宮沢賢治を愛する作家が行く、花巻・大沢温泉ぶらり旅。絶景露天が最高♪
カンパネッラァアァァァァァーーーーーーー!!!!!!!
はぁ、はぁ、興奮してすみません。
わたくし、大の宮沢賢治好きの小説家・小野美由紀です。
今回の舞台は岩手県の花巻市。宮沢賢治の生まれ故郷であり、同時に「花巻温泉郷」という、東北有数の温泉地がある場所でもあります。
気ままな女子旅だからこその、「好き」を極める旅へ!
1泊2日で、この花巻温泉郷とその周辺の宮沢賢治にゆかりあるスポットを満喫。賢治先生に「イーハトーブ」と呼ばれたそこは、物語の舞台になりそうな幻想的な光景が広がっていました。
【行程】
紅葉のまぶしい老舗旅館「大沢温泉 山水閣」
ここでしか食べられない! 絶品ドイツケーキ
宿泊者専用「山水の湯」へ
いよいよ夕餉。岩手の豪華な山海の幸を堪能
絶景露天朝風呂でゆったり
宮沢賢治の愛した風景を訪ね、花巻観光へ
賢治の詩碑には「映え」ない景色があった
ザ・耽美! ザ・賢治ワールド! 「林風舎」
JR東京駅から東北新幹線で約3時間、JR新花巻駅に到着。ここから、JR新花巻駅・JR花巻駅と温泉郷の各旅館を結ぶ、無料の花巻温泉郷送迎バスに30分ほどゆられて「大沢温泉」に到着します。バスは事前に要予約なので注意!
紅葉のまぶしい老舗旅館「大沢温泉 山水閣」
ついに! 着いたぞーーーーーっっっっっ!!!!!
大沢温泉に到着!
坂を降りると、3棟からなる大沢温泉の広大な敷地が見えてきます
大沢温泉は、「湯治部」「旅館部」と分かれていて、今回泊まるのは旅館部の「山水閣」。
旅館の周囲に広がる、みずみずしい紅葉に注目!
広々としたロビーのガラス窓からは、裏手に広がる渓谷と、たおやかな紅葉の森が眺められます
ここでしか食べられない! 絶品ドイツケーキ
ここでしか食べられない! 絶品ドイツケーキ
私は花巻に着いたら、かねてより絶対に行きたい場所がありました。
それはカフェ「バックシュトゥーベ」。日本では珍しい「ドイツケーキ」を手作りで製造・販売しているカフェで、ケーキのテイクアウトは予約なしでOKですが、カフェは完全予約制です。
くしくも「大沢温泉」より徒歩5分の場所。お散歩がてら行ってみることに。
のどかな田舎の風景が広がる中を歩いてゆくと、何やら一軒だけ、ヨーロッパ風の建物が……?
って近っ! 近すぎる!
出発したと思ったら、もう着いた!
本当に近い。近すぎる
ドアを開けて中に入ると、出迎えてくれたのはオーナー兼パティシエのポールさん。ドイツ出身で、もともとは陶芸家だそう。25年前に、奥様の明美さんの祖父の家がある花巻に移住し、このカフェを開いたのだとか。
「『バックシュトゥーべ』ってね、ドイツ語で『パン工房』って意味なんだよ。」ケーキを待っている間、ポールさんがお店の由来を解説してくれる。
「昔のドイツの農家の主婦はね、家の畑で採れるライ麦や小麦でパンを作ってたの。それからベーコンやソーセージなんかも、全部、家の煙突の煙で作ってたしね。全部、家の周りで取れる材料で作ってたんだよ。その時の手作りのケーキの味をね、うちは引き継いでるの」
ポールさんの生まれ故郷のドイツには、きっと自給自足でも豊かな食文化の歴史があるのだろう。
で、なんで「パン工房」って名前にしたの? と聞くと
「ん? 響きがかわいいでしょ!」と。
そ、そうか。
この日あったのは、栗のケーキ。
手作りなので毎日メニューが変わる。予約時にチェックを
「栗の渋皮をね、全部手で剥いて、ペーストにしてるのよ。すごく時間がかかるの」と奥様の明海さん。お2人とも元は陶芸家と画家。「無から有を生み出す」精神が、この素朴でかわいいケーキにも受け継がれている感じがする。
ひと口食べてみて……
ぅうんまぁあ!! (美味)
口に含んだ瞬間に、味わったことのない甘さが広がる。人工的じゃない、充実した、体全部の細胞にずっしり迫ってくるような甘さなのだ。体が拒否する感じがしないのは、余計なものを一切使っていないからこそなのか。すりつぶした栗の、ゴロゴロっとした舌触りと歯ごたえが、ひと噛みごとに濃厚な味を味蕾にすり込んでくる。
今まで知っていた「ケーキ」の概念を覆される感じなのだ。
素敵な2人。外国の童話の世界に入り込んだようなお店の内装も見どころ
お2人のシュトーレン(ドイツの菓子パン)やケーキは、全国から毎日のように注文がくるらしい。
着いて早々、こんなに美味しいものを食べられてラッキー!
