ヤフー新社長・川邊健太郎氏が語る!―圧倒的当事者意識で、社会の課題解決に取り組む

ヤフー新社長・川邊健太郎氏が語る!―圧倒的当事者意識で、社会の課題解決に取り組む

国内最大級のアクティブユーザー数を誇るポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を基盤に、100以上のサービスを提供するヤフー。6年にわたって社長を務めた宮坂学氏に替わり、この6月から社長に就任した川邊健太郎氏。

前回お伝えした「モバイルペイメント新事業と、データフォレスト構想」を実現することで、日本の課題を解決し、社会インフラの改善を目指すという川邊氏の想いをお届けします。

ヤフー株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO) 川邊健太郎氏

学生時代に起業し、携帯情報端末から利用できるインターネットサービスの市場創造に携わる。その後に設立した会社が2000年にヤフーと合併。「Yahoo!みんなの政治」「Yahoo!ニュース」などのサービス責任者として活躍後、2009年から12年までは株式会社GYAOの代表取締役社長を務める。年間約100億円の赤字企業を2年で黒字に転換。2012年からヤフーの副社長 最高執行責任者に。2018年6月より代表取締役社長CEOに就任。

圧倒的当事者意識を持って、課題を解決するエンジンになる

——ヤフーのミッションは「課題解決エンジン」ですが、課題解決エンジンを体現する人材について教えてください。

自分でもいいですし、人が何か行動しているときでもいいのですが、その様子を見ていてそこに解決可能な課題を発見できる人、しかもその解決方法を具体的に考えられる人です。課題を解決することで、その後に社会がどう良くなっているかをイメージできることも重要です。

例えば、モバイルペイメントですが、レストランで食事を終えたらスマートに帰りたいけど、お会計をするためだけにレジに並ばなければならないというのは、最初は小さな、素朴な課題ですよね。この課題解決にスマートフォンが使えるんじゃないかという発想が生まれ、実際にモバイルペイメントを導入してみる。すると、決済がスマートになります。

しかしその影響はそれだけではないのです。モバイルペイメントが普及することでキャッシュレス社会が進み、現金を発行する、輸送するコストが削減されます。さらに、お金のやりとりがデジタル化されることで、様々なマーケティングサービスが効率化し、その恩恵は企業だけでなく消費者にも還元されるようになります。もっと大きく言えば、国民が納税する際の手間の削減や、マネーロンダリングなどの犯罪の抑止にもつながるかもしれない。

小さな目の前の不便を課題として捉え、それを一つひとつ改善していくことが、大きな社会変革を促すということが実際にあるのです。

最近、私は『世界をつくった6つの革命の物語——新・人類進化史』(スティーブン・ジョンソン著)という本を読みました。ガラスや電球、モノを冷やす技術などの発明がどれだけ人類の生活に大変化をもたらしたか。そして、その技術革新を担ったのは、目の前にある問題に懸命に取り組む人々だったことがわかります。

もちろん、最初から自分の小さな発見が歴史を変えるなんて想像できる人はいません。千年前の人類が、現代を想像できたはずもない。しかし、小さな発明、小さな偶然の積み重ねが今の時代を切り拓いてきたのはたしか。だからこそ、目の前の課題を発見して解決する能力が、私たちにも求められているのです。

――もう一つ、ヤフーでよく使われる言葉に「圧倒的当事者意識」というものがありますね。

何事についても、「実は俺も気づいていたんだよ」などと後からいう人がいますが、「気づいていた」だけで終わらせている人は、圧倒的当事者意識が低いと言わざるをえませんね。それに気づいた自分は当事者として何をしたのか。たとえその時は問題が解決できなかったとしても、そのプロセスから自分は何を学んだか、それが重要。圧倒的当事者意識を持って課題解決にあたるというのは、そういうことなのです。

当事者として課題に関わり、そこで失敗をたくさん繰り返すことで人は成長していくものです。このようなことを繰り返している人は話す言葉や行動一つにも表れるものです。

視野を広く持つ、最終的なビジョンを持つというのも、何もしない人が持てるわけはなくて、様々な試行錯誤や小さなアクション、失敗を繰り返しているからこそ、だんだん視野が広くなるし、大きなビジョンが持てるようになるのだと私は思います。若い人もそれなりのスケールで構わないので、失敗と成功を繰り返してきたキャリアをぜひ語ってほしいと思います。

社長自らが現場を歩く、風通しの良い風土はこれからも

――ところで、読者にとって気になるのは川邊さんがどういうタイプの経営者なのかということ。ご自分ではどうお考えですか?

