坂口拓インタビュー 77分1カットの死闘『狂武蔵』を完成させる理由と黒澤明を超える“侍映画”の未来
坂口拓と下村勇二を動かした“再会”
▲太田誉志プロデューサー
――太田プロデューサーの参加で、『狂武蔵』が再始動するわけですね。どういうきっかけでこの企画に加わることになったのでしょう?
太田誉志プロデューサー(以下、太田P):ぼくはもともと、下村勇二と倉田アクションクラブ時代の同期だったんです。拓ちゃんとは、当時は直接の関係性はありませんでした。
――スタントマンを目指していらっしゃったんですか?
太田P:15歳くらいのころですよ。スタントマンになりたかったというか、勇ちゃんと同じくジャッキー・チェンに憧れて、興味を持ったというレベルです。ぼくは、当時カッコいいと思える先輩に出会えなかったし、坂口拓のような破天荒な男もどこにもいなかった。だから、勇ちゃんに「この業界、カッコよくねえわ」と言って、東京に行きました。勇ちゃんはその後に香港に渡って、二人の運命は別れたわけです。
――現在は、不動産業を営まれているんですよね。
太田P:都内や神奈川に不動産を持っています。家賃収入があると時間が出来るので、それを利用して色んな所に行って、色んなものを観たいと思ったんです。で、「豊かじゃない」と思われがちなアフリカに行ったんですが、そこには何もない。何もないんだけど、アフリカの人たちはみんな笑顔だったんですね。ところが、日本に帰ってきたらみんな窮屈そうに生きているわけです。そのタイミングで再会したのが下村勇二だった。アフリカの旅から帰ってきて、Facebookで勇ちゃんとつながりました。後日顔を合わせて、「今何やってるの?」と聞いたら、(坂口主演の)『RE:BORN』を撮っている、と。勇ちゃんには「今の日本て、夢がないんだよ。だから俺は劇場を作るわ」という話をしました。
――具体的には、どういう話を?
太田P:門前仲町に4億円のビルを建てる話です。今は小劇場も、映画館も少なくなってきているし、芸術が衰退していくばっかり。だから、ビルの1階は小劇場にして、2・3階を簡易宿泊所にして、3階はシェアハウスにする。夢がないから、夢を見ることが出来る場所を作るんだ、と。そのときに勇ちゃんに「実は5年前から眠っている作品があるんだよ。坂口拓の監督・主演作で」と教えてもらったのが、『狂武蔵』の存在だったんです。
――なるほど。
太田P:ぼくはアフリカから帰ってきたばかりで、夢に対して敏感になっていた。『狂武蔵』の話を聞いて、ぼくはこういったんです。「坂口拓は命を賭けたのに、何も報われてないよね」と。役者さんだけじゃなくて、サラリーマンだって毎日通勤して、命を削りながら働いている。それは当然なんだけど、作ったものが世に出なければ、無駄死にですよ。どうせ死ぬんだったら、表に出して面白いか面白くないか見てもらおうよ、と。だから勇ちゃんに、「俺が(『狂武蔵』の)権利を買う。表に出そうよ」と言いました。勇ちゃんはある意味でしがらみの中にいたので、「いっちゃおうよ!」と背中を押したかった。ぼくは、この業界にしがみつきたいとも思わないし、そもそも興味がない。興味があるのは、坂口拓が命を賭けた想いと、下村勇二の背中を押すことだけです。
▲狂武蔵』より
――坂口さんとは、どこで初めて対面されたのですか?
太田P:(坂口の所属事務所ワーサルの)ワークショップで初めて会いました。ぼくはずーっと坂口拓のことを考えていたので、「やっと今日会えるんだ」と興奮していました。でも、ワークショップに行ったら、(坂口は)お酒が入っていて、「何? 勇ちゃんと親友? 俺にお金出せるの? 最低でも1本(1000万円)だからね」と言うわけです。「何だ、コイツ!」と思いましたよ。
文字――(笑)
太田P:『狂武蔵』に命を賭けた男だから、「この人の想いを買った!」と思っていたのに、会ったときの第一印象は超最悪でしたよ。ハッキリ言って、挑発されてましたからね。「下村勇二と親友なの? 俺は戦友だから」って(笑)。
――坂口さんは、初対面を覚えてますか?
坂口:そのくだりは全然覚えてないですね。
――(笑)
坂口:でも、太田Pへの感謝の気持ちは強いですよ。業界の人間じゃなくて、しがらみがないから権利を買い取れたということもありますし。『狂武蔵』の生みの親のぼく、育ての親の勇ちゃん、それを送り出す太田P。これでまた出来るんだという嬉しさはあります。
――なぜ『狂武蔵』の復活に、クラウドファンディングという方法を選んだのですか?