宿泊者専用「山水の湯」へ
さっそく温泉へ! 大沢温泉が誇るのは、なんといっても浴場の多さ。市道が不通のため休業中の菊水館を除いて、6つものお風呂があり、そのうちの3つが露天風呂。美しい景色を眺めながらお湯に浸かれます。
(※菊水館の再開については未定)
向かったのは山水閣で一番大きな、山水閣の宿泊者専用のお風呂「山水の湯」。
ワクワクしながら扉を開けると……?
ひ、広い!
そしてガラス窓の向こうには一面の紅葉が!
山水の湯の露天風呂からも、美しい紅葉が眺められます(浴衣着用は許可を得て撮影しています)
いよいよ夕餉。岩手の豪華な山海の幸を堪能
お風呂に浸かって少しゆっくりしたところで、いよいよ夕食の時間に。
なんと22品も! これだけのメニューがあれば、夜中におなかすいた、なんてならずに済みそう
岩手の海の幸と山の幸、満遍なく網羅した完璧な「旅館のお夕食」でした。
大満足の中、1日目は終了。おやすみなさーい。
絶景露天朝風呂でゆったり
朝、起きて朝食を済ませ、チェックアウトまでにすることといえば「朝風呂」。
この日は、湯治部の方にある露天風呂に行くことにしました。
ふと、顔を上げた先に見える、秋旅行らしい風景に心が吸い寄せられる
細い木造りの廊下を渡って行った先には……
じゃーん! 渓流にせり出した、湯気立ち上る露天風呂「大沢の湯」が!美しすぎる眺めが、どーんと広がります! 春には桜が、冬には雪景色が楽しめます。どの季節に行っても趣深そうですね
こんな贅沢なパノラマビューが眺められる温泉、初めて。昔、湯治がポピュラーだった時代の名残で、今では貴重な混浴。お風呂が広々とし、柱で視界が区切られているので、あんまり抵抗感を感じませんでした。
(時期と時間によって女性専用になる時がありますので、ご確認を)
混浴はハードル高いかも、という人には、女性専用露天風呂「かわべの湯」が
宮沢賢治の愛した風景を訪ね、花巻観光へ
宿をチェックアウトし、花巻観光へ。宮沢賢治記念館のある新花巻エリアだけではなく、花巻駅周辺にも、賢治ゆかりのスポットが点在しているのです。
大沢温泉の前のバス停「大沢温泉」から路線バスに乗って、30分ほどかけて花巻駅へ。
5分ほど歩き、最初にたどり着いたのは……
大正12年創業の老舗そば屋「やぶ屋」。
「やぶ屋」は、農学校に勤務していた宮沢賢治が足しげく通ったことでも有名なお店です。
賢治はここを「ブッシュ」と呼び(英語で「やぶ(藪)=ブッシュ」の意味)、天ぷらそばと三ツ矢サイダーを頼むのが常だったとか。
では、早速それを注文してみましょう!
賢治が愛した天ぷらそばと三ツ矢サイダーのセットは名物になっている
素朴だけどこの組み合わせ、新鮮かも。
サイダーは瓶で出てきます。お店の方が、サイダーの栓を抜いてくださいました。
お味はというと、天ぷらはサクサクで美味しいし、そばは硬めの茹で上がりで細くてツルッツル。だしも美味しい!
