敬遠する人もいるけれど、例えば「法隆寺にあった木」とか「諏訪大社や戸隠神社のご神木の一部」とかいうストーリーがあるとありがたい感覚になる。そういうストーリー性のあるものを、私は「古木」と定義したいんです。山翠舎の施工事例

山翠舎の施工事例

岩西:「古木」という言葉は、まさしく僕が感じていた違和感を正しく言い当ててくれています。アメリカでは「リクレイムド(reclaimed:再生利用する)」という資源に対して使う言葉があるので、古木に「リサイクル(recycle)」という言葉は使わないんです。そこにはリスペクトがあるんですよね。だから山上さんが「古木(こぼく)」という言葉のもつ意味にこだわっているのが素晴らしいと思うんです。アメリカには「リサイクル・ウッド」と「リクレイムド・ウッド」は違うというカテゴリがあるのに、日本はいまだに「廃材」「古材」。そこによってかかる手間やコストも全然違うのに、「古材」という言葉で一緒くたにされてお客様が分からなくなっている状態がある。岩西さんがアメリカ・ポートランドに行った際に訪問した古材屋・Salvage Worksのオフィス(写真提供/リクレイムドワークス) 岩西さんがアメリカ・ポートランドに行った際に訪問した古材屋・Salvage Worksのオフィス(写真提供/リクレイムドワークス)リクレイムドワークスでは、主にアメリカ西海岸から古木を輸入し、家具を制作している(写真提供/リクレイムドワークス)

リクレイムドワークスでは、主にアメリカ西海岸から古木を輸入し、家具を制作している(写真提供/リクレイムドワークス)

岩西:古材には歴史があって、それが木にインストールされているはずなのに、そこを蹴飛ばして全部「古材」と言ってしまっている。ただ、それはこちら側がちゃんとプレゼンしていないのがいけないんですよね。

山上:そうですね。山翠舎では古木を使った店舗づくりをしているんですけど、オーダーする人が「古木」か「古材」かにこだわっていることって少ないんですよね。古木は高価なものですし、予算の関係という現実もあるかもしれませんが、私たちの発信力も足りないという現実もあるんだと思います。

古木が生み出す、人のつながり

岩西:リクレイムドワークスのお客様はアメリカ好き、特に西海岸のテイストが好きな人が多いんです。その雰囲気を醸し出すには、現地の木が必要になってくるんです。古民家もそうだと思うんですけど、やはり木がもっているパワーってすごいんですよね。西海岸のスタイルを使いたかったら西海岸の木を使うのがいいし、日本のスタイルだったら日本の古木を使ったほうがいい。デザインだけでは醸し出すことができないんです。木の力によって雰囲気が大きく変わってくるんですよ。リクレイムドワークスの家具を愛用しているTさん宅。「古木を使用した家具は独特な落ち着きがあり、見る角度や光の当たり具合でさまざまに表情が変わりとても素敵だなと感じました。家具が来てから、家の中が暖かく落ち着いた雰囲気になり、心地よい空間になりました」(Tさん)(画像提供/リクレイムドワークス)

リクレイムドワークスの家具を愛用しているTさん宅。「古木を使用した家具は独特な落ち着きがあり、見る角度や光の当たり具合でさまざまに表情が変わりとても素敵だなと感じました。家具が来てから、家の中が暖かく落ち着いた雰囲気になり、心地よい空間になりました」(Tさん)(画像提供/リクレイムドワークス)

山上:古木のパワーを極力活かすために、私たちは施工時には鉄の釘は使わず、古民家の梁や柱が年月を経て変化した形をもそのまま活かして手作業で組み立てます。

私は、古い木が人を呼ぶものになってほしいと思っているんです。例えば、あるお店でスタッフが来店されたお客様に「机の木は近くの小学校の廊下で使われていたものを利用しているんですよ」と言ったとする。もしかしたら、お客様はその小学校出身の人かもしれないですよね。すると、お客様との距離が縮まるじゃないですか。そういうストーリー性のあるものが建材に内包されていると、人が集まる可能性があるというときめきがある。廃墟と化していたビルを古木を使ってリノベーションしたら、全室埋まるほどの反響を呼んだとか。写真は古木を贅沢に使用したレストラン(写真提供/山翠舎)

廃墟と化していたビルを古木を使ってリノベーションしたら、全室埋まるほどの反響を呼んだとか。写真は古木を贅沢に使用したレストラン(写真提供/山翠舎)

