言葉は「ひねり出そう」としてはいけない――ビジネス文章を速く書く“コツ”とは?

言葉は「ひねり出そう」としてはいけない――ビジネス文章を速く書く“コツ”とは?

ビジネス文章で、こんな悩みを抱えている人は少なくないのではないでしょうか。

「どうやって書いていいかわからない」「とにかく時間がかかる」「文章を書くのが辛い」「最初の一行が出てこない」「長文が困る」「上司に何度も差し戻しをされる」

そうなるのは、当たり前だ、と語るのは、著書『ビジネスにうまい文章はいらない』の著者で、年間12冊の本を書き上げるブックライターの上阪徹さん。ビジネス文章の基本的心得からビジネスメール、日報、感想文、SNSや長文まで、「書き方のマインド」が変わる全5回です。

プロフィール

ブックライター 上阪徹さん

上阪徹事務所代表。「上阪徹のブックライター塾」塾長。担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売り上げは200万部を超える。23年間1度も〆切に遅れることなく、「1カ月15万字」書き続ける超速筆ライター。

1966年産まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『10倍速く書ける 超スピード文章術』『書いて生きていく プロ文章論』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『成功者3000人の言葉』『リブセンス』『職業、ブックライター。』など。

1日300文字から、1時間4000文字へ

文章を書くことを生業にしている私ですが、ときどき周囲から驚かれることがあります。それは、私の書く仕事の量です。私は今も月に1冊ずつ本を書いています。本1冊はおおよそ12万字から15万字くらいになります。

しかし、私の仕事はそれだけではありません。雑誌やウェブサイトでインタビュー記事を書いたり、経済関係の記事を作ったりしています。3000字から5000字くらいの文字量の記事が多いので、月にすれば5万字は書いていると思います。

しかも、じっとデスク前に籠もっているわけではありません。週に何度も外出して取材をしています。打ち合わせも頻繁にあります。

しかし私は、フリーランスになって20数年、これまで一度も〆切に遅れたことがありません。なので、とにかく仕事詰めで休みなしで働いているのではないか、などと問われることもよくあるのですが、そんなこともありません。

講演やセミナーでもない限り、基本的に土日祝日は休みます。夏休みは2回取りますし、お正月もしっかり休んで故郷に帰省します。

おそらく想像するに、私は書くのがかなり速い、ということです。今では4000文字の原稿でも1時間ほどで書いてしまいます。

ただ、最初からこんなに速く書くことができたのかといえば、まったく違います。文章を書く仕事のキャリアのスタートは、求人広告のコピーライターからでしたが、当時は小さな広告の300字の原稿を書くのに、丸1日かかっていたりしたのです。

書くのは苦しくて、辛かった。なかなか仕事が前に進まなくて、悩んだ時期もありました。しかし、どうしてそんなことになってしまったのか、今ははっきりと理由がわかります。

言葉を「ひねり出そう」としてはいけない

文章を書くのに、時間がかかる理由のひとつは、第2回でご紹介した「呪縛」でした。「うまい文章を書こう」としてしまうこと。子どもの頃の「うまく書かないといけない」作文の呪縛です。

そしてもうひとつ、大きな理由に後に気づきます。準備ができていない、ということです。さぁ書こう、とパソコンの前に座った。でも、なかなか文章が出て来ない。当然です。準備が何もできていない状態で、パソコンの前に座ったとしたら、私も同じ状況になります。書く仕事をしているんだから、なんでもスラスラ書けるだろう、と勘違いしている人がいますが、それは大いなる勘違いです。

では、準備とは何か。何を書くのか、ということが、用意できている、ということ。私はそれを、「素材を用意する」と呼んでいます。

文章は何かひねり出した言葉でつむがなければいけないわけではありません。もちろん、そういうことができる小説家のような職業の人もいますが、多くの人はそうではない。

では、ひねり出した言葉でなくて、何が文章を作っているのか。それこそが、「素材」です。文章は実は「素材」でできているのです。この「素材」さえ、しっかり準備しておけば、書くことに悩まないし、書くスピードは格段に速くなるのです。

にもかかわらず、言葉を「ひねり出そう」としてしまうから、書くのに時間がかかるのです。文章の「素材」に目を向けるだけで、書くのはグッとラクになります。なぜなら、すでにある素材を並べ替えればいいだけ、だからです。文章は、それでいいのです。

ビジネス文章の多くは「素材」でできている

実は私自身、どうして速く書くことができるのか、長い間、なかなか言語化できないでいました。その秘密こそ「素材」にありました。

振り返ってみるに、私は文章を書いているようで、実は書いている意識がありませんでした。それよりも、話の内容=「素材」を伝えたい、という気持ちだけなのです。私の場合は、それをそのまま書いているだけ。だから、書くのが速くなったのです。

極論をすれば、“文章”を書こうとするからいけないのです。話の内容=「素材」にこそ目を向け、それをなんとかして伝えたい、と考えることが大切なのです。

実は、ビジネス文章の多くが、「素材」でできているからです。「素材」さえあれば、文章は書けるのです。

具体例を挙げましょう。2018年2月14日に掲載されたプレジデントオンライン「JALの顧客満足がどん底から復活したワケ」というタイトルの記事のリード文です。 1月24日、日本航空(JAL)が植木義晴社長の退任を発表した。植木社長は経営破綻からの6年間、再建のかじ取り役を務め、同社を生まれ変わらせた。ポイントはなんだったのか。『JALの心づかい』(河出書房新社)の著者・上阪徹氏は「『JALフィロソフィ』による意識改革の成果だ」と分析する。その内容とは。