一口で言えば、インターネットが大好きな経営者ですね。インターネットでビジネスする人はサービスが好きという人と、ビジネスモデルを考えるのが好きという人、大きく二つに分かれると思うんですけど、私はサービスから入ってますが、ビジネスに対しても好奇心は旺盛です。

自分の経歴を語れば、学生時代に電脳隊を起業し、1995年から2000年までやりきり、2000年に電脳隊を含めた4社によるジョイントベンチャーPIMがヤフーと合併して、2009年にGYAO!の社長になるまでの9年間はひたすらサービス作りをしてきました。おそらくヤフーの社員の中でも、最も多く新しいサービスを作ったプロデューサーだったと思います。

2012年からはヤフー副社長として、ビジネスや経営の視点を培い、結果的にサービスとビジネスの両方をバランスよく考えられるようになりました。個人としてはそういう機会をくれたヤフーに感謝しているし、これからヤフーに入ってくれる方にもそうしたビジネスパーソンとしての経験を積める機会をたくさん提供していきたいと思います。

――インターネット業界を志向する若い人の就職、転職においては、自分で起業する、ベンチャーに入る、大手企業を選ぶなど大きく3つの選択肢があると思います。その選択肢に迷う若い人にはどうアドバイスされますか。

昔に比べて、起業するためのコストが劇的に下がり、それを支援する仕組みも整ってきました。ただ一方で参入障壁も下がっていることは事実です。その中で、あなたが考えているアイデアが真に競争力があるのであれば、今すぐ起業したらいいんじゃないかと言いますね。

今はそれだけのアイデアが浮かばないのだとすれば、一旦はベンチャーに入り、ベンチャーだからできる経験や環境で働くという選択肢もあり得ると思います。

一方で、チームプレイが自分には合っていて、大きな課題解決への挑戦とそれを実現した後の達成感をみんなで味わいたいという人は、ヤフーや楽天のような大きな企業を目指すというのがよいのではないでしょうか。

――ヤフーがインターネット業界を牽引してきた歴史にリスペクトを感じると同時に、組織が大きくなってしまったがゆえの停滞感や、社内の風通しが良くないのではないかと感じている若い世代の人たちもいると思いますが、実際はいかがでしょう?

サービスが多岐にわたるので、全体の動きが外からは見えづらい部分はたしかにあるでしょうね。しかしそれぞれを分解してみれば、この数年でここまでアプリのダウンロード数を伸ばした会社はおそらく他にないですし、ここまでeコマースの取り扱い高を伸ばした会社も非常に少ないと思います。データを見れば停滞感などはなく、ちゃんとダイナミックに動いていることはわかるはずです。

ヤフーはたしかに大きな会社に成長しました。しかし中にいるとよくわかるんですが、時価総額が数兆円、社員も一万人以上の会社とは思えないほど、社内の風通しはよく、組織もフラットです。私が社長に就任すると発表した後に全国の拠点を訪問し、社員と直接対話する場を開きました。つい先日も高知のカスタマーサポートの拠点でミーティングを開いてきたばかりです。

――そこではどんなディスカッションになりましたか。

まず、私個人に興味を持っていただいていたようで、パーソナルな質問がありました。例えば、歴史上の好きな人物は誰ですかといった。場所柄、坂本竜馬以外言わせないぞという雰囲気がありまして、「坂本竜馬が好きです」と回答しました(笑)。カスタマーサポートの拠点は地方が多いんですが、人口減とか過疎化とか、地方ならではの質問も多かったですね。

もちろんこれもまたヤフーが取り組むべき重要な課題だと考えています。「All Yahoo! JAPAN」「個のチカラ」「発見・提案・改善」「圧倒的当事者意識」「やりぬく」といったヤフー社員の行動指針に沿って、これからも社員みんなと情報技術を活用して人々や社会の課題解決に取り組んでいきたいと考えています。 ――前編「リアルとの融合で、インターネットビジネスはもっと面白くなる」を読む

  取材・文:広重隆樹 撮影:刑部友康

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