太田P:ぼくが下村勇二に300万円を渡せば、「ありがとう」と感謝されると思います。それに付随して、拓ちゃんが「ありがとう。でも、最低1本(1000万円)って言ったよね」と言って、終わりですよね。直接モノを渡して「ありがとう」と言われても、何のドラマも生まれないし、面白くない。だから、クラウドファンディングという網を色んな人に投げかけて、「太田P頑張れ」とか、「『狂武蔵』の復活が嬉しい」と、ワクワクしてもらおうと思いました。そうすれば、製作の前から認知度が高まる。いわば広告として始めようと思ったんです。同じお金を使うのであれば、一人でも坂口拓を知らない人が「カッコいい」「面白い」と言ってくれるようになったほうがいい。ぼくの母は坂口拓を知らなかったんですが、今は「あの人、カッコいいわ」と言ってくれています。やっぱり、クラウドファンディングをやってよかったと思います。
――坂口さんが、PR的要素のあるクラウドファンディングに協力されているのは、意外です。「わかる人にだけわかってもらえればいい」というスタンスの方だと思っていました。
坂口:それは、もう一つ先の未来を見据えているからですね。自分の中ではウェイブを使った“刀の進化論”みたいなものが出来上がっていて。例えば、今までは黒澤映画に出ているような先人たちを超える俳優って、出てこなかったわけじゃないですか。こういうことを言うと失礼かもしれないですけど、昔の俳優さんのほうが上手かったですし、殺意もあった。でも、ぼくが今続けていることをやっていくと、その先人たちのさらに上にいくことが出来るんです。これで、日本で作れるものが変わる。もちろん、「わかる人にだけわかってもらえればいい」ということに変わりはないから、大手の作品の中で制限されてやるんじゃなくて、自分たちの好きなようにやりたい。で、「それを誰とやるんだ?」ということです。
――なるほど。
RE:BORN (New & Exclusive) UK Trailer(YouTube)
https://youtu.be/uxM6vsMNwXs
坂口:太田Pと一緒になら、新しいものが出来るんじゃないか、と。(海外の映画祭にも出品した)『RE:BORN』はコアな作品ですけど、“侍”は世界中の誰もが知っています。太田Pは不動産でお金を稼いで、道楽でアフリカや色んな国を旅行して、世界を見てきた人。今必要なのは、そういう視点を持っていて、場を与えてくれる人なんです。ぼくや勇ちゃんは、まず金儲けが出来ない。勇ちゃんはアクションを撮る職人だし、ぼくはただの暴れるのが好きな、進化したくてウズウズしている人間なんで、どうにもならないんです。そこに、「作っていいんだぜ」と場所を与えてくれるプロデューサーが現れた。しかも、業界じゃなくて、全く真逆のところから現れたのが嬉しくて。今回のクラウドファンディングも、何も好き好んで協力して、喜んでるわけじゃないんですよ。太田Pに乗っかって、未来を考えているからやれる。一緒にやりたいし、作ってもらいたい。その気持ちが嬉しいからやってるんです。
――信頼していらっしゃるんですね。
坂口:正直、最初は大して好きじゃなかったですけどね(笑)。テキサスの映画祭に一緒に行ってから、好きになったので。それまでは金を出すだけの、ただの“財布”でしょ。
――もう少し褒めるかと思っていました(笑)。
太田P:関係性はそんなに長くもないんで(笑)。
坂口:本当に太田Pに感謝するのは、『狂武蔵』が世に出て、次の侍映画が映画館でかかったときに、観客が「なんちゅうもんを作ったんだ!」と驚いているのを見てからですよ。その時に、一緒に海外のバーでビールを飲みながら、「太田P、ありがとうね」って言えるんじゃないですか。
太田P:ぼくもそう思っています。まだ、何も達成できていないですから。
「黒澤映画を超える」坂口拓と“侍映画”の未来
▲坂口拓(総監督)最新作の撮影現場より
――すでに目標金額の300万円を達成しました。この結果については、どう思われますか?
