ロシア・プーチン政権の対外世論工作と欧州政策について ~対マケドニア、チェコ政策~(田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ)

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ロシア・プーチン政権の対外世論工作と欧州政策について ~対マケドニア、チェコ政策~

今回はWorldaffairs/中島さんのブログ『田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ』からご寄稿いただきました。

ロシア・プーチン政権の対外世論工作と欧州政策について② ~対マケドニア、チェコ政策~(田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ)

当記事を覗いていただき、ありがとうございます。

前回*1 に引き続き、プーチン政権の近年の対欧州政策を中心に書いていこうと思います。本日は、マケドニアと中欧諸国の政治で影響力拡大を狙うロシアの政策に焦点を当てたいと思います。

*1:「ロシア・プーチン政権の対外世論工作と欧州政策について(1)~EU離脱問題への介入~」『田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ』
https://worldaffairs.hateblo.jp/entry/2018/12/26/234347

マケドニア国民投票とロシアの暗躍

1.マケドニア呼称問題

バルカン半島の内陸国マケドニアでは、ザエフ政権がEUとNATOの加盟を目指しています。しかし、EU加盟国でもある隣国のギリシャが、同国が「マケドニア」を名乗っていることに強く反発しており、加盟を反対しています(マケドニア呼称問題)。

赤枠がマケドニア共和国

(赤枠がマケドニア共和国。ギリシャに隣接する: Googleマップより)

ギリシャ国内には同じ「マケドニア」という地域があり、古代に東方遠征を果たして広大な帝国を築き上げたマケドニア王国の文化や民族を正統に受け継ぐのは自分たちであると主張、現マケドニア共和国が同名を名乗ることに抗議しています。

ギリシャには、マケドニア共和国内でナショナリズムが高揚し、将来的にはギリシャ国内にあるマケドニア地方の領有権を主張し始めるのではないかという警戒心があります。

そこでザエフ政権はギリシャへの配慮と和解を求めるため、「北マケドニア共和国」への国名改称の是非を問う国民投票を18年9月に実施しました。

国名改称に関する政府間合意の調印式

(国名改称に関する政府間合意の調印式での融和ムード。左からザエフ首相、チプラス首相(ギ)。AFPより)

2.国民投票で世論工作を試みるロシア

この国民投票では、ロシアの関与が疑われました。まず、ロシアの息がかかったマケドニア国内の親露派政治団体が保守的な意見を大々的に表明し、投票へのボイコットを呼びかけました。

この他、EU加盟がもたらす弊害を語り、人々の恐怖心や闘争心を煽るようなフェイクニュースがfacebookなどで大量に発見されたとしています。

下は、medium.com というサイトで紹介された画像です。マケドニア国民投票をボイコットするよう呼びかける投稿が投票直前にfacebookやtwitterに大量に出現した、と書いてありました。当サイトではロシアの関与についての直接的な言及はありませんでしたが、こうしたSNS上の扇動があることは確かなようです。

ボイコットを呼びかける写真投稿

(国民投票へのボイコットを呼びかける写真投稿。メルケル独首相にナチスの軍服を着せ、反EU・NATOを煽っている)

マケドニアの国会議事堂に掲揚されているナチスとNATOの旗

(マケドニアの国会議事堂に掲揚されているナチスとNATOの旗。)

本件については対露強硬派のマティス米国防長官が、「ロシアが資金を提供し、広範なキャンペーンを展開しているのは、まず疑いがない」と主張しました。

3.ギリシャ側でも活動濃厚

一方のギリシャ側でも事件が発生しています。 ギリシャ政府は国民投票が行われた同じ年に、複数のロシア人外交官らを国外追放処分にしました。

国名改称に関する両国政府間合意に反対するグループをロシアが裏で支援していたことが原因で、ギリシャ側が報復措置に出たのです。

時代ごとにロシアはギリシャの内政に策動していたという歴史があります。歴史的に、地中海に進出したいロシアとそれを阻止したい英仏がオスマン帝国付近で攻防を繰り返す中で(いわゆる東方問題)、オスマンに領有されていたギリシャの独立を支援すべく、ロシアのスパイが暗躍していました。

今回の場合、マケドニアのEU・NATOの加盟阻止とギリシャ・マケドニア間を不仲にさせることによるEUの結束を乱すことがロシアの目的と読むことができそうです。

中欧諸国での影響力拡大

アメリカはよく、”普遍的な正義である民主主義”を世界に広げるため、敵の社会主義国にCIAを送り込み、内部でクーデターを起こして旧体制を打倒するという手法を使うことが知られています。こうした手口はロシアも利用しているといえるでしょう。

1.チェコ

チェコ共和国はEU加盟国ですが、同国のゼマン大統領は親中露派として知られ、対ロ制裁の解除を主張しています。

ミロシュ・ゼマン大統領とプーチン大統領の会合

(ミロシュ・ゼマン大統領とプーチン大統領の会合。2018年10月: obozrevatel.comより)

同国では2018年1月に大統領選が行われましたが、親露派のゼマン氏が再選するように裏でロシアが工作したという疑いが浮上しています。一方で、対立候補を誹謗中傷するような投稿が決選投票直前に急増しました。

2.オーストリアのスパイ疑惑

中立国(NATO非加盟)で知られるオーストリアは、2018年11月に同国の元陸軍大佐が数十年にわたりロシア側についてスパイ活動に関与していたと発表しました。ロシアは軍事機密や移民に関する情報などに興味を示したと同氏は証言しました。

3.シュレーダリゼーション

「OBSERVER」や日経新聞によると、欧州では各国の政治家らがロシアに取り込まれていく現象をシュレーダリゼーション(schroederization / Шредеризация)と呼んでいます。同地域ではこの現象は「汚職」として認識されているようです。

2017年ドイツのゲアハルト・シュレーダー前首相が、欧米からの経済制裁の対象になっているロシア国営石油会社ロスネフチの取締役に指名され、ドイツ国内に衝撃を与えた出来事がありました。

同氏は2006年以降にも、ロシア・ドイツ間の天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」関連で利益を上げていました。

ロシアには天然ガスを利用してドイツのロシア依存を高めるという長期的な戦略があり、シュレーダー氏の行為は国内で非難の嵐を巻き起こしました。

シュレーダー氏

(シュレーダー氏: 24КАНАЛより)

上述のチェコとオーストリアの政府役人らも実はロシアの諸大手企業の役員や顧問に就任しており、こうしたロシアによる取り込みは氷山の一角に過ぎないでしょう。

まとめ:ロシアの対欧州外交の手法

ロシアは近年、クリミア半島併合に端を発する欧米からの長期的な経済制裁が国内経済の疲弊の要因の一つになっていると言われています。経済不振に伴う財政悪化で、2018年に年金支給開始年齢の将来的な引き上げが発表され、プーチン政権の支持率低下に拍車が掛かりました

膠着した経済状態を打開する手掛かりとして、プーチン大統領が欧米の経済制裁をまずは何とか崩したいと考えるのは自然な発想でしょう。

同政権がEU諸国の結束力を弱体化させるため、加盟国一つひとつの懐に忍び込み、互いを不仲にさせるという外交手法が、様々な日々の断片的なロシア関連のニュースに垣間見えていると言っても過言ではないでしょう。

以上、ありがとうございました。

 
執筆: この記事はWorldaffairs/中島さんのブログ『田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年1月29日時点のものです。

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