なぜ、デキない人ほど「時間がない」と嘆くのか?ーーマンガ家三田紀房インタビュー《後編》

なぜ、デキない人ほど「時間がない」と嘆くのか?ーーマンガ家三田紀房インタビュー《後編》

『インベスターZ』や『エンゼルバンク』『マネーの拳』など数々のヒットマンガを生み出している三田紀房先生。これまで30年に渡って、マンガ界のトップを走り続けてきた三田先生に、前編ではヒットマンガの「名セリフ誕生の舞台裏」についてお伺いしました。後編はビジネスにも応用できる「時間術」についてです。

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【プロフィール】

三田紀房

1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。

『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。

1月25日より『週刊モーニング』で『ドラゴン桜2』の連載がスタート。

自分が本当にやるべき仕事とは何か?

俣野:「タイムマネジメント」を中心にお伺いしていきたいと思います。現在、「時間がない」と悩んでいる方に対して、先生からアドバイスはありますでしょうか?

三田:やはり基本は「自分のやることを絞る」ということですよね。例えば、私の場合、自分で1から「本を読みます」「資料を集めます」・・・とやっていれば、どうしても時間とコストがかかります。まずは「自分は何に特化するべきか」を決め、それから「誰に何を任せるか」を考えていくことです。

俣野:今すぐ実現はできなくても、まずは「どうすればこの仕事を他人に渡すことができるか?」と考えることが第一歩ですね。

三田:はい。会社員であれば、通常はチームで動いているはずですし、人事異動で新人や後輩が配属されているかもしれません。その仕事に相応しい人を見つけたら、いつまでも自分が主体になるのではなく思い切って全権を委ね、任せてやってもらう勇気をもつことも重要です。ポイントは「役割を明示し、ルールをつくる」こと。さもないと、「これをあの人に頼んだら悪いかな?」とか「この仕事はこの人にお願いするべきか?」といったことを考えているうちに、時間は容赦なくすぎていきますから。

私は経営者にお会いする機会も多いのですが、実は忙しい人のほうが、意外に遊んでいるものです。たとえば「今度、食事でも」という話になると、「では明後日に」といった具合に、相手はすぐに都合をつけてくれます。「時間がない」と嘆いている人は、自分でやらなくてもいいことまでやってしまい、がんじがらめになっているのではないでしょうか。

俣野:「この仕事は本当に自分がやるべきなのか?」と自問し、行動してみることですよね。ところで、三田先生は毎日の仕事はルーティンワークで決めていらっしゃるのでしょうか?「何時に起きて」「何時にこれをやって」といったように。

三田:はい、そうです。年齢を重ねると、若いころのようにフルパワーでは動けませんので、仕事をルーティン化して、コンスタントに進めるようにしています。『ドラゴン桜2』を外部委託することにしたのも、「仕事を続けたいけれど体力的にキツイ。だったら、他人にお願いして描いてもらおう」という、シンプルな理由からです。

俣野:「外注する」までに、どのように素地をつくったのでしょうか?

三田:はい。これまで半年以上かけて、そのための準備を進めてきました。外注先には何度も出向き、絵の描き方をパターン化して、目から眉毛から、描き方をすべて教えました。間違いがあればその都度、「指摘して直してみせて」の繰り返しです。技術移転は終わったので、私の作業は実際の原稿のチェックをすればいいだけとなりました。

俣野:まさに「任せてやってもらう勇気」ですね。

三田:そうは言っても、絵だけですから。すべてを人に任せるわけではありません。ネームは私が描きます。ネームとは原稿のコマ割りを行い、セリフとキャラクターの配置を決めることです。マンガは、99%がネームで決まります。絵を描くというのは、それを行なった後の作業のことであって、実際はネームが命だと言っても過言ではありません。

確かに、マンガにとっては絵も重要な要素の1つであり、凝った絵を描いて読者を惹きつけているマンガ家もたくさんいます。それも立派な戦略の1つですが、私が彼らと同じ戦略を採ったとしても、競争に勝つことはできないでしょう。そうではなくて、私の勝てる領域、つまり「ストーリーで勝負する」というのが私の戦略です。その戦略に基づいて、絵を外注し、自分はさらにストーリーとネームに特化していくことにしたワケです。

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【プロフィール】

俣野成敏(またの・なるとし)

ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。著作累計は39万部超。『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』(日本経済新聞出版社)など。

それは「誰のためのこだわり」なのか?

俣野:もともと、日本人はクオリティ思考が高く、それがこれまで「ものづくり日本」を支えてきた基盤でもあります。けれど、マンガという商品が複合的な要素を持つ以上、「読者が本当に求めていることは何なのか?」ということも考えていかなければなりません。

三田:おっしゃる通りです。「日本人のこだわり」で言うと、たとえばコンビニに入ってみても、まるでメジャーで計ったように商品がきっちりと並んでいます。すごいとは思うのですが、時々「ここまでする必要があるのだろうか?」と感じることがあります。アメリカのスーパーなどでは、よく商品がぐちゃぐちゃに置いてあったりしますよね?でも、それで誰も何の不自由も感じずに買い物をしている。実はそういうルーズさも、人生には必要なのではないでしょうか。

大事なのは、「読者が納得するレベルに作品が仕上がっているかどうか」です。もともと、「凝り出すと際限がない」のがマンガです。ゴールもないし、正解もない。だから「100%を目指すことが大切だ」と言ったところで、何が100%なのかは、誰にもわからないのです。

世間では、「こだわりの○○」というのがもてはやされる傾向があります。売り手が、それをマーケティングの一環としてやっているのであればいいでしょう。しかしそうではなくて、顧客が目の前で待っているのに、「オレは絶対にパーフェクトのものしか出さない」とやっているのだとしたら、果たしてそれが誰にとっての利益になるのでしょうか?本当は、ただ単に自分を納得させたいだけなのではないでしょうか?

現在、私のマンガに直接、関わっているスタッフは15人くらいで、それ以外に、エージェンシーであるコルクや講談社といった取引先がいます。そこでも多くの人が働いていて、彼らにも家族がいます。関わっている人たちの重さに比べたら、自分1人のこだわりなど、どれほどの価値があるのでしょうか。

ましてや、『ドラゴン桜2』には「2020年には教育改革が本格始動する」という期限があります。受験業界や教育関係者は、情報を求めて誰もが切羽詰まっていることでしょう。確かに、ファンの中には「三田紀房が直接描いた絵が見たい」とおっしゃってくれる人がいるかもしれませんし、それはとてもありがたいことです。けれど、私は「マンガを通して、待っている人に一刻も早く情報を提供することこそが自分の使命だ」と考えているのです。

俣野:貴重なお話をありがとうございました。

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「時間がない」真の要因とは

さて。インタビューの後編はいかがでしたか?

変化のスピードがますます加速している現代。心の中で「時代から取り残されたくない」と焦り、見えないものをなりふり構わず追いかけながら、「自分の時間がない」と嘆いているのが今の私たちではないでしょうか。

今回の話のキモとは、「自分のこだわりと相手のこだわりは違う」という点です。相手が求めているものをタイムリーに提供してこそ、初めて商品としての価値が生まれます。同じように、タイムマネジメントも「世の中が自分に求めているものが何かを知り、そこにフォーカスをしていく」ことにヒントがあるのではないでしょうか?

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EDIT&WRITING:俣野成敏 PHOTO:平山 諭

俣野成敏(またの・なるとし)

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は39万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト

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