デキる人が実践している「商売の王道」とは?ーーマンガ「エンゼルバンク」に学ぶビジネス

デキる人が実践している「商売の王道」とは?ーーマンガ「エンゼルバンク」に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』の第20回目です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「いっそのこと独立起業したらって、僕が勧めたんだ」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第3巻 キャリア22より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが・・・。

ベンチャー企業の魅力とは「トップとの距離が近いこと」

転職代理人・井野が担当することになった北川は、大手商社に勤める32歳の一般職。新人の井野を見くびった北川は、井野から「ベンチャー企業の社長秘書などはいかがでしょうか?」と打診され、怒って帰ってしまいます。しかし、これまでにはない異色の提案に、なぜか心を惹かれます。

一方、井野は「なぜ海老沢が北川にベンチャー企業の社長秘書を勧めたのか?」の理由を計りかねていました。井野はヒントを求めて元同僚の弁護士・桜木を訪ねますが、出張で不在。そこで代わりに桜木の秘書から話を聞き、ベンチャーの魅力とは「トップとの距離にある」と気づきます。ここで、一計を案じた井野は、北川と2人でベンチャー企業の女性社長・岡本を電撃訪問。井野のやり方に不満を覚えつつも、北川はベンチャー企業に心が傾いていきます。

元来、冷静沈着でものごとを段取りよく進めることを得意とする北川。しかし気づけば、アポなしで岡本の会社の入り口に立っていました。慌てて帰ろうとする北川に、会社から出てきた岡本が気づいて声をかけます。ちょうど同じ頃、海老沢が井野を夕食に誘っていました。2人が向かった先は、とある料亭。何とそこには、岡本と北川が待っていたのでした。

顧客にとって本当に必要なものが、自社商品とは限らない

海老沢と岡本は、古くからの知り合いです。実はかつて、岡本が転職を希望して自分のもとにやってきた時、海老沢が岡本に独立起業を勧めた、という経緯がありました。海老沢が起業を勧めた理由とは、「岡本が経営者に向いている」と感じたからでした。

海老沢の持ち味の中でも、特に優れているのが「顧客にとってベストな提案ができる」という点にあります。これが一般的な販売員の場合だと、売っているのは顧客の欲しいものではなく、自分の売りたいもの――自社商品です。

確かに海老沢にとって、岡本を他の会社に転職させれば、自分の数字にはなったでしょう。ですが、海老沢はそうはしませんでした。たとえ岡本本人は気づいていなくても、「岡本にとって、転職はベストな選択肢とは言えない」と判断したからです。

「顧客が次の顧客を連れてくる」好循環こそ商売の王道

海老沢が狙っているのは、顧客を満足させた結果、 「顧客が次の顧客を連れてくる」サイクルの構築です。これこそ、商売の王道だと言えるでしょう。

話は、私がまだサラリーマンとして社内ベンチャー企業を経営していた時のことです。当時、私は日本全国に散らばる支店の全従業員を対象に、数ヶ月に一度、面談を行っていました。すると時々、従業員から「接客時に、自社商品を売るべきかどうか迷うことがある」という悩みを耳にしました。彼らは、「顧客の話を聞いているうちに、時には自社商品よりも他社商品が頭に思い浮かぶことがある」と言うのです。

そういう時、私はいつも「そういう時は、顧客を他社のお店の前まで連れて行って、その店舗スタッフに引き継ぐように」と指導していました。ここでもし、その場限りの売り上げを上げようと思ったら、顧客に対してムリやりにでも「この商品が一番いいです」と言って自社製品を売ってしまえばいいでしょう。しかし万一、その後で顧客が他のお店に行って希望通りの商品を見つけ、「こっちのほうが良かった」と思われてしまえば、心にわだかまりを残す可能性が残ります。逆に、満足するお買い物ができれば、商売のチャンスは続きます。

もともと、アウトレットモールとは郊外につくることが多く、それはさながら何もなかった広大な土地に、“一つの街をつくる”イメージです。街が発展するためには、人の流入が欠かせません。まずは何よりも、「街が賑わってこそのお店」なのです。ですから私は、常にモール全体の底上げを図ることを念頭に置いていました。

大事なのは「裾野を広げること」

海老沢の話に戻ると、その考え方は「自分たちが、有能な人材と企業とのマッチングを通じて、日本全体を動かす」という“日本支配計画の実現”に基づいていることがわかります。

大事なのは、今、目の前にある花を摘み取ることではありません。それよりは、「この花がタネとなって、そこからさらにどう増やしていくか?」ということのほうが何倍も大切です。それは結局のところ、「裾野が広がれば、それだけ自分たちの顧客も増える」という発想からきているのです。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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