自宅をキッチンスタジオに改造!“本気キッチン”がある家(前編) テーマのある暮らし[3]
栄養士の資格を取得した後、現在はフードコーディネーターとして雑誌やテレビで活躍している落合貴子(おちあい・たかこ)さん。仕事柄、たくさんの料理をつくる機会が多いうえに、自身で料理教室を開催していることもあり、住んでいた自宅をキッチンスタジオにつくりかえてしまいました。まずは、その前編からスタートです。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。
対面式のカウンターキッチンを仕事専用のキッチンに
春日通りと白山通りに挟まれ、歴史と文学の香りが漂う街、文京区小石川エリア。落合さんのキッチンスタジオは、大通りから一歩奥まった静かな住宅街にたたずむマンションの一室にあります。
「こちらはファミリータイプのマンションで、最初は私たち夫婦と子どもの3人で住んでいました。当時からフードコーディネーターの仕事をしていたのですけれど、ふたり目の子どもが生まれたときに、この場所で生活と仕事を両立させるのは難しいと感じたため、住まいを引越してここを仕事場にすることにしました」
当時は、対面式のカウンターキッチンがあるリビングダイニングだったそう。しばらくは、そのままの状態で使っていたそうですが、仕事のボリュームが増えていくにつれて問題が生じてきました。食材から調味料、調理器具など、ただでさえモノがあふれやすいキッチン。「家族4人の暮らしと仕事場を分けることで、問題を解決しようと考えていました」(写真撮影/内海明啓)
デッドスペースをなくして動きやすく、間取りもとにかくフレキシブル
「家庭用のキッチンは、手の届く範囲でいろいろ動けて便利なのですが、仕事で使う場合は圧倒的に狭いんです。私ひとりならまだしも、ボリュームの多い仕事はアシスタントさんにお願いすることもあります。そうすると、窮屈だし、スムーズに動けません。それでも、なるべくデッドスペースを減らそうと、ワゴンをつくるなど自分なりにDIYをやってみたのですけど、やっぱり限界でしたね」と落合さん。
そんな落合さんが相談したのは、子どものつながりで知り合ったパパ友の建築士。「年齢的にも近いし、住宅を手掛けるために独立したことも伺っていたので、ちょっと聞いてみようかな、と(笑)。それが、リフォームのきっかけでした」シンクやコンロを壁側に寄せて、“見せる収納”にこだわったキッチン。ブルーのタイルがステンレスの風合いとマッチして、清潔感のある雰囲気を醸し出しています(写真撮影/内海明啓)
落合さんがこだわったのは、可能な限りデッドスペースをなくして、広くて動きやすいキッチンにすることと、使えるものをそのまま使って予算の範囲内におさめる、という点でした。
「シンクまわりはシステムキッチンのほうが安いのですが、サイズが決まっているためどうしてもデッドスペースができやすいんです。なので、ここはステンレス製のオーダーメイドでバッチリ予算をかけました」スパイスや調味料、調理器具がびっしり入っている調理台は、女性でも簡単に動かせます。「コンロが足りないときは、カセットコンロを置く場所にもなるんですよ」(写真撮影/内海明啓)
また、落合さんのキッチンは料理の撮影だけでなく、タレントさんが来てスタジオスペースとして貸す機会もあるのだそう。
「L字型やコの字型とかでキッチンをがっちりつくってしまうと自由に動けず、できることが限られてしまうんですよね。そこで、調理台にキャスターをつけて、移動できるようにしました。撮影内容に応じて、自由に間取りを変えられるようにしています」
床暖房をあきらめて無垢の床材にこだわった理由
リフォームを行ううえで、落合さんが最も悩んだのが床材。このリビングダイニングにはもともと床暖房が付いていましたが、それを活かそうとすると素材が限られてしまいます。
「私は、使えば使うほど味が出てくる素材が好きなんです。キッチンまわりにステンレスを使ったのも、ついた傷がいい味わいになるから。そこで、床材もユーズド感のある古木のような素材を使いたかったんです。だから、床暖房はあきらめて取ってしまいました(笑)」と落合さん。
いろいろなサンプルのなかから、落合さんが一目惚れしたのはこのカラフルな床材。
「海外の学校で使われていた床材を輸入して、アンティーク加工したもの。でも、いざ見積もりを見たら、想像をはるかに超えたお値段で、泣く泣くあきらめることに……。その床材をワンポイントとして、壁に貼ってもらうことにしました」「かわいい色合いの床材が貼られたこのスペースは、撮影のバックで使われるくらい大活躍しているんですよ」と落合さん(写真撮影/内海明啓)
そして、次の候補となった無垢の床材を選ぶことになったそうです。「学校施設の建築に携わっていた建築士の方が、体育館で使われている床材を見つけてくれました。傷も目立ちにくいし、自然なツヤも出て、結構雑に使ってもいい風合いを出してくれています」「取材撮影する方々が気を使って養生シートを持ってきてくださることもありますが、私自身はそのままでも気にしません。むしろ私のほうが傷付けちゃうくらいで、この床材にしてよかったと思っています」(写真撮影/内海明啓)
2部屋を遮っていた壁を抜いて、明るく広々としたスペースに
実は、リビングダイニングの隣にはもうひとつ部屋があったそうで、今回のリフォームで壁を抜いてゆとりあるスペースを確保しました。
「もともと隣の部屋は日当たりがよかったのですけど、1枚壁を取ったことでキッチンのほうまで明るくなりました。こちらの場所は、打ち合わせや料理教室、ケータリングのときなどに使うことが多いです。西日がスゴイですけどね(笑)。でも、エアコンや照明などの電気系統は、一切変えずにそのまま使えています」友人たちとワイワイ飲み会をする機会も多い、という落合さん。自家製の梅干しの下には、大好きなお酒もずらっと並んでいます(写真撮影/内海明啓)
部屋の隅は、お菓子づくりの道具や撮影のためのスタイリング用品、使用頻度の低い食器類を収納するスペースに。ここは、かつてクローゼットだったそう。扉をはずして棚をつけてもらい、こまごました道具もカテゴリ別に缶やカゴにまとめられ、すっきり収納されています。「お菓子の抜き型って、意外とスペースを取るんですよ。しかも、つくる料理によって大きさや形でニュアンスが変わるので、どんどん増える一方です」(写真撮影/内海明啓)
さて、本気キッチンがある家【前編】はここまでです。【後編】では、プロならではの視点で考えられたシンクやコンロまわり、“見える収納”にこだわった理由などをご紹介します。【後編】も、ぜひお楽しみくださいね。●後編はこちら
「優しく・おいしく・楽しく」がモットー、“本気キッチン”がある家(後編) テーマのある暮らし[3]●取材協力
・落合貴子さん
自然食品メーカーにてカウンセリングなどの実務経験を経て、フードコーディネーターに転身。多数の料理家アシスタントを務め、料理家として独立。現在2児の母親であり、テレビや雑誌などで「優しく・おいしく・楽しく」を心がけたレシピを提案している。
・一級建築士事務所 木暮建築設計室
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