このようなケースもありました。

長野県で蕎麦屋「とみくら食堂」を経営していたおばあさまが、店舗でもあり、自身も住んでいた築89年の古民家に住む人がいなくなってしまったので、解体することにしたんです。ただ、先祖から引き継いできた大切な家なので、何とかしてもらえないかと相談を受けて。そこで弊社で熱海にある「竹林庵みずの」という旅館を引き合わせて、旅館側が解体費用込みでこの古民家の材を購入してくれて、移築したんです。移築後、息子さんがその旅館に行ったときに、柱に自分が子どものころの成長を刻んだ背比べの跡を見つけてすごく喜んでいて。経済的なうれしさだけではなく、精神的なうれしさもあるんだなあと、改めて感じた事例でした。これは空き家問題の新しい解決方法だと思うんです。

ただ単純にエイジングされていてかっこいいというだけではではなく、古木にはそのような意味合いがあるということをしっかりと伝えていきたいですね。 長野県飯山市の富倉集落に建っていた蕎麦屋「とみくら食堂」(写真提供/山翠舎) 長野県飯山市の富倉集落に建っていた蕎麦屋「とみくら食堂」(写真提供/山翠舎)「竹林庵みずの」館内(写真提供/山翠舎) 「竹林庵みずの」館内(写真提供/山翠舎)移築された蕎麦屋「とみくら食堂」で、幼き息子さんが背比べをした跡も旅館に残っている(写真提供/山翠舎)

移築された蕎麦屋「とみくら食堂」で、幼き息子さんが背比べをした跡も旅館に残っている(写真提供/山翠舎)

「古木」は、社会問題の解決の糸口になる

山上:現在、日本に空き家は約820万戸あるとされていて、その中で約21万戸が古民家。2033年までに2100万戸くらいまでに空き家が増えるという計算でいくと、古民家も54万戸くらいまで増えると言われています。私が古木を扱おうと思ったとき、使われていない古民家はたくさんあるので、単純に古民家で使われていない材をそのまま利用するのが一番いい気がしたんですよね。

木を伐採しないので環境にやさしいし、古民家をレスキューするという空き家問題の解決にもなる。次に事業者も利益が出る。そして、利用者も心地よく過ごすことができる。古木は、全方位的に社会問題や環境問題を解決する素材だと思うんです。山翠舎の倉庫内にある古木には、解体した家があった場所などのラベルがつけられている(写真提供/山翠舎)

山翠舎の倉庫内にある古木には、解体した家があった場所などのラベルがつけられている(写真提供/山翠舎)

岩西:アメリカでは、よくセレブリティが古木を使うんですよね。例えば、ミュージシャンのジャック・ジョンソンの事務所でダグラス・ファー(ベイマツ)の古木を使っています。エコな商材はアメリカでは「グリーンマテリアル」と呼ばれていて、環境問題に自分が加担しているというのがひとつのステータスになる。FacebookやPatagoniaなどの企業も古木を使っているのはそこには理念があるから。ある世界的なアメリカの企業では、使っている古木すべてに、古木メーカーの名前が入るんですよ。

山上:なんと……!

岩西:木は人間と同じ生命というところで伝わってくるものがあるんですよね。以前、ある企業のミーティングルームに木や人工素材などさまざまな素材の天板を使ったテーブルをたくさん納めたんです。そして1年ぶりに行ってみたら、自然に古木のテーブルに人が集まっていたんですよ。色などほかの要因もあるかもしれませんが、古木には人が惹きつけられるというひとつの説得材料になりますよね。

山上:日本でも古木をグリーンマテリアルにしたいですよね。ただ、いまの日本は、海外のセレブリティのように環境問題に関心があることをアピールするような状況にはない。ただ単に、世界観・空気感という外見的なものがいいという人にとっては、すべて古材は一緒なんですよね。 古木を使ったポートランドの飲食店(写真提供/リクレイムドワークス)

古木を使ったポートランドの飲食店(写真提供/リクレイムドワークス)

岩西:やはり見た目で使っている人が多い。その性質を使う側が分かっていればいいんですけどね。

山上:知らないんですよね。だから、いずれ認定資格のようなものをやろうとも考えています。こういう古い木を扱うためには勉強が必要だと思うんですよ。

岩西:僕も各所にマテリアルのアドバイザーは必要だと思っていて。床の雰囲気を出すためには針葉樹なのか広葉樹なのかとか、なかなか分からないですよね。そのなかでも特異な古木というアイテムにはアドバイザーが必要だと思います。そうでないと、活きた使い方ができない。耐久性の問題もありますし、一番よく見える使い方もありますしね。

山上:先ほどのグリーンマテリアルという考え方には、はやく日本も追いつかなければならないですね。木材をリードしてきた国としていいところはたくさんある。昔は普通だった使い方を今することで、生活がさらに豊かになるというか。自宅に居心地のいい空間があると自分たちがハッピーになりますし、お店で使われていればお客様もハッピーになる。かっこいいという表面的な部分だけではない使い方をしてもらえればいいなと思います。

※「古木/こぼく/koboku」は山翠舎の登録商標です●取材協力

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Salvage Works
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