「忖度がない」。テリー伊藤がピアッツァ・ネロを見て、いすゞの男気を語る!

▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

「いすゞブーム」到来でたどり着いたお店へ

今回は、「ISUZU SPORTS」で出合ったいすゞ ピアッツァ・ネロについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

昨年、急に自分の中でいすゞブームがやってきましてね。

暇さえあればカーセンサーnetでピアッツァや117クーペをあさっていたんですよ。そうやって懐かしのいすゞ車を物色していると必ずたどり着くのが今回お邪魔した「ISUZU SPORTS」です。

ここは日本唯一といわれるいすゞ車の専門店で、店ではいつも年配のいすゞ車ファンが話し込んでいます。素人がうかつに近づけないような、独特の雰囲気。

そこがおもしろくて、僕は4回も足を運んで今ではスタッフとも顔馴染みです。

スタッフもお客さんも、みんなとにかくいすゞ車に詳しくて、話を聞いていると大学の講義を受けているようで楽しいんですよね。だからつい「また行かなきゃ!」という気分になって、気づいたら4回も話を聞きにお店に出向いていたわけです。

いすゞピアッツァ(Photo:阿部昌也) ▲憧れのピアッツァのシートに座り、興奮!

▲憧れのピアッツァのシートに座り、興奮!

ご存じのようにピアッツァはジョルジェット・ジウジアーロの代表作です。

僕はピアッツァ、というか、いすゞの車を輸入車と同じような目で見ていましたね。だってこんなデザイン、当時の国産車にはなかったじゃないですか! 初めてピアッツァを見たときは衝撃的でした。

とくにショックだったのがインテリアです。

ウインカーやワイパーを操作する長いレバーがなく、ハンドルから手を離さなくても様々な電装品の操作ができる、他に類を見ないデザイン。

▲ピアッツァのコックピット。スイッチ類の配置が前衛的でした

▲ピアッツァのコックピット。スイッチ類の配置が前衛的でした

今でこそステアリングにいろいろなスイッチが付いていて、手元で操作できるのが当たり前になっていますが、当時はそんな発想自体がありませんからね。

メカ好きにはたまらない存在ですよ。まるで戦隊ロボットの操縦席のように感じました。

ピアッツァが世に出た1981年。僕は雑誌を見て衝撃を受け、どうしても実車をこの目で見てみたくなった。

でも、近くにいすゞのディーラーなんてなかったし、ピアッツァに乗っている友人もいなかったので、結局いつまでも「どんな操作感なのだろう」「どんな手触りなのだろう」と妄想するしかありませんでした。

いすゞピアッツァ(Photo:阿部昌也) ▲ピアッツァ・ネロの2Lターボエンジン

▲ピアッツァ・ネロの2Lターボエンジン

テリー伊藤なら、こう乗る!

ISUZU SPORTSで出合ったのは、いすゞがヤナセを通して販売したピアッツァ・ネロのイルムシャー。

角目4灯が特徴的です。僕はオーソドックスな2灯が好みですが、これも悪くない。

ただ、イルムシャーならではの装備で当時人気のあったリアウイングは外して乗りたいです。ピアッツァはおしりのラインがきれいですから。そこをリアウイングで隠さない方がいいと思います。

いすゞピアッツァ(Photo:阿部昌也) ▲僕ならこのリアウイングは外しちゃうな~

▲僕ならこのリアウイングは外しちゃうな~

ISUZU SPORTSの熊木さんによると、ピアッツァ・ネロの新車時価格は250万円くらい。今の車で言えば500万~600万円の価格帯のモデルだったといいます。

初代ソアラは300万円を切る価格帯でしたから、いすゞはソアラなどをライバルに見据えていたのでしょうね。

残念ながらソアラは排気量が大きく、またどんどん豪華になっていったため肩を並べることは叶わなかった。そんな切なさをかみしめながらピアッツァに乗るのも楽しいですよ。

もちろん華やかな車ですから、女の子を誘ってドライブっていうのもいいですよね。当時もデート目的で選んでいた人が多いでしょうから。

いすゞピアッツァ(Photo:阿部昌也) いすゞピアッツァ(Photo:阿部昌也)

エンジンは2Lターボ。でもそこまでスピードが出る車でもありませんから、気取らずに街中を流すような乗り方も気持ちいいでしょう。

ショーウインドウにピアッツァの美しいサイドラインが映るのを眺めたり、オープンカフェの前に止めて車を眺めながらお茶を飲んだりするのも楽しいと思います。

今回あらためてピアッツァを見て、「いすゞは志の高い自動車メーカーだった」と感じました。

イタリア人デザイナーを起用し、車を日本人に合わせたり、日本の街に合わせたりせずに作り上げる。

海外のメーカーと本気で渡り合おうという気概を感じます。1980年代前半は日本が成長したとはいえ、まだ貧しさも残っていた時代です。車は万人受けするものが多かった。

そんな中、これだけとんがったものを出したのですから。

また、現代は日本車もファミリーフェイスを持たせることが主流になっています。でもこの頃は、デザイナーが自分の生命をかけて渾身のデザインを生み出している。今で言うなら忖度がないんですよ。

ピアッツァからはとくにそれを強く感じます。

ピアッツァは維持も大変でしょうし、何より希少車ですから若い子たちに興味本位で選んではほしくない。

でも若い子たちにとってトラックメーカーというイメージしかないいすゞが、かつてこんなすごい車を作っていたということはぜひ知ってもらいたいですね。

▲デザイナーの心意気が伝わってくるスタイルは、今も色あせません!

▲デザイナーの心意気が伝わってくるスタイルは、今も色あせません!

いすゞ ピアッツァ・ネロ

2002年に日本での乗用車製造から撤退したいすゞ自動車が、1979年に発表したコンセプトカーをほぼそのままの形で発売したのがピアッツァ。ピアッツァ・ネロはヤナセから発売されたモデルで、角目4灯のヘッドライトが与えられた他、内装も高級感が高められている。ドイツのチューナーであるイルムシャーが足回りをチューニングし、MOMOのステアリングとレカロシートが備わるイルムシャーも設定。

text/高橋満(BRIDGE MAN)

photo/阿部昌也

■ テリー伊藤(演出家)

1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜金曜8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。

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