「『TIGER&BUNNY』で楽しみ方がわかった」桂正和がキャラクターを描く中で変わったこと 劇場アニメ『薄墨桜 -GARO-』インタビュー
原作を雨宮 慶太氏が手がけ、特撮ドラマ、アニメーションと展開を続ける『牙狼〈GARO〉』シリーズ。その新作として、キャラクターデザイン:桂正和さん、脚本:小林靖子さんといった実力派クリエイター陣が放つ、劇場アニメ『薄墨桜 -GARO-』が10月6日より公開となりました。
今作では、『牙狼〈GARO〉』シリーズの中でも同じく和の世界観となるTVアニメ『牙狼 -紅蓮ノ月-』のキャラクターが登場し、平安の都を舞台とした哀しくも美しい復讐劇が描かれます。
今回は、『牙狼 -紅蓮ノ月-』から引き続きメインキャラクターデザインを担当した桂正和先生にインタビュー。桂先生は、今作で登場する陰陽師・明羅(アキラ)と、謎の男・時丸(トキマル)を新たに描き起こしています。
本作を含め、『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』、『あかねさす少女』など、2018年秋は桂先生のキャラデザ作品が盛りだくさん! 桂先生のキャラクターデザインにおける心境の変化などお話を伺ってきました。
桂正和が敵キャラクターを描く上での最近の傾向とは?
――まず、『牙狼〈GARO〉』シリーズに携わった経緯を教えてください。
桂:雨宮さんは専門学校の先輩で、僕も実写の『牙狼〈GARO〉』が好きで応援していました。アニメ版が始まると、そこになぜか僕が声優で呼ばれて(笑)。何の声優経験もないのに、その回は30分フルで出ている変な役をやったんですけど、そのときに、アニメの第2弾を考えていると聞いて、舞台設定は平安時代だと言うので面白そうだなと思い「ぜひ俺にやらせてくださいよ」と言ったのがきっかけです。
――その流れで今回の劇場版でも新キャラクターを描き起こしていますが、デザインする上で意識した部分を教えてください。
桂:明羅は陰陽師、時丸は盗賊みたいなキャラというのは決まっていました。キャラクターデザインの仕事って大体が、脚本がガッチリ決まる前にまずやらされる仕事なんですよ(笑)。だから、すごくふわっとしてるな、というところから始めなければならないのが毎回大変なんですけど、明羅に関しては名前も決まっていなくて。
桂:ラフを描いていく上で、同じく陰陽師として登場している星明とは逆にしようというイメージはありました。そして、脚本が出来てきてそれをふまえた上で、敵方だけど透明感のある白っぽいキレイな人にしようと思いました。静かな目をしていながらも、どこかに復讐心があるような点を意識しました。普通の平安時代の陰陽師服っぽくしようかなと描いていったところに、普通じゃつまらないから、と最終的な模様を付け足していった感じです。表情は、最初は少しタレ目で優しそうな顔に描いてみたんですけど、やっぱり定番のちょっと怪しげな目にした方がいいな、と目尻を上げてみたり調整していきました。
――時丸はいかがでしょうか?
桂:時丸も盗賊なので、少し汚らしい格好をしているんだろうと考えました。でも当時の盗賊がどういう格好をしていたかはきちんとわからないので、最初から長髪の白っぽい髪の毛にしたいなと考えてはいて。なぜかというと、歌舞伎の獅子のような感じにしたかったんです。平安牙狼に関しては、僕はすべてのキャラの顔つきをどこか歌舞伎っぽく見せたいなと意識しています。
桂:雷吼もアニメではそこまで出ていないですけど、僕の絵だと、眉毛の形や口元の感じが浮世絵や歌舞伎の化粧など、和らしさを出すために意識して描いています。
――新たなキャラクターという点で意識した部分はありますか?
桂:僕が先にキャラクターの絵を描くんですけど、会議の中でいろいろ設定も変わってくるし、話も変わってくる。そうするとコラボレーションが起こるんですよ。偶然にもブルーベースで2人を描いているんですけど、2人とも白い髪色で。
――敵だからとダークな色合いにするわけではなく、白くされたんですね。
桂:僕は最近そうしたい派なんです。
――敵をダークにしない傾向にあると。
桂:時と場合によりますけど、当たり前になりすぎてしまうので。別の作品の話になりますが、新しい敵の3人が出てきて、最初に描き起こした時は全員白い衣装だったんですよね。そうしたら、やっぱりセオリー通り黒くしてほしいとプロデューサーから言われて。仕方なく黒くしました。『牙狼 -紅蓮ノ月-』では星明を安倍晴明のイメージからできるだけ違う感じにしたかったのと、しかも魔界の人だったので、黒い平安の衣装ってあまり見たことないなと思い、黒くしたんです。なので、逆に明羅は白っぽくキレイにしたいなと思いました。
――時丸の顔の傷は?
