“三人”の友情競作集『そしてぼくらは仲間になった』
実は『ズッコケ三人組』(那須正幹/ポプラ社)シリーズにはあまり親しんでこなかった世代である。いや、世代のせいにするのは違うかもしれない。シリーズ第1作『それいけズッコケ三人組』が刊行されたのは、1978年。自分は11〜12歳だったので、対象年齢の範囲内といえるだろう。とはいえ第1作が出た段階では(もちろんここまでの数の読者を獲得してはいなかっただろうし)、これほどの人気シリーズになるとは予想できなかったというのも事実ではないか。少なくとも私の周りの同学年の中では、かなりの本好きが新刊が出たことを知っていたか知らないか、という感じだった。自分自身を顧みれば、当時は『赤毛のアン』シリーズに夢中になっていた頃だったので、日本の児童文学にはいまひとつ目が向いていなかった。
しかし今回、ズッコケ三人組シリーズ40周年記念企画である本書を読んで、そして巻末の那須先生による解説を読んで、これまで『ズッコケ』を読んでこなかったことは大いなる損失だったのではないかという気がしてきたところである(そういえば、うちの次男なんかは何冊も読んでましたよ…)。40歳になった主人公たちの番外編(『ズッコケ中年三人組』シリーズ)が書かれるほど愛読されているシリーズなんて、そうそうないだろう。新進の作家5人が、そしてきっとそれ以上にたくさんの読者が、『ズッコケ』に魅了されている。そして、5人の作家はその思いを執筆という形で表現し、我々に披露してくれたのだ(みなさんが『ズッコケ』シリーズの中で好きな一冊をあげておられるのも微笑ましい)。いずれの作品も『ズッコケ』シリーズと直接の関係はなく、ポプラ社のサイトの紹介文によれば「子ども時代に「ズッコケ三人組」の洗礼を受けた作家たちが、「三人」をキーワードに現代ならではの友情を描く、読み切り競作集」とのこと。
本書を手に取ったのは、我が偏愛作家である小嶋陽太郎さんがこのアンソロジーに参加されていたからだった(同じくポプラ社から、『ぼくのとなりにきみ』『ぼくらはその日まで』という素晴らしき三人組小説も書かれている)。小嶋さんの作品である「夏のはぐれもの」は、本書のトップバッターとして据えられている。舞台は夏祭りの行われている神社。同じクラスの高崎君と内山君といっしょに来ていた5年生の牧太(まきふとし。あだ名は「ふとまき」)は、早々にふたりとはぐれてしまった。そこへ現れたのは、やはり同じクラスの葛城むすび。気が強いところがあり、お祭りにも他の女子たちと来たのだが思ったよりもおもしろくないからと抜けてきたらしい。男女ふたりでいたらからかわれるとふとまきは気をもむが、さらに登場したのがまたしてもクラスメイトの住吉君(むすびちゃんを「おむすび」と言っていつもからかう)。案の定住吉君は、「太巻き」と「おむすび」のお米同士でデートだ、などとはやし立てる。しかし、なんだかんだで三人でお祭りを回ることになり…。ある夏の日の痛快でほろ苦くもある物語。
他の作家のみなさんの作品もいずれも力作で、ひと口に「三人組」といってもこんなにヴァリエーションが生まれるものだなあと感心させられた。5作品のうち2作品でオンラインというゲームの世界が舞台になっていたことは「時代だなあ」と思ったけれど、そのうちの1編については三人組のうちのひとりは人間ですらない。図らずも、世の中の多様性について考えさせられることとなった。
こんな古くさい考え方でいたのでは、時代に乗り遅れてしまうかも。何よりも感銘を受けたのが、那須先生が若い作家たちが生み出した「三人組」たちを高く評価さていること。「若い作家さんたちの生み出した三人組が、今後どんな活躍を見せるか、楽しみにしています」とのエールには、執筆者の先生方のみならず、読者も胸を熱くされるのではないか(柔軟な感覚を持っておられて素晴らしいです)。5人の先生方、そして那須先生、これからもおもしろいお話をお待ちしてますね!
(松井ゆかり)
■関連記事
【今週はこれを読め! エンタメ編】図書委員2人の推理物語〜米澤穂信『本と鍵の季節』
【今週はこれを読め! エンタメ編】10歳の少年の家族や友達との日々〜朝倉かすみ『ぼくは朝日』
【今週はこれを読め! エンタメ編】いつかの私たちのことを描くアリス・マンロー『ピアノ・レッスン』
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。