迷わず決断するより、下した決断と向き合う方が圧倒的に難しいワケーーマンガ「エンゼルバンク」に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』の第29回目です。
『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「人は決めてから悩むものだ」
(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第4巻 キャリア31より)
龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。
井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。
どれだけ決断しても、「悩み」は尽きない
イケメンなのに、常識が欠けている転職希望者・高島。担当の井野は熱心に高島を指導し、無事に内定が決まります。喜んだ井野は上司・海老沢に報告。しかし海老沢は「このままスンナリいくといいが」と浮かぬ顔です。
そのころ、高島は今いる会社で退職届を提出しますが、慰留されます。さらに上司から「新規プロジェクトに君を加える」と言われ、すっかり転職するのが面倒になってしまいます。1カ月後、高島は一方的に「転職を半年後に延ばしたい」と転職先に連絡。高島のいい加減な態度に、転職先も営業を通じてクレームを入れてきました。
井野が海老沢に状況を報告すると、海老沢は「高島は上司に引き止められて、転職する意志をなくしてしまったのだろう。転職者の心の変化は、実際に転職代理人として経験してみないとわからない。だからあえて言わなかった」のだと話します。「もともと、人は決めてから悩む生き物。だからわれわれは、内定が出た時点で転職者の悩みが深くならないよう、細かくフォローすることが大切だ」と諭すのでした。
デキる営業員は顧客の「心の動き」を読んで、先手を打つ
今回、選んだ本日の一言は、特に自社商品の営業や投資をしている人にとっては、特に重要なポイントになります。人は多くの場合、「どれを買うか決めて購入すれば、後は安心できる」と考えています。けれど実際は買った瞬間から、今度は「自分の選択は本当に正しかったのだろうか?」「良い選択肢があったのではないか?」と悩み始めるのです。
ですからデキる営業員は、あらかじめそれに対する施策を打っています。通常、顧客のサービスに対する満足度は、購入後2週間で徐々に下がっていきますから、それを上げるためのアクションを起こします。例えば、サンキューレターやサンキューコールなどを通じて、「あなたは良い買い物をしましたね」と顧客を安心させることです。
このように、アフターフォローは「単なるサービスの一環」というだけでなく、その後の返品率や顧客の定着率をも大きく左右しているのです。
人は「失うこと」を極度に恐れている
もともと、消費者にとって買い物とは「自分の願望を満たすための行為」です。例えば、欲しい洋服を着た自分を想像したり、美味しいものを食べて家族が喜んでいる姿を想像しながら購入しているわけです。
顧客が購入する前の悩みとは、主に「商品Aを買おうか?それとも商品Bにしようか?」という「A or B」の悩みです。ところが、購入後は「お金を出した」という痛みが伴っているために、「同じお金を出すのでも、ほかにもっと良い使い道があったかもしれない」と思い始めます。ですから営業員は、購入者が痛みを伴ったあとの、心のケアをする必要があるのです。その決断が大きいものになればなるほど、ケアが必要になると言えるでしょう。
人は、失うことに対して抵抗感があります。
今回の話のように、転職を切り出し、上司から「君には期待していたのに」などと言われたら、誰でも決心が揺らぐのではないでしょうか。せっかく上司に期待をかけてもらっていたのに、転職によってそれを失ってしまうと考えてしまうからです。
©三田紀房/コルク
大切なのは、軌道修正をしながら行動し続けること
人が「マリッジブルー」や「マタニティブルー」などになるのも、これで説明がつくでしょう。本来であれば、喜ぶべき決断をしているはずなのに、「もっと良い人がいたのではないか」とか「自分の自由がなくなった」と考えてしまうのは、痛みに目を向けているからです。人は選ぶ際、ビフォーで悩むだけではなくて、アフターでも悩んでいる、ということです。
こうした人間の習性に、どう対処すればいいのかと言うと、選んだものを受け入れて、「どうしたらこの選択を120%意味のあるものにできるだろうか?」と自問することでしょう。例えばA商品を10万円で購入したのであれば、「A商品で、どうやって10万円以上の元を取るか?」とか「使えば使うほどおトクになるから、どうやって使う頻度を増やすか?」といったことを考えることではないでしょうか。
例え行動が衝動的なものであったとしても、それを後悔しても始まりません。それよりは「ここからどうやって(自分自身がとった選択を)より良い未来にして行くか?」と考えることが大事なのです。
俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』および『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は42万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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