桂:盗賊をやっている奴はもう傷だらけだろうし、そういうギリギリのところで生きている人なんだろうなと傷をつけました。キャラの立ち方として傷を付けたら面白いかなと思ったのはあります。アニメでは顔の片側だけですけど、ポスターではたぶん細かな傷もあるだろうと思って反対側にも描きました。平安時代の『牙狼〈GARO〉』の仕事はこうしたイマジネーションが湧くので、やっていてとても楽しいですね。
――今回の作品を大変気に入られているようですが、『牙狼〈GARO〉』シリーズの中では和を前面に押し出した作品は珍しい立ち位置ですよね。
桂:そうですね。でも、雨宮さんて和が好きな人だから、むしろ『牙狼〈GARO〉』がちょっと珍しいのかなと……。いや、そんなことないか(笑)。僕の中では『未来忍者 慶雲機忍外伝』のイメージが強いので、雨宮さんの作り出す世界観と、寺田克也さんのデザインのあの感じ。あの和とSFが融合したインパクトはすごく僕に影響を与えているので、雨宮さんの仕事はやりたいなとずっと思っていたんです。しかもこの作品は、平安であったり、京都という僕の大好きな要素だったので、自分からすごくやりたいなと思った仕事でした。
――『牙狼〈GARO〉』の中でも和というところが桂先生の中で、よりマッチしたと。
桂:マッチしましたね。もう平安ものは別の人に渡したくないですね(笑)。
――改めて今回の劇場版を観ていかがですか?
桂:今回、やっと平安牙狼を観られたなと思ったんですよね。竹林で出会うところがとても印象深くて、この作品はああいった静かなシーンがとてもいいなぁと感じます。平安の空気感がとてもよく出ていて、やっと僕の観たい平安牙狼が観られたなという印象があります。とてもキレイな作品になっていて僕は好きですね。でも、時丸の活躍はもうちょっと観たかったな(笑)。
『TIGER&BUNNY』でキャラデザの楽しみ方がわかった
――漫画も描きつつ、キャラデザのお仕事も多数されて、昔との変化はありますか?
桂:漫画に関してはあまり変わりはないですけど、デザインに関しては『TIGER&BUNNY』をやって、やり方がわかったというか、楽しみ方がわかるようになりました。自分の中で妄想していって、形を構築していくのが楽しい。なぜこのキャラがこうであるのか?という理由がないと、ただ自分が好きに形を変えていくだけではダメなんですよね。このキャラはどういうやつですか?と聞いてキャラクターの情報が入ってくればくるほど、だんだん決まってくる。そういった部分で、より考える楽しさがデザインにはあるなと思います。それは、キャラクターデザインの仕事をしていないときには全然わからなかったので、そこは変わったというか、学んだところ、見つけ出したところです。
――キャラを起こすときに最近心がけていることは?
桂:それは特にないかな? その時のオーダーに応じて、流行りにのっかった方がいいかな?とか、これは少し外したほうがいいな、というのを判断します。でも、結局僕の絵なので、そこまで振り幅は変えられないんですけど。だから、とてもフラットでいようと思っています。依頼をいただいたときに、「どうしよう」とゼロから考えるというか。あまり我を出さないようにしている。その方がいいよなと思っています。でも、意外と作家を立てちゃうプロデューサーもいるので、逆に困るんですよね。
――ああ、なるほど。
桂:こういうの描いたけどどうかな?と聞いて、「いやぁ、いいです!これで!」と言われても逆に困るというか。どういったものが本当にほしいのかがわからないときは困ります。一番やりやすいのは、監督なりプロデューサーが明確なビジョンを持っているときです。
――そういった面でいうと今回は?
