『安楽死を遂げるまで』にはいずれ誰もが直面する問題が描かれている——アノヒトの読書遍歴:舛添要一さん(後編)
元東京都知事の舛添要一さん。政治・経済などの分野で活躍する一方で、知事退任後の2017年6月に『都知事失格』(小学館)を出版しました。実は、これまでに単著だけで50冊以上もの本を上梓してきました。また、大の本好きという舛添さん、今は一日一冊は本を読むそうで、そんな舛添さんに前回に引き続いて日頃の読書の生活についてお伺いしました。
——舛添さんは当時、都知事としてさまざまな職務に携わっていたかと思いますが、その中で気になった一冊やおすすめの一冊があれば教えてください!
「石坂友二さんの『現代オリンピックの発展と危機1940‐2020:二度目の東京が目指すもの』という本。平昌オリンピックが終わり、いよいよ2年後の2020年には東京のオリンピックが開催されます。当時、私も都知事としてオリンピックとパラリンピックの準備に携わり、オリンピック関係者など世界中の人とたくさんお会いして、平昌の前のソチのオリンピックの閉会式にも行きました。そんななかでやはり2020年の東京を考えたときに、『大体オリンピックってなんなんだ?』『どういう風にして始まったんだ?』と思ったわけです。今オリンピックにはドーピングといった問題があるほか、複数の国が合同で参加するといった話が話題として挙がりました。これらのことを理解するには、やはり全体像が分かったほうがいいなということで、その全体像が的確にまとめられているのがこの本なんです」
——具体的にはどんな内容が書かれているのでしょうか?
「そうですね、オリンピックの全体像っていうのはなかなか皆さん分からない。東京オリンピックでは、1兆3千億円ぐらいという公式の費用の目論見が出ていますけど、私は3兆円は掛かるだろうと思っていて、それを言ったら『高く言い過ぎだ』って叱られたことあるんですが、しかし『何故そんなにお金が掛かるのか?』と。あんまりお金が掛かるもんだから東京の次の開催地として、パリとロサンゼルスしか手を挙げなくなってしまった。それで異例なんですけど、20年の次の24年はパリ、そのまた4年後の28年はロサンゼルスと、2つ一緒に決めないと候補になってくれるところがいない。こういった全体像が上手に書かれているのがこの一冊なんです」
——なるほど。全体像が分かるとオリンピックの見方も変わりそうですね。もう一冊何かおすすめの本がありましたらご紹介ください!
「宮下洋一さんが書かれた『安楽死を遂げるまで』という一冊。『安楽死』と言うと怖いなという感じがすると思うんですけど、実はスイスやオランダ、アメリカも州によっては安楽死が認められているんです。何故かというと、平均寿命が今延びているからなんです。私は厚生労働大臣をやってこの問題をずーっと考えてきたんですけども、日本人の男性はみんな80歳まで生きるんです。女性に至っては90歳です」
——寿命が延びたことが安楽死の容認に関わっているのですね。
「私も先般股関節の手術をしたんですけど、だんだん年をとってくるといろいろなところに故障が出てくる。中でも、今ガンにかかる人が非常に増えており、末期ガンの場合は非常に苦痛で、もう痛さがたまらないという…。それだとこの先何年も苦痛を共にすることになり、そういうときに安らかに死なせてあげた方が実は良いんじゃないか、という考えが出てきてもおかしくないわけです。いずれ家族の問題としてどんな家庭も捉えなければいけない問題なのではないかと思います」
——なるほど。確かに難しい問題ですね。
「ところが今ですね、仮にお医者さんがあまりにも見るに見かねて、安楽死、『尊厳死』という言い方をすることもあるんですが、それをしてしまうと殺人罪で問われてしまうんです。しかし本当にそれでいいんだろうかと。そして殺人罪で問われないためにはスイスまで飛んで行く。スイスの病院だったらやってもらえるから。それで、こういう実態をですね、この宮下洋一さんはずっとヨーロッパやアメリカを取材して、現実に『私は今から死ぬんだ』という人と一緒にいて、その方が注射を打って死ぬところまで見て、写真も撮って、ルポした非常に良い本といいますか、これだけのルポはなかなかないなぁと思います。医療の方や介護に関わっている方はもちろん、いずれ直面しなければいけない問題なので、どんな方も一度は読んでおいた方が良い一冊かと思います」
——舛添さん、ありがとうございました!
<プロフィール>
舛添要一 ますぞえよういち/1948年生まれ、福岡県八幡市(現北九州市)出身。国際政治学者、政治家。2001年7月、第19回参議院議員通常選挙に自由民主党公認で比例区から立候補し、参議院議員に初当選した。その後、参議院自由民主党政策審議会長、第8・9・10代厚生労働大臣、新党改革代表などを歴任し、2014年2月に第19代東京都知事に就いた(2016年6月退任)。その傍らで著書も多く出版し、『日本人とフランス人――「心は左、財布は右」の論理』(1982年、光文社)をはじめ、『東京を変える、日本が変わる』(2014年、実業之日本社)など、単著だけでその数は50冊以上にも上る。知事退任後の2017年6月には『都知事失格』(小学館)を出版した。
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