ウェブサイトや新聞の記事を読むとき、その文章がどんなふうに生み出されているか、などと頭を巡らせる人は少ないと思います。しかし、改めて「この文章はどんな話の内容=素材からできているか」見てみてほしいのです。

この文章は結局、次の3つの素材からできています。

・1月24日、日本航空(JAL)が植木義晴社長の退任を発表した

・植木社長は経営破綻からの6年間、再建のかじ取り役を務め、会社を生まれ変わらせた

・『JALの心づかい』(河出書房新社)の著者・上阪徹氏は「『JALフィロソフィ』による意識改革の成果だ」と分析する

この3つの素材に、ほんの少し肉付けをし、上のリード文は構成されているのです。ひねり出した言葉や、気の利いた表現など、実はひとつもありません。

試しに手元のパソコンやスマホから経済記事を読んでみてください。ほとんどがこうして「素材」からできていることに気づけます。ひねり出した言葉など、ほとんどないのです。

素材を生み出すコツ「形容詞をできるだけ使わない」

実際、記事を書く記者は「取材」をしますが、それは文章の「素材」を獲得するためです。彼らはメモやICレコーダーを片手に「素材」を獲得するためにこそ、走り回っている。そして、そこで手に入れた「素材」が記事になるのです。

もっといえば、十分な素材がなければ、文章のプロたる彼らとて文章を書くことはできない、ということです。

メールも同じです。求められているのは、用件たる「素材」です。それを、わかりやすいように並べていけばいいのです。目を向けるべきは「素材」。それをしっかり用意することです。

では、「素材」とは何か。私は端的に、事実、数字、エピソード(コメント)の3つだとお答えしています。書籍で詳しく書いていますが、「読者ターゲット」、さらには「文章を書く目的」をきちんと意識すると、どんな素材を用意すればいいか、イメージしやすくなります。

そして文章をワンランクアップさせ、素材への意識を高め、書くスピードを速めてくれる、とっておきの方法がひとつあります。これは、どうして自分が文章を書けるようになったのか、気づきのヒントになったことでもありました。とてもシンプルです。

「形容詞をできるだけ使わない」

文章を書くのに時間がかかるのは、言葉をひねり出そうとしたり、気の効いたフレーズを思い出そうとしたりするからだと聞きますが、それは多くの場合、形容詞なのです。

しかし実際には、形容詞は文章でできるだけ使わないほうがいい筆頭の言葉だと私は思っています。なぜなら、形容してしまうことで、実は意外にも伝わらなくなってしまうからです。

形容詞でまとめたら、むしろ伝わらなくなる

私が書く仕事をスタートさせたのは、求人広告のコピーライターからでしたが、駆け出しの新人コピーライターが、必ずやってしまう、お決まりのダメな求人コピーがあります。

「当社は、いい会社です」

たしかにいい会社なのかもしれません。作り手は、職を探している人にお勧めですよ、と伝えたいのかもしれない。しかし、受け手にとってはどうでしょうか。ちっともいい会社に思えないのです。同じように

「当社は、素晴らしい会社です」

「当社は、素敵な会社です」

「当社は、なかなかない会社です」

こんなふうに書いても、伝わらないでしょう。

どうしてこんなことが起きてしまうのかというと、「形容詞でまとめようとしてしまった」からです。

そんなきれいな言葉でまとめるよりも、こんなフレーズを置いてみたらどうでしょうか。

「ボーナスが年6回出ます」

「社長が毎月、社員を食事に連れていってくれます」

「入社3カ月で課長に昇進しちゃった社員がいます」

このほうが、よほど会社の魅力が伝わるのではないでしょうか。お気づきだと思いますが、これは実は、素材そのものです。事実、数字、エピソードです。素材をそのまま置いたほうが、形容しようとするよりも、文章はよほど伝わるのです。

なのに、よかれと思って形容詞でまとめようとしたから、むしろ伝わらなくなってしまうのです。

素材=「事実」「数字」「エピソード」をこそ書かないといけない

求人の話に限りません。

「ものすごく寒い」

と書かれていても、どのくらい寒いのか、実は読む側にはピンときません。では、こんなふうに書かれていたらどうでしょうか。

「温度計はマイナス3度を示していた」

「窓の外のツララは20センチにも達していた」

「一瞬で手がかじかむので手袋なしではいられない」

こちらのほうが、よほど「ものすごく寒い」が伝わるのではないでしょうか。これもまた「事実」「素材」「エピソード」です。形容しないほうがいいのです。

逆にいえば、形容詞を使わない、形容詞を使わずにこのことを言いたい、ということになると、自然に「素材」に目が向くようになります。「事実」「数字」「エピソード」こそ、書かないといけないことに気が付くからです。

たしかに形容詞によって、情景をうまく描写する文豪もいるかもしれません。しかし、それができるのは、才能を持った特別な人たちだと思っています。凡人に同じことはできない。しかも、ビジネスの領域とは違いますから、そんなことをする必要はないのです。誰も、そんな文章はビジネスの文章で求めていないのです。

形容詞を使わない、と意識してみることです。そうすれば、素材に目が向きます。なんとかいい形容詞をひねり出そうとする時間も必要なくなります。そして形容詞を使うよりも、より読み手に伝えたいことを伝えられるようになります。

 

次回、最終回は「日報や感想文、出張レポートをいかに速く書くか」です。

参考図書

『ビジネスにうまい文章はいらない』

著者:上阪徹

出版社:大和書房

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