太田P:『狂武蔵』は、もともとお蔵入りしていた作品だったので、マイナスからのスタートじゃないですか。お金が集まる集まらないに関わらず、ぼくはお金を出して完成させるつもりでした。つまり、世に出すという意味では、マイナスにはなりようがないんです。だから居直って、坂口拓が命を賭けたように、こっちも挑戦させてもらおう、と。どこまで伸びるかはぼくのやり方だとは思いますけど、伸びしろしかないわけです。ただ、一つだけ怖かったのが、この二人(坂口、下村)の名前を出してコケて、やけどさせてしまうことです。ぼくは何の知名度もなくて、何を求められているわけでもないし、捨て身だからバッシングされてもいいんですけど。そのプレッシャーがあって、夜も眠れなかったです。ただ、今のところ体裁は整っているので、「よしよし」という感じですね。
――クラウドファンディング終了までの展開を教えてください。
太田P:お客さんに喜んでもらえるようなことをするだけですね。お客さんが欲しいと思う品々を揃えて、かき集める様子も動画で公開していく。ぼくは、行列に並ぶのが嫌いなんです。いま、お客さん(パトロン)は、(映画が完成するまで)行列に並んでいるのと同じ状況じゃないですか。並んでる間って、つまんないんですよ。だから、その間に退屈しないように面白いことをしかけていくのも、目的なんです。
――リターン用の商品を、坂口さんから引き出す動画を公開されていますね。太田さんが毎回イジられるのが、印象的です。
太田P:基本的に(坂口は)“戦劇者”として、作品の中で戦っています。ファンの方にとっては、アサシンのようなイメージがありますし、映画を観ればわかる。ぼくが見せたいのは、カメラが回っていないところで彼が見せる、温和で、優しくて、ちょっといたずら好きのチャーミングな面白さなんです。それを引き出すには、ぼくをイジってるところを見せるのがいいんじゃないかと思ったので。プロデューサーをイジったり、お金を踏んだくる人なんて、そうはいないでしょう。そういうところを嫌味なく引き出せたらたらな、と。ファンの方が坂口拓を好きになってくれるのであれば、なんぼでもイジってくれ! と思っています。
――予算が増えれば増えるほど、作品はよりいいものになるのでしょうか?
太田P:もちろん、いいものにはなります。ただ、クラウドファンディングで集めている資金は、あくまで下村勇二がイメージどおりに作品を仕上げるため経費です。「これだけ使いました」という内訳も公表していきたいですね。その過程で予算が超過して、「お前ら、使い過ぎじゃん!」となるかも知れないですし(笑)。そういうものも動画でお伝えしていくことで、お客さんも一緒に作っている気持ちになってもらえると思っています。
▲『狂武蔵』より
――『狂武蔵』をどんな風に完成させたいと考えていらっしゃるんでしょう?
坂口: 77分1カットはそのまま変わらないんですけど、育ての親の勇ちゃんが、少し撮り足して、音楽とか効果音、それとCG関係を作りこんでいく。クラウドファンディングで集まった資金でどう料理するかです。今の『狂武蔵』は、いわば単なる映像じゃないですか。ドキュメンタリーとしての面白さをもっと味付けして、映画的に、エンターテインメントに振っていきます。
――追加撮影も予定されているそうですが。
太田P:坂口拓を知っている人にとっては、今のままの『狂武蔵』でもいいのかも知れないです。でも、ぼくは……これは勇ちゃんの構想とも繋がっているんですけど、坂口拓と“宮本武蔵の生まれ変わり”のイメージが結び付くようにしたい。例えば、アメリカでは宮本武蔵の知名度が高くて、五輪の書をバイブルとして持っている武道家もいました。だから、「“坂口拓が宮本武蔵の化身”と印象づけるための、武蔵を紐解くようなシーンが最初にいるんじゃないの?」と、勇ちゃんに話しました。そしたら、勇ちゃんも「実は、こういうイメージがある」と構想を教えてくれて。このくだりがないと、海外では「すげえじゃん、坂口拓」となるだけなんですよね。それを、「すげえじゃん、宮本武蔵」にするための追撮です。せっかく、吉岡一門との戦いをモチーフにしているわけですし。
――坂口さんは、追撮シーンの構成についてどう思われているんですか?
坂口:全然、何も思ってないです。もう、「好きにしたらいいじゃん」って。
――(笑)。
坂口:『RE:BORN』の関係があって、勇ちゃんには絶大な信頼を置いてるので。ぼくは別に、『狂武蔵』という映画自体はそんなに好きじゃないんですよ。今も観れないし、観たら気持ち悪くなっちゃう。だから、ぼくには育てられない。育児放棄人間ですよ。
――複雑ですね。完成すれば、観られそうですか?
坂口:エンターテインメントになったら観ますよ。けど、エンターテインメントじゃない間は、観たくないです。興味はあるけど、育てたくない。少しは好きだけど、「嫌い」のほうが勝る、って感じです。
――完成後の計画も教えてください。
太田P:正規のルート、正規のやり方で上映すること自体は簡単なんです。ただ、映画関係者に聞くと、「3日間か、よくて1週間(のイベント上映)だね」という返事が返ってきました。でも、こういうクラウドファンディングの実績を持って、「製作前からこれだけ人気があって、これだけ盛り上がってるんだよ」とアピールしていけば、「もっと長く、より大きな劇場で上映を」となるかもしれない。
――なるほど。
太田P:映画祭は秋口に多いんですが、もし(編集を担当する)勇ちゃんの仕事が忙しかったら、年内の出品に完成が間に合わないかもしれない。映画祭には、興行を行っていない作品を出すという暗黙のルールがあるんです。だったら、それまではドーム型のプラネタリウムとか、移動式映画館で全国を行脚しよう、と。そうすれば、次の年の映画祭に出すまでの時間を無駄にせずにすむわけです。「これだけ支援金を集めて、製作前から話題になりました」「移動式シアターとか、変わった上映で注目されました」と、付加価値を作っておけば、正規のルートで上映するときに有利になる。そこから、3日と言わず1週間、東京だけでなく地方でも興行を、と広げていきたいです。みんなは時間がないんだけど、ぼくには時間があるので、それが出来る。
▲坂口拓(総監督)最新作の撮影現場より
――長いスパンで考えてらっしゃるんですね。
太田P:次の“侍映画”を発信するためのネタとしても考えています。侍映画を作っている間も、ぼくが移動式シアターで発信して、表に立って拓ちゃん自体のPR活動をしていくつもりです。そうすれば、侍映画の上映までには、拓ちゃんの認知度も上がっているだろう、と。『狂武蔵』を完成させるのも、ぼくが移動式シアターで全国を回るのも、汗と覚悟の“名刺”がわりなんです。そうやって知ってもらえば、侍映画を上映するときに併映してもらうことも出来るわけじゃないですか。『狂武蔵』と侍映画で完結する、という2、3年のスパンで考えています。言い換えるなら、『狂武蔵』は史上初めての77分1カットのCMでもあるんです。
――坂口さんが現在関わっているそのほかのプロジェクトについても聞かせてください。『RE:BORN』のシリーズ作として、『RE:BORN ZERO(仮)』の構想があると聞いています。
坂口:それは、侍映画が終わったらやろうと思っています。『RE:BORN』のみなさんとやるしかないですね。だから、もうそろそろ休みたいんです。侍映画のために3ヶ月くらいは修行したいと思っているので。
――現在製作中のくノ一が主人公の映画は、どんな作品なんでしょう?
坂口:忍者モノを撮ってくれと言われて、ぼくは総監督とアクション監督、出演もしています。総監監督が坂口拓、出演しているのがTAK∴、アクション監督が匠馬敏郎なので、初めて“3人”がそろった作品です。ぼく自身がアクションをガッツリやっているわけじゃないですけど、めちゃくちゃ面白いですよ。くノ一ならではの、卑怯な、真っ向からじゃない戦い方をしていますから。ぼくはいつも、「忍者は卑怯じゃなきゃダメだ」と言っています。侍と忍者の違いって、海外の人は誰も知らないですから。ぼくは俳優をやめて、今の本職は忍者なんで。
――本日見せていただいたシーン(※編註:本インタビューは坂口の最新作撮影日に収録)では、ウェイブ(編註:ゼロレンジコンバットの基本/肩甲骨を中心とした身体操作)を使った刀のアクションを披露していらっしゃいました。
坂口:あのシーンは、侍映画と同じトリプルクラウン(※編註:坂口、下村氏、稲川氏のこと)で撮影しています。久しぶりに刀を持ったら、「皆殺しにしてやろうかな」という気持ちになれたので、リハビリは終了ですね。楽しみにしていてください。人に愛されれば人気者になれる。神に愛されたおれが、何を残すのか。
▲坂口拓(総監督)最新作の撮影現場より 左から、下村勇二氏、稲川義貴氏、坂口拓(TAK∴)
『狂武蔵』クラウドファンディングは、2018年10月30日までcampfireにて実施中。
インタビュー・文=藤本洋輔
映画『狂武蔵』
主演・監督:坂口拓(TAK∴)
撮影:長野泰隆
共同監督・下村勇二
プロデューサー・太田誉志
クラウドファンディング公式サイト(campfire):https://camp-fire.jp/projects/view/59358
映画公式サイト:http://udenflameworks.com/kuruimusashi/
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(執筆者: fujimonpro) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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