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川本三郎はサブカルチュアの世界を生き抜いてきたクリント・イーストウッドである(『映画の中にある如く』発売記念対談ロングヴァージョン<中篇>)

——『キネマ旬報』の長期連載「映画を見ればわかること」をまとめた川本三郎著『映画の中にある如く』が2月に刊行されました。今回は、長年“川本三郎本”を愛読されてきた北沢夏音氏と渡部幻氏に川本三郎さんの文章を“読むことの楽しみと驚き”について<前篇>に続いて伺ってみたいと思います。

<前篇はこちら>https://getnews.jp/archives/2057633[リンク]

文芸とジャーナリズム、両方を手がける

北沢 僕が大学に入ったのが83年で、映画への視野も広がり、アメリカンニューシネマの名作をひととおり観たいと思ったときに、作品のガイドとしては、フィルムアート社の『70年代アメリカン・シネマ103 もっともエキサイティングだった13年』(編集:筈見有弘+フィルムアート社+HOP企画、80年)、洋邦を問わず“陽のあたらない”B級映画の探索については、『朝日のようにさわやかに 映画ランダム・ノート』(筑摩書房、77年)』や『シネマ裏通り』(冬樹社、79年)などの川本さんの評論が指針になりました。ニューシネマに漂う”敗北感”や”孤独感”を川本さんが背負って書いておられる気がしたんです。

渡部 『シネマ裏通り』の単行本の帯文が傑作中の傑作なんです。表帯が〈Five O’clock Shadow 映画館にはいるのは いつも夕暮れ……〉、裏帯が〈マイナーな女優と 安ウイスキーをひっかけては 拳銃をぶっぱなしているハードボイルド・ヒーロー。結局映画のなかで好きなのはこの二つだ。〉、そして背帯には〈映画感傷〉とあり、〈I’m getting sentimental over you.〉とルビが振られている。

北沢 「感傷」という、ともすればネガティヴに受け取られがちな側面を持つ感受性を逆手にとった、徹底的にコンセプチュアルな帯文ですね。

渡部 あえて積極的に打ち出しています。

北沢 裏通り出身のアンチ・ヒーローの物語『あしたのジョー』(原作:高森朝雄、作画:ちばてつや、講談社、67~73年)で主人公・矢吹丈の好敵手・力石徹がジョーを倒したとき使った“ノー・ガード戦法”を彷彿とさせます。それでも、階級を越えるために行った過激な減量が死を招いた力石と違って、川本さんは、どんなに不当な攻撃を受けても決して倒れなかった。

渡部 ニューシネマの主人公たちはたいてい死んじゃうんですけどね、サム・ペキンパーとウォーレン・オーツの「ガルシアの首」(74年)のように。川本さんの60~70年代アメリカ映画の本といえば、『傍役グラフィティ 現代アメリカ映画傍役事典』(共編著:真淵哲、77年)と『女優グラフィティ』(共編著:小藤田千栄子、78年)も大切な本ですね。

北沢 そのあとに出た小藤田千栄子さんとの共編著『スキ・スキ・バン・バン 映画ディテール小事典』(80年)と併せて三部作となる、他に類を見ない画期的な映画事典をブロンズ社から出版されています。『スキ・スキ・バン・バン』は91年に河出書房新社から『ポケットいっぱいの映画 映画ディテール小事典A to Z』と改題された、ビデオ・インデックス付きの全面改訂版も出ました。

渡部 川本さんと小藤田さんが共同編集された『別冊太陽 アメリカン・ニューシネマ ’60~70』(平凡社、88年)も、印象深い一冊です。フィルムアート社の本は「アメリカン・シネマ」なので、パニック映画の大作なども入っているのですが、『別冊太陽』のほうは選出の基準が異なっています。“ニューシネマ”という言葉は曖昧な定義で、ときにフラッシュバックやスローモーションなどの技法的側面から語られることもありますが、川本さんは、そうした新しい技法を駆使することで、作者たちが描き出そうとした〈等身大のアメリカ〉に注目しています。映画を通じて、主流よりも支流、中心よりも周縁的な部分に目を向け、細部を拾い集めていく作業を通じて〈文化の群像劇〉を浮かび上がらせているんです。またその際に川本さんは、あくまでも〈人の体温〉が感じられる距離から離れません。人の生活、人の心模様、弱さの中の強さ、を見つめる路上の眼差しが、普遍的な〈言葉〉へと置き換えられることで、アメリカとアメリカ人に独特の性格を伝えつつ、同時に、同じ人間として身近な存在に感じられてくるんですね。

北沢 その本のなかで川本さんはこう記しています。「泣く男のイメージを新しくつくったのがアメリカン・ニューシネマだったのである」。男が弱かったり、やさしかったりすることを肯定的にとらえる感覚を教えてくれた……というより読者のなかにもともとあった弱さや、やさしさを「それでいいんだよ」と認めてくれるような原稿を川本さんはいつも書かれていた気がするんです。

渡部 ニューシネマ以前では50年代のマーロン・ブランドが”男が泣く姿”を演じていますね。ジェームズ・ディーンに到ってはいつも泣き顔です。彼らのあり様は、ジョン・ウェイン、ハンフリー・ボガード、クラーク・ゲイブル、ジェームズ・スチュアートの誰ともちがっていて、ブランドやディーン、またはモンゴメリー・クリフトが、全身全霊を込めて体現したのは、”大人”ではなく”若者”であり、“強さ”よりも“弱さ”、“明快さ”よりも“曖昧さ”だったと思います。それは男性像の再定義であると同時に、旧弊な価値観への反撃ともなって、おそらく戦後の若者たちの意識を揺さぶった。それがエルヴィス・プレスリーらのロックンロールなどと合流しながら、60年代後半から70年代になると、カウンターカルチャーを背景に、ブランドらの後輩にあたるダスティン・ホフマンやジャック・ニコルソンら、いわゆる“ニューシネマ世代”が台頭してくる。彼らは競うように男の”弱さ”を肯定し、ときにスクリーン上で涙を流してみせることによって、むしろ”強さ”の表れへと反転させていた。少なくとも、少年の頃のぼくの目にはそのように映っていました。

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