収入の年齢曲線の国際比較(データえっせい)
今回は舞田敏彦さんのブログ『データえっせい』からご寄稿いただきました。
収入の年齢曲線の国際比較(データえっせい)
18日に,内閣府の『老後の生活設計と公的年金に関する世論調査』のデータが公表されました。「何歳まで仕事をしたいか」という問いに対し,4割近くが「66歳以上」と答えたそうです。
「何歳まで仕事したい?「66歳以上」37% 内閣府調査」『朝日新聞デジタル』
https://digital.asahi.com/articles/ASM1L54FDM1LULFA019.html
私は「ずっと」ですね。リタイアなんていう概念はありません。たまに送られてくる,「ねんきん特別便」に書いてある受給予定額をみると笑っちゃいます。年間の家賃にもなりません。自分で稼ぐほかありません。
よしんば,ある程度の年金をもらえるにしても,仕事は続けるでしょう。何もせずにいるのは耐えがたい。私の場合,趣味(好きなこと)と仕事が一致している度合いが高いので,苦にはなりません。人生100年の時代,高齢期を「引退期」として過ごすのは,経済的にも心理的にも不可能です。
しかるに,高齢期のステージになると稼げなくなるのですよね。有業者の所得の中央値(Median)を年齢層別に出し,線でつないだ年齢カーブにすると,下図のようになります。
男性をみると50代をピークに急落し,65歳を超えると200万円を割ります。言葉がよくないですが,ワーキングプアです。年金の足し程度の「ちょい勤務」が多いためですが,今後は変わってくるのでしょうね。私の世代(ロスジェネ)には,年金など碌にもらえないであろう人がわんさといます。
高齢者の稼ぎの少なさを可視化しようという意図でつくったグラフですが,ジェンダーの差にも驚かされます。生産年齢にかけて男性は右上がりですが,女性は右下がりです。20代後半以降,男女の折れ線が乖離してくることに,日本的ジェンダー(男は仕事,女は家庭)がはっきり表れています。
諸外国でも,こんなグラフになるのですかねえ。いや,なりますまい。収入の年齢カーブを国別に描くのは難しいと断念していたのですが,OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」*1 のデータから,それができることに気づきました。試作の結果をご覧いただきたいと思います。
*1:「Public data and analysis」『OECD』
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/
上記調査では,仕事をしている有業者に年収を尋ね,有業者全体の中での相対階層に割り振っています。以下の表は,日本の40~44歳男女のデータです。リモート集計でやりましたので,粗い整数値になっていることをお許しください。
「Program for International Student Assessment (PISA)」『National Center for Education Statistics』
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
男性は,33%(3人に1人)が上位90%以上ですが,女性は47%(半分近く)が下位10%未満となっています。同じ年齢層ですが,ものすごい違いですね。男性はバリバリ働くフルタイム就業者が大半であるのに対し,女性は家計補助のパート就業が多いためです。
上記の度数分布から,年収相対値の中央値を出してみましょう。右端の累積相対度数から,男性は「上位75%以上90%未満」,女性は「下位10%以上下位25%未満」の階層に含まれることが分かります。黄色マークです。
按分比例を使って,男女の中央値(累積相対度数50ジャスト)を割り出してみます。
男性:
按分比=(50-39)/(67-39)=0.393
中央値=75+(15×0.393)=80.9
女性:
按分比=(50-47)/(65-47)=0.167
中央値=10+(15×0.167)=12.5
男性は80.9,女性は12.5という数値になりました。フツーのアラフォー男性の稼ぎは上位20%,アラフォー女性の稼ぎは下位10%,という具合です。
同じやり方で,5歳刻みの年齢層ごとに,年収相対値の中央値を計算しました。これらをつなぎ合わせれば,年収の年齢カーブになります。同一のやり方で出したものなので,国際比較も可能です。
そのグラフをお見せしますが,多くの国を入れるとゴチャゴチャしますので,日本・アメリカ・スウェーデンの3国の曲線をご覧いただきましょう。
日本は,最初に示した国内統計のカーブとそっくりです。ジェンダー差が大きく,男性は60歳を過ぎるや急落します。性別・年齢による役割規範(拘束)が非常に強いことの表れです。
しかし他の2国は違っています。ジェンダー差は小さく,女性のカーブが日本のように右下がりになることはありません。収入の伸びが30代から頭打ちになるのも面白い。日本のような機械的な年功賃金とは一味違っています。「何であるか」よりも「何ができるか」,簡単にいえば実力主義なんでしょう。
これは今から7年前のデータですが,今後はこんなではやっていけません。労働力不足の時代にあって,女性・高齢者の就業が促されるところです。
賃金格差の是正も必要。上記のグラフの通り,日本は収入のジェンダー差が凄まじいのですが,「女性はパートが多いからだろ」と言われるかもしれません。しかし,労働時間を考慮した時間給でみても,ジェンダー差があるのです。
「舞田敏彦さんのツイート」『Twitter』
https://twitter.com/tmaita77/status/1084442509550317568
外国人労働者の受け入れ拡充が決まりましたが,上記のグラフをみると,できることは他にもありそうな気がします。働き手は,伝統的な意味合いでの生産年齢層の男性だけではありません。まずもってなすべきは,履歴書から性別・年齢の記入欄を無くすことだと思います。
執筆: この記事は舞田敏彦さんのブログ『データえっせい』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年2月1日時点のものです。
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