歴史が長いだけじゃなく、クオリティが高いです!
来てよかった……!
賢治の詩碑には「映え」ない景色があった
やぶ屋でタクシーを呼んでもらって約10分、宮沢賢治の詩碑へ。
行き先を告げると、「お客さん、観光?」と言いながら、タクシーの運転手さんは賢治について話をしてくれた。
「県北の人たちはね、この辺り一帯を『おかぼ』って言ったんだよ。水のない、丘みたいな田んぼ。昔は土地が悪かったから、硬いモミのお米しか取れなかったの、あとそばの実ね。それをね、賢治さんが農民集めて、農学の授業やってさ、耕して、美味しいお米が取れる田んぼに変えたの」
そう、宮沢賢治は童話『銀河鉄道の夜』などで知られているが、実は農学校の先生だったのだ。
貧しい故郷の人々のために「羅須地人協会」を作り、農学の講義などを行った。
「大学出て、本当はエライ人なのに、農民のために、っつって優しくしてやってさ。みんなにも慕われて『石ころ賢ちゃん』て呼ばれてさ。37歳で死ぬまでに、こんなにいろいろやって、たいしたもんだ」
まるで知り合いかのように、自慢げに賢治の話をする運転手さん。
地元の人にとっては、賢治は作家というより、苦しい生活を送っていた農民たちを救った「先生」なのかもしれない。
詩碑入り口に到着。
なんと、運転手さんが案内してくれた!
詩碑。有名な「雨ニモマケズ」が高村光太郎の筆跡で彫られている
「ここはさ、とうの昔に堤防になっちゃったけど、もともとは賢治先生の畑だったんだよ。羅須地人協会の建物もね、今は移築されちゃったけど、本当はここにあったの。9月21日の賢治さんの命日にはね、賢治さん好きな人が集まってきて、みんなで歌ったり踊ったりしてるの」
「今もですか?」
「そう、今も」
賢治の畑があった場所。遠くには「五輪峠」が見える
「お姉さん、宮沢賢治好きなら、『星めぐりの歌』って知ってるでしょ? あれを、みんなで歌うんだよ、空眺めながらさ。9月っていったら、さそり座の星が一番あかあかと見える頃だろ」
そう言って、運転手さんは星めぐりの歌を歌ってくれた。
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
じわぁ、と涙が出た。
空はすみれ色で、良い匂いがしそうな、ちれぢれの雲がかすんでいる。
その下には薄ひらべったい山、その手前には青い田んぼ。
なんの変哲もない風景。全然「映え」ない。今これを読んでいる人たちも、この写真を見て「ピン」とこないと思う。
けど、なぜか心に迫ってくる。
賢治の作品の良さは「なんの変哲もない」ところだ。
ぜんぜん華やかじゃないし、取りたてて騒ぎ立てるようなところは何もない。
だけど、「変哲がない」ってことは、価値が変わらないってことだ。
時代が変わっても、どんな人の心にも、変わらずに届くってことだ。
賢治のそんな作品たちは、このなんの変哲もない風景の中で生まれたんだ……。
偶然の出会いのおかげで、予期せぬ風景が見られた。運転手さんに別れを告げて、最後の目的地へ。
ザ・耽美! ザ・賢治ワールド! 「林風舎」
最後は、花巻駅から徒歩3分のところにあるカフェ「林風舎」へ。賢治のご子息がやっているカフェで、賢治ファンなら一度は足を運びたい「賢治の世界観が大爆発」という感じのロマンティックなカフェである。
ヨーロッパ風の建物が突如現れる。風見鶏がかわいい中に入ると……
あああっ〜〜〜!!!
ザ・耽美(たんび)! ザ・賢治ワールドおおおお!
店内のいたるところに賢治イズムを感じる装飾がなされていて、まさに物語の世界に入り込んだよう。
名物の「イギリス海岸風バウムクーヘン」
ここで賢治の本を読めるなんて最高だ。
帰路は、花巻駅から新花巻駅までJR釜石線で約10分、新花巻駅から東北新幹線で約3時間、東京駅へ。
温泉あり、カフェあり、知られざる賢治の素顔ありの、1泊2日の中にさまざまな体験が凝縮された、花巻温泉郷旅行だった。
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