2022年から成人が18歳に引き下げ 何が変わる?法的責任や養育費など
成人年齢が2022年4月から18歳に引き下げられる
先日、成年(成人)年齢を現行の20歳から18歳に引き下げる改正民法が成立しました。改正法は、2022年4月1日から施行されます。では、今回の民法の成年年齢の引き下げや、その他の成年年齢の引き下げによってわが国にどのような変化が生じるでしょうか。
この点、民法の改正に先立ち、公職選挙法では、2015年に選挙年齢を18歳に引き下げる改正が実施されています。そのため、既に国政選挙でも18歳からの投票が実現しています。
そして、実は公職選挙法以外にも、成年年齢が関わる法令は200以上も存在します。民法の成年年齢を引き下げたからといって、他の法律の成年年齢もそれと一致させる必要はありませんので、法律ごとに成年年齢の引き下げの是非を検討する必要があるのです。
民法の成年年齢の引き下げの影響
では、民法の成年年齢の引き下げの影響について考えてみましょう。
本人の法律行為を親が取り消せなくなる(未成年者取消権)
もっとも大きく影響を受けるのは、未成年者取消権(民法5条2項)です。現行法だと、婚姻していない18歳、19歳の未成年者が親権者などの同意を得ずに行った売買などの法律行為は、後からでも取り消すことができます。これにより未成年者の保護が図られています。
これが改正法によれば、成年年齢の引き下げにより、18歳、19歳はこの取消権が使えなくなります。成年年齢の引き下げは、18歳、19歳の若者にとって、社会の中で自由に取引や経済活動をする領域を拡大させ自己決定権の尊重につながる一方で、”大人”として扱われるがゆえにこれまで特別に与えられていた庇護がなくなることを意味するわけです。
このため、若者の契約トラブル、消費者被害の増加を心配する声もあり、学生への消費者教育の充実が急務になっています。なお、この未成年者取消権と同様に、未成年者にとって不利な労働契約の解除権(労基法58条2項)も若者は失うことになる可能性が高いでしょう。
養育費の支払い時期も早く終わることになる可能性がある
さらに、民法の成年年齢の引き下げは、養育費の支払終了時期に影響する可能性があります。理論的には、養育費の支払時期を成年に達するまでとする法的根拠はないのですが、多くの実務では20歳までとする運用がなされています。この関係で、成年年齢を引き下げた場合に、養育費の支払時期も18歳に達するまでとされる可能性があるのです。これによって、貧困家庭などでは、事実上18歳以降の進学を断念せざるを得ない場面もでてくることが心配されます。
少年法適用年齢の引き下げもありえるが慎重な議論が必要
そして、民法の成年年齢の引き下げは、現在議論されている少年法の適用年齢の引き下げの議論にも影響を及ぼしています。しかし、少年法の適用年齢の引き下げは、慎重に議論する必要があると考えています。
実は少年事件は、近年急激に減少しています。社会には少年事件の厳罰化の声が強く存在しますが、少年法の適用年齢の引き下げで問題となる18歳、19歳の少年事件において、殺人や殺人未遂の割合は0.03%、傷害致死も0.02%に過ぎません。非行事件の半数以上は自動車運転過失致傷や道交法違反事件が占めているのが実態です。しかも、殺人事件などの重大犯罪については、現行法でも成人と同様に裁判員裁判で審理がなされますし、その是非はともかく、たとえ18歳であっても法律上死刑に処すことも可能なのです。
こうした客観的事実のなかでは、18歳、19歳を少年法の適用から除外するメリットを見出すことはなかなか困難です。他方で、適用年齢が引き下げられると、現在の、少年鑑別所のなかで様々な科学的調査のアプローチにより、少年の更生と再犯防止が図られている体制をわれわれ社会が失ってしまうことをしっかりと認識する必要があります。
個々の法律ごとに検討して引き下げの適用を判断することが重要
このように、成年年齢の引き下げ問題では、対象とする法律ごとに、そのメリットとデメリットを慎重に検討した上で、冷静な判断をしていくことが大切です。
(永野 海/弁護士)
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