桂:今回は、やりづらさはないけど、いつもの感じだなと思いました(笑)。
和装で戦う平安牙狼をまた観たい
――ずっと応援しているという『牙狼〈GARO〉』の魅力を教えてください。
桂:『牙狼〈GARO〉』はちょっと複雑でわかりづらい設定であるように見えて、とても王道の作品なんですよね。わかりやすい勧善懲悪だし。雨宮さんてマニアックな人だと思っていたんですけど、あんなストレートな作品撮れるんだなと意外でした。僕は1作めからファンです。1作めは、ダークヒーローのような雰囲気の無口な主人公とヒロインもいい。
あと、僕は意外と『牙狼〈GARO〉 -魔戒ノ花-』が好きで。魔道具の少女・マユリの立ち位置がとても好きだったり、『牙狼〈GARO〉』に関しては雨宮さんが人間配置を良い感じにしてくれるなぁ、と思えるのが魅力ですかね。出てくる登場人物それぞれの立ち位置がとても魅力的に感じます。だから、キャラクターたちがどう生きてどう思っているのかが、『牙狼〈GARO〉』の作品の魅力だなと思っています。後輩にも「超面白いから見ろ!」と勧めていたくらい応援していたので、関われて本当に「やったー!」という感じでした。
――最近好きな特撮作品はありますか?
桂:最近はないんだよな~!……『アベンジャーズ』とかも観ましたけど、うーん……。でも、あれを観て「あ、黒澤明監督って偉大だな」と思いましたね。結局『七人の侍』じゃん、と思いましたからね。
――では、現状だと特撮をやったら『牙狼〈GARO〉』が一番好きな作品になるのかもしれませんね。
桂:そうですね~、でもなかなか続けてやってくれないから。特撮ではないけど、平安牙狼をもう1回観たいな。TVシリーズで地に足のついた平安牙狼を観たいです(笑)。
――どんなシーンを観たいですか?
桂:パンフレットのインタビューでも答えたんですけど、意外と平安ものは魔導着ではなくて、この和装で常に戦ってほしい。そういうシーンがもう1回観たいですね。星明もずっとそのままの格好でいいじゃん、と思うんですよ。あいつはちょっといい加減なキャラクターなので、ラフな格好になってもいいんですけど、やっぱり和装のまま戦って、それで魔戒騎士は鎧は着る。時代をさらに平安に寄せたものを観たいな、という欲求はありますね。
――最近興味があることを教えてください。
桂:(後輩であり、造形美術を手がける)竹谷隆之にいろんな芸術家が寄ってくるんだよ。あいつも自分で自在置物(じざいおきもの)とか作ってるんだけど、その本職の人と知り合いになったと言って。その人が作っている鉄で出来た置物が、最近興味あるものですね。その人はリアルサイズにこだわって、ありとあらゆる生き物を作っているんですよ。
自在置物は江戸の頃からあるんですけど、鎧とかを作っていた人たちが職を失って、可動するおもちゃを作ることを生業としたらしくて。「本物か?」と思うような見事な伊勢海老が鉄で出来ていたりするんです。それを未だに作っている人がいて、その人と竹谷が知り合いだと言って自在置物のミヤマクワガタの写真を見せてくれたんです。それの値段が今知りたいですね(笑)。あれは本物そっくりで見事な逸品だし、とても魅力的でした。
――自在置物調べてみます! では、最後に作品をご覧になる方にメッセージをお願いします。
桂: TVシリーズのSF感のある平安よりは、実際のあの時代にこういうことがあったのかも、と思わされる、とっても美しい日本を感じられる作品になっています。キャラクターも全員がそれぞれさらに深みを増しているので、そこが見どころだと思います。
――ありがとうございました!
ちなみに、前売り特典の色紙の星明は11回も桂先生自身でリテイクを重ねたものだとか!
桂先生も太鼓判を押す、『薄墨桜 -GARO-』の匂い立つような美しさをぜひ劇場で堪能してください。
予告映像:『薄墨桜 -GARO-』本PV/GARO PROJECT #150
https://youtu.be/hg_jcqvd_4I[YouTube]
「薄墨桜 -GARO-」2018年10月6日より新宿バルト9ほか全国ロードショー
【イントロダクション】
平安の世、栄華を誇る美しき都「京」。
見目麗しき二人の陰陽師が出会う時、
哀しくも儚い美しい桜が
1000年の時を経て咲き乱れるー。【スタッフ】
原作:雨宮慶太
監督:西村聡
脚本:小林靖子
メインキャラクターデザイン:桂正和
主演:中山麻聖「薄墨桜 -GARO-」公式HP:
garo-usuzumizakura.com
(C)2018「薄墨桜」雨宮慶太